第5章:真相への接近

 捜査3日目、紬と柚子は重要な発見をする。高島のアトリエの一室、普段は立ち入り禁止のプライベートオフィス。高級な木材で作られた書斎机の前で、二人は真剣な表情で向き合っていた。


「紬さん、これを見てください」


 柚子がタブレットを差し出す。画面には複雑なグラフと数字の羅列が表示されている。柚子の卓越したクラッキング技術の前では社外秘の取得など赤子の手をひねるも同然だ。


「高島さんの会社の財務諸表です。ここ数年、急激に業績が落ち込んでいます」


 紬は目を細める。その瞳には、何かを悟った色が浮かんでいた。


「ほう……これは興味深いやないか」


 紬の声には、いつもの軽さは感じられない。


 さらなる調査で、高島が莫大な借金を抱えていたこと、そしてその借金の出所が闇金融だったことが判明する。オフィスの隅に置かれた高級ブランドのバッグの中から、借用書の束が見つかった。


「紬さん、これは……」


 柚子の声が震える。紙面に記された法外な金利に、彼女は愕然とする。


「ああ、高島はん、よっぽど追い詰められとったんやな」


 紬の声には、珍しく同情の色が混じっていた。


 一方、盗まれた衣装については意外な事実が明らかになる。


「紬さん!」


 柚子が駆け寄ってくる。彼女の表情には、興奮と困惑が入り混じっていた。


「衣装が見つかりました。でも……」

「でも、なんや?」


 紬の声に焦りが混じる。


「盗んだのは、ライバルデザイナーの藤堂さんだったんです。でも彼女、『高島さんに頼まれて盗んだ』と証言しているんです」


 紬はニヤリと笑う。その表情には、すべてを見通したような自信が浮かんでいた。


「やっぱりな。ワシの読んだ心の声と一致するわ」


 二人は事件の全貌が見えてきたことを確信する。高島の借金、衣装の偽装盗難、そして業界の闇。全てのピースが、少しずつ繋がり始めていた。

 しかし、それを証明する決定的な証拠がまだない。紬と柚子は、アトリエの大きな窓から大阪の街並みを見下ろす。夕暮れ時の街の喧騒が、遠く微かに聞こえてくる。


「柚子、最後の大舞台や」


 紬が真剣な眼差しで言う。その目には、決意の色が宿っていた。


「明日のショー、予定通り開催されるらしい。そこで全てを暴いたるで」


 柚子は不安そうな表情を浮かべる。その目には、これまでの苦労と、これからの試練への覚悟が混ざっていた。


「大丈夫なんでしょうか……」

「大丈夫や」


 紬が柚子の肩を叩く。その仕草には、普段の軽さとは違う、重みが感じられた。


「大船に乗った気でワシにまかせとき!」

(その大船、これまで何回も沈んでますよね、紬さん……)


 柚子の心の声をよそにガハハと笑う紬。

 その笑い声は、緊張感漂う部屋の空気を一瞬にして和ませた。


 窓の外では、大阪の街に夜の帳が降り始めていた。ネオンの光が、まるでファッションショーのスポットライトのように煌めいている。


 明日、全ては明らかになる……。


 紬と柚子は、これまでの捜査を振り返りながら、来るべき決戦の時を静かに待っていた。アトリエの中は、静寂に包まれていたが、二人の心の中では、嵐の前の静けさのような緊張感が高まっていた。

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