第3章:深まる謎

 朝のホームルームが始まろうとしていた教室。

 柚子は周囲の生徒たちの会話に耳を傾けていた。


「ねえねえ、聞いた? 昨日の夜また、あの音がしたんだって」

「マジで? 私も聞いたよ。あのピアノの音ね」

「怖いよー。もしかして本当に幽霊とか……」


 柚子は眉をひそめる。一方、職員室では紬が他の教師たちの様子を観察していた。


(あの新任、妙に生徒たちと仲良くなってるな。まさか……)

(理事長先生、最近様子がおかしい。何か隠してるんじゃ……)


 紬は教師たちの心の声を拾いながら、「やっぱりアイツで確定やな」と心の中で呟いた。

 しかし、柚子の言葉を思い出し、すぐには結論を出さないよう自制する。


 放課後、柚子は図書館で古い設計図を発見した。それを現在の校舎と照らし合わせると、どうやら一致しない部分があるようだ。


「これは……秘密の部屋がある……?」


 柚子は興奮を抑えきれない様子で、紬に連絡を取った。


「紬さん、大変です! 学校に秘密の部屋があるかもしれません!」

「ほう、そうか。まあ、ワシにはとっくにわかっとったけどな」

「もう! 紬さん、どうしてそんなことが……」

「いっつも言うてるやん。それはワシが心を読めるからや」

「でもだからこそ、ちゃんとした証拠が必要だって言ってるじゃないですか!」


 ぷんすか怒る柚子を見ながら、紬はふと思う。


(でもな、柚子こいつの心だけは読まれへんねん……柚子には言うてへんけど、いつかその原因も究明せなあかんな)


 その夜、新たな怪奇現象が起きた。夜の廊下に、血のような赤い足跡が出現したのだ。翌朝、それを発見した生徒たちはパニックに陥った。


「きゃー! 幽霊よ、幽霊!」

「誰か先生を呼んで!」


 紅茶を飲みながらのんびりしていた紬は、騒ぎを聞きつけて現場に駆けつけた。

 足跡を一目見るなり、彼女は即座に正体を看破する。


「なんやこれ、特撮で使う血のりやで」


 周囲の生徒たちが驚いた表情を浮かべる中、柚子が紬の耳元で囁いた。


「紬さんが言うならそうなんでしょうけど、どうやってそれを証明するんですか?」


 紬は「チッ」と舌打ちをしながら「そんな面倒くさいこといちいちしてられるか!」と言いながらそっぽを向いてしまった。


 その日の午後、生徒会長の綾乃が紬と柚子に接近してきた。


「先生、佐々峰さん。実は私、この学校の怪奇現象について、お二人のお力になりたいんです」


 紬は即座に綾乃の心を読む。


(このお二人なら、きっと真相を明らかにしてくれる。私も協力しなきゃ)

(おっ、なんやこのはええ子やん)


 紬は微笑みながら答えた。


「ありがとう、綾乃さん。でも、なんで私達にそんなに協力してくれるのかしら?」

(うわっ、紬さんの東京弁きもっ!)


 柚子がげんなりした顔をする。

 綾乃は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔を取り戻した。


「実は私、先生と佐々峰さんが探偵だってことに気づいてしまって……そうですよね?」


 柚子が慌てて口を挟む。


「えっ! どうして分かったの?」


 大仰に驚く紬に、綾乃は少し照れくさそうに答えた。


「実は私、推理小説が大好きで。二人の行動を見ていたら、なんとなく……」


 これには紬はつくづく感心したように頷いた。


「なるほど、さすがは生徒会長さん。じゃあ、秘密で協力してもらおうかな♪」

「ちょ、ちょっと紬さん、それはさすがに……」


 柚子は少し不安そうな表情を浮かべながらも、紬の剛腕によって結局綾乃の協力を受け入れることにした。

 

 その夜、紬と柚子は密かに情報交換を行った。


「なあ、柚子。もう真相はほぼわかっとるんやけど。犯人は、あの……」

「だめです! まだ決定的な証拠がありません」

「はいはい。なんやもう、めんどくさいのう」


 紬はため息をつきながら、だるそうな表情を浮かべる。しかし、その目には確かな自信が宿っていた。聖マリア女学院の謎は、新たな局面を迎えようとしていたのである。

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