【軽探偵推理小説】読心美人探偵・紬(つむぎ)の華麗なる推理遍歴

藍埜佑(あいのたすく)

第1話『心を読める美人探偵と女子高の七不思議』

第1章:不可思議な依頼

 大阪の喧騒が朝もやに包まれる中、つむぎ・ゴンザレスの探偵事務所に新しい一日が始まろうとしていた。

 ガラス越しに差し込む朝日が、乱雑に積み上げられた書類の山を照らし出す。

 その光景を尻目に、紬は優雅にソファに腰掛け、朝一番の煙草に火を点けた。


「もう、紬さん! また煙草ですか? 健康に悪いって何回言えば……」


 事務所に足を踏み入れるなり、紬の助手である佐々ささみね柚子ゆずが呆れたような表情で声を上げた。


「おはようさんや、柚子。ワシのぶんも買うてきてくれたんか。さすが気が利いとるやないか」


 紬は煙草を吸いながら、にやりと笑った。

 柚子の手には、朝のコーヒーが入った紙カップが二つ。


「もちろんです。でも、それと煙草は話が別ですからね」


 柚子は真剣な表情で紬を見つめる。


「しかしいつ見ても自分、ちっちゃいおっぱいしとるのお~」


 そう言って紬は自分の胸をわざとらしくたゆんたゆんと揺らす。

 柚子の目がキッと厳しくなる。


「紬さん、朝から最低ですね。それ完全にセクハラですからね」


 二人のいつもの朝のやり取りが始まろうとしたその時、事務所のドアが開いた。


「失礼いたします」


 厳かな雰囲気を纏った中年の女性が、おずおずと事務所に足を踏み入れた。


「あら、もうお客様?」


 柚子が驚いた様子で声を上げる。


 紬はソファから立ち上がり、にこやかに女性に近づいた。


「まいど。ワシが探偵の紬や。今日はどないしはりましたん?」


 女性は深々と頭を下げると、おもむろに話し始めた。


「わたくし聖マリア女学院の理事長を務めております、三島と申します。実は、本校で奇妙な出来事が続いておりまして……」


 理事長の話を聞きながら、紬は目を細める。

 彼女の特殊能力が発動し、理事長の心の声が聞こえ始めた。


(この探偵さんに頼むしかない。でも、もし学校の秘密が暴かれたら……)


「はは~ん。ワシもう犯人わかったで」


 突然、紬が口を開いた。

 理事長は驚いた表情を浮かべる。


「え? わたくしまだ何も申し上げておりませんが……?」

「紬さん!」


 柚子が慌てて制止する。


「いつも言ってるでしょ! 紬さんは心が読めても、一般の人はちゃんとした『推理』がないと納得してくれないって!」


 柚子は小声で紬をたしなめる。

 紬は不満そうな表情で柚子を見る。


「なんやもう……犯人はわかっとるのにめんどくさいのう」


 理事長は困惑した様子で二人を見つめている。

 柚子は慌てて取り繕う。


「申し訳ありません。それで、具体的にはどのような出来事が?」


 理事長は落ち着きを取り戻し、学校で起きている怪奇現象について説明し始めた。

 幽霊の目撃情報、物が勝手に動く現象、奇妙な音の発生など、まるで学校の七不思議のような出来事が続いているという。


 説明を聞き終えた紬は、退屈そうな表情を浮かべていた。仕方なく柚子が依頼を引き受けることを告げた。


「分かりました。調査させていただきます」


 理事長が安堵の表情を浮かべる中、紬と柚子は目配せをした。


「ところで理事長はん、ウチらが潜入捜査するのはかめへんか?」

「え? 潜入捜査ですか?」

「そうや。ワシがクールな英語教師で、柚子がプリティな転校生や」

「えーっ!? ちょ、ちょっと柚子さん!?」


 柚子は驚いた様子で紬を見つめる。

 しかし、理事長は少し考えた後、頷いた。


「分かりました。そのように手配いたします」


 こうして、紬と柚子の聖マリア女学院潜入捜査がなし崩し的に決定した。

 事務所を後にする理事長を見送ったあと、柚子は紬に怒鳴り散らした。


「ちょっと柚子さん! 潜入捜査とか何勝手なこと言ってるんですか!」

「かめへん、かめへん。ま、ちょっと考えてみ? そっちの方が絶対面白そうやろ?」

「あ、あたしは絶対嫌ですからね! この歳になって高校生の恰好なんて!」

「いや、柚子やったら絶対ばれへんと思うで?」


 紬はにやにやしながら、柚子のスレンダーボディを舐めまわすように見つめる。


「こ、この脳筋探偵が! 何度も言いますけど、それ完全なセクハラですからね! 訴えますよ!」

「あー、好きにしたらええがな」


 はあ、と小さくため息をついて柚子は続けた。

 

「で、紬さん、本当に最初から犯人が分かっているんですか?」


 紬はニヤリと笑う。


「まあな。しかし面白くなりそうやで、この事件」


 その言葉に、柚子は少し不安を覚えながらも、若干期待に胸を膨らませるのだった。

 頭は脳筋だが、この紬・ゴンザレス、探偵としての腕は確かなのだ。

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