第4章:紬、窮地に立つ

 夜の帳が降りた聖マリア女学院。静寂に包まれた校舎に、一人の影が忍び込む。紬だ。


「もう、こんなことせんでもわかっとるのに……」


 紬は小声でぼやきながら、懐中電灯の明かりを頼りに廊下を進む。

 柚子から借りた設計図を確認しながら、彼女が発見したという不自然な部分を探していく。


「ここやな……」


 紬は古い壁の前で立ち止まり、慎重に手で触れてみる。すると、どこかで機械音がして、壁が静かに動き出した。


「おっ、やっぱりあったわ」


 現れた隠し通路に足を踏み入れる紬。

 しばらく進むと、小さな部屋に辿り着いた。


「ここが……」


 紬が部屋を見回していると、突然背後で声がした。


「やはり来ましたね、探偵さん」


 振り返ると、そこには予想外の人物が立っていた。

 理事長の三島だ。


「理事長はん……やっぱりあんたやったんか」


 紬は即座に三島の心を読む。


(これでは全てが終わってしまう……学園の秘密が……)


「おや、わたくしの心の声を読んでいるんですか? さすがですね」


 三島の言葉に、紬は驚いた表情を見せる。


「あんた……ワシの能力を知っとったんか?」

「ええ、だからこそあなたに依頼したのです。でも、こんなに早くここまで来られては……残念ですが、ここで終わりです」


 三島は引き出しから銃を取り出し、紬に向けた。

 しかしその手はわずかに震えていた。

 彼女の目には絶望と焦りの色が浮かんでいる。

 長年守ってきた学園の秘密が、今まさに崩れ去ろうとしていたからだ。


(こんなはずじゃなかった……本当は紬さんの力を借りて問題を解決したかったのに……)


 三島の心の中で後悔の念が渦巻いていた。

 紬を呼んだこと自体が間違いだったのではないか。

 その判断ミスが、今の状況を招いてしまったのではないか。


「理事長はん、まずはその銃、下ろしましょう」


 紬が静かに言った。


「ワシはあんたの気持ちもわかるし、生徒たちを守りたいっていう思いも理解できるんや」


 三島の目が驚きで見開かれた。紬の言葉に、彼女の決意が揺らぐ。

 しかし、紬の能力の恐ろしさを実感した三島は、もはや逃げ場がないという恐怖に駆られていた。


「でも……貴女をこれ以上進ませるわけにはいきません」


 三島の声が震える。


「私には、守らなければならないものがあるんです」


 紬は静かに三島に近づいていく。


「そんなこと言わんとワシらと一緒に新しい道を見つけていけばええやん」


 紬は内心冷や汗を流しながらも、冷静さを失わない。

 だが紬に向けられた銃口がさげられることはなかった。


「しゃーない、冥土の土産や。ワシが死ぬ前に、あんたが仕掛けた怪奇現象の真相を聞かしてもらおか」


 三島は微苦笑を浮かべる。


「構いませんよ。どうせここであなたは……」


 その時、突然部屋に別の人影が飛び込んできた。


「紬さんッ!」


 柚子の声だった。

 彼女は紬の身を案じて後をつけていたのだ。


「柚子!」


 一瞬の隙をついて、紬は三島に飛びかかる。

 お得意の格闘技で三島の関節を極め、見事に彼女を取り押さえた。


「ふう……危なかったわ。助かったで、柚子」


 紬がほっとした表情を浮かべると、柚子が駆け寄ってきた。


「もう! 無茶しすぎですよ!」

「最初から言うてたやろ、こいつやって」


 紬は得意げに言うが、柚子は真剣な表情で応じる。


「分かってます。でも、こんな危険な真似をして……」


 柚子の目にうっすらと涙が浮かぶ。紬は申し訳なさそうに頭をかく。


「すまんすまん、これからは気をつけるって」


 二人が見つめ合っていると、やがて三島が口を開いた。


「私の負けです……全てお話しします」


 やがて三島は訥々と語り出した。


 紬と柚子は顔を見合わせ、頷いた。

 真相究明はまだ終わっていない。二人の前には、さらなる謎が待ち受けているのだった。

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