第6章:事件解決
ファッションショー当日。「ル・グラン・ブルー」の大ホールは、華やかな雰囲気に包まれていた。シャンパンゴールドの壁紙が施された会場には、シャネルやディオールといった一流ブランドに身を包んだ業界関係者やセレブリティたちが集まっていた。空気中には、高級な香水の香りが漂う。
バックステージでは、スタッフたちが慌ただしく動き回っている。メイクアーティストがモデルたちの仕上げに余念がない。ヘアスタイリストは、最後の仕上げにヘアスプレーを丁寧に吹きかけている。その光景は、まるで戦場の準備のようだった。
「ル・グラン・ブルー」の大ホールに、期待に満ちた静寂が漂う。観客席には、ファッション業界の重鎮たちが緊張した面持ちで座っている。そして突然、華やかな音楽が鳴り響き、ショーの幕が開く。
最初のモデルが姿を現す瞬間、会場全体が息を呑む。彼女が纏うのは、銀河をまとったかのようなシルバーのミニドレス。全面に散りばめられたスパンコールが、スポットライトを受けて無数の星のように輝く。ドレスの丈は大胆に短く、モデルの長く伸びた脚を惜しげもなく披露している。彼女の足元には、クリスタルがあしらわれたシルバーのハイヒール。その一歩一歩が、まるで月面を歩くような幻想的な雰囲気を醸し出す。
モデルは颯爽とランウェイを歩み、その姿は観客の目を釘付けにする。彼女の歩く姿は、まるで夜空を舞う流星のよう。ランウェイの先端で彼女が華麗なターンを決めると、会場から大きな歓声が沸き起こる。
次に登場したのは、深い森を思わせる緑のベルベットドレス。しっとりと光沢のある生地が、モデルの体の曲線を美しく強調する。胸元には大胆なVカットが施され、モデルの繊細な鎖骨が月明かりに照らされたように浮かび上がる。ドレスの背中は大きく開かれ、モデルの引き締まった背中のラインが艶やかに露出している。
このモデルの歩き方は、まるで森の精のように優雅だ。彼女の一挙手一投足が、ドレスの生地を美しく揺らし、まるで緑の波が打ち寄せるかのような錯覚を起こす。彼女がランウェイの先端でポーズを取ると、ドレスの裾が大きく広がり、まるで孔雀が羽を広げたかのような壮観な光景が広がる。
カメラのフラッシュが、まるで夏の夜空に咲く花火のように次々と焚かれる。その光の中、モデルたちの姿がより一層輝きを増す。
続いて登場したのは、朝焼けの空をイメージしたグラデーションドレス。裾に向かって徐々に色が変化し、オレンジから淡いピンク、そして薄い青へと移り変わっていく。ドレスの胸元と裾には、オーロラのように輝くビーズが散りばめられ、モデルが動くたびに光の粒が舞い散るかのような幻想的な光景が広がる。
このモデルの歩き方は、まるで雲の上を歩いているかのよう。彼女の足さばきは軽やかで、ドレスの裾が空気を切る音さえ聞こえてくるようだ。ランウェイの先端で彼女が両手を広げると、まるで翼を広げた鳥のように見え、会場から大きな拍手が沸き起こる。
ショーは次々と展開し、モデルたちは次々と登場する。純白のウェディングドレス、大胆な赤のイブニングガウン、エレガントな黒のパンツスーツ。それぞれの衣装が、異なる物語を紡ぎ出すかのように、観客の心を揺さぶる。
モデルたちの姿は、単なる洋服を着た人間ではない。彼女たちは、デザイナーの想像力と職人の技術が生み出した芸術作品の、生きた展示台となっている。その一挙手一投足が、ファッションの持つ力と美しさを雄弁に物語っている。
観客席からは、驚嘆の声や賞賛の言葉が次々と漏れ出る。ファッション誌の編集者たちは、熱心にメモを取り、次の特集の構想を練り始めている。バイヤーたちは、既に頭の中で注文数を計算し始めている。
トリを飾るはずだった紬の出番が近づいてきた。彼女は、高島がデザインした純白のウェディングドレスに身を包んでいる。胸元から裾にかけて、繊細な刺繍が施されたそのドレスは、まさに芸術品と呼ぶにふさしいものだった。
しかし、ランウェイに登場するはずの紬の姿はない。
観客がざわめき始めたころ、紬はようやくランウェイの端に立った。
そして突然マイクを手に取り、観客たちに向かって話し始める。
「みなさん、聞いてください。このショーには大きな秘密があるんです!」
(うわっ、紬さんの東京弁きもっ! 声、高っ!)
スタッフとして舞台の袖で待機している柚子に肌にサブいぼ……もとい、鳥肌がたつ。
紬の声が、「ル・グラン・ブルー」の大ホールに響き渡る。
純白のウェディングドレスに身を包んだ彼女の姿は、今や皮肉にも真実を告げる「純白の証人」となっていた。
「このショーの裏には、誰も想像しなかったとんでもない真実が隠されているんです!」
再び響く紬の言葉に、会場全体がシーンと静まり返る。
観客たちの表情が、好奇心と不安で硬直する。
「高島美也子、このブランドのオーナーデザイナーは、多額の借金を抱えていました。その借金の出所は、闇金融。彼女は、返済のために違法な手段に手を染めていたんです」
紬の言葉に、会場からどよめきが起こる。
ファッション誌の編集者たちが、慌ててスマートフォンを取り出し、速報を打ち始める。
「このショーのメインピースとされていたドレスの盗難事件。あれは全て高島の自作自演でした。巨額の保険金を得るための保険金詐欺という卑劣な計画だったんです」
観客席から悲鳴に近い声が上がる。前列に座っていたファッション業界の重鎮たちの顔が、みるみる青ざめていく。
「そして高島は、若手デザイナーたちのアイデアを盗んでいました」
紬の言葉に、会場からどよめきが起こる。
若手デザイナーの一人の心の声が、紬の耳に飛び込んでくる。
(やっぱり……あのデザイン、私のスケッチそのものだったもの……)
その声には、怒りと悲しみが混ざっている。
「そればかりか、モデルたちに違法な薬物を使用させていたのです」
観客席の前列に座るトップモデルの内なる叫びが聞こえる。
(ああ、ついにばれてしまった。でも、あの薬がなければ、私はとっくに……)
その声には、恐怖と依存の色が濃く滲んでいる。
「さらには、取引先への脅迫まで。高島は、自身のブランドを守るためなら、手段を選ばなかったのです」
アパレル会社の重役の動揺が、紬に伝わってくる。
(まさか、あの脅迫メールが表沙汰に……俺の会社はどうなるんだ……)
その思いには、パニックと自己保身が入り混じっている。
紬の告発が進むにつれ、会場の空気が変わっていく。最初は驚きと混乱だったものが、次第に怒りと絶望に変わっていく。
ファッション誌の編集長の複雑な思いが、紬の意識に流れ込む。
(高島のブランドを推してきた私たちも、共犯者だったのか……読者にどう謝罪すればいいんだ……)
その声には、自責の念と、業界への失望が込められている。
若いモデル志望の女性の心の叫びが聞こえる。
(こんな世界に、私は憧れていたの? でも、夢を諦めるべき? 私はどうすればいいの?)
その思いには、幻滅と迷いが渦巻いている。
カメラマンたちのフラッシュが、まるで稲妻のように激しく光る。その閃光が、紬の純白のドレスに反射し、彼女の姿をより一層神々しく見せている。しかし、カメラマンの一人の内なる声が、紬に届く。
(これは大スクープだ。でも、この記事で業界全体が揺れる。俺たちの仕事は……)
その思いには、興奮と不安が入り混じっている。
紬の目が、会場を見渡す。そこには、様々な感情に揺れる人々の姿があった。怒り、悲しみ、絶望、そして微かな希望。それらが複雑に絡み合い、会場全体を異様な雰囲気で包み込んでいる。
紬の声が、さらに力強く響く。
「これが、この業界の闇の真実です。しかし、私はこの告発が、新たな始まりになることを信じています」
その言葉に、会場の空気がわずかに変化する。絶望の中に、かすかな希望の光が差し込むような瞬間だった。
紬の背後で、柚子がそっと微笑む。彼女の目には、紬への誇りと、これから始まる新たな戦いへの決意が宿っていた。二人の探偵の前には、業界を変革するという大きな課題が横たわっている。しかし、真実を明らかにした今、その第一歩を踏み出したのだ。
カメラのフラッシュが、まるで紬たちの決意を祝福するかのように、ますます激しく焚かれていく。その光の中で、ファッション業界の新たな章が、今まさに幕を開けようとしていた。
同時に、会場の裏手では別の動きが始まっていた。柚子が、多田刑事に厚い書類の束を手渡している。
「これが全ての証拠です。高島の違法な取引の記録、脅迫のメール、違法薬物の購入履歴……全て揃っています」
多田刑事は、書類に目を通しながら頷く。
「さすがだ、柚子君。これだけあれば、起訴は間違いないな」
多田刑事の合図で、待機していた警官たちが一斉に動き出す。
バックステージでは、高島の共犯者たちが次々と逮捕されていく。メイクアップアーティストを装っていた薬物の売人、会計担当として経理を操作していた元暴力団員、若手デザイナーたちを脅迫していたボディガード。彼らが次々と手錠をかけられ、連行されていく。
会場の出入り口では、逃げ出そうとする関係者たちを警官たちが取り押さえている。高級そうなスーツに身を包んだ男性が、必死に抵抗するも、あっけなく組み伏せられる。
「放せ! 私は何もしていない!」
男の叫び声が、会場に響き渡る。しかし、それは真実を覆い隠すには無力すぎた。
紬は、この騒動の中心で毅然と立っている。彼女の姿は、まるで嵐の中心で静かに佇む灯台のよう。その目には、悲しみと怒り、そして未来への希望が混在している。
カメラのフラッシュが再び焚かれる。しかし今度は、それは真実を照らし出す光のように感じられた。ファッションショーは、思わぬ形で幕を閉じたが、それは同時に、新たな物語の始まりでもあった。
しかし紬は、そこで話を終わらせなかった。彼女は、純白のウェディングドレスに身を包んだまま、さらに力強く語り始める。
「でもな、これは高島はんだけが悪いんやない。この業界全体の体質が彼女を追い詰めたんや。華やかな表の顔の裏に隠れた醜い現実……それと向き合わんと、本当の美は生まれへんのやないか?」
紬の真剣な言葉に、会場は静まり返った。観客たちの表情には、驚きと羞恥、そして何かを悟ったような複雑な感情が浮かんでいる。
そして紬が正直だるくなってきて東京弁をやめたことを、誰も突っ込まない。
紬の言葉が引き続き会場に響き渡る。純白のウェディングドレスに身を包んだ彼女の姿は、まるで真実を説く預言者のようだ。スポットライトに照らされた紬の表情には、これまでの捜査で見てきた業界の闇への憤りと、それを変えたいという強い意志が浮かんでいる。
「ル・グラン・ブルー」の大ホールに、紬の声が響き渡る。純白のウェディングドレスに身を包んだ彼女の姿は、今や告発者から導き手へと変貌していた。
「自分ら、こっからは真剣に聞きや!」
紬の声には、これまでにない重みがある。
その声が会場に沁み渡ると、一瞬にして静寂が訪れた。
紬は深呼吸し、語り始める。
「ファッションって、ほんまは素晴らしいもんやと思うんや。人を美しく飾って、自信を与えて、幸せにする力がある」
ベテランデザイナーの心の声が聞こえる。
(そうだ……私はそのために、この世界に入ったんだ……)
その声には、懐かしさと後悔が混ざっている。
「でもな、その美しさを作り出す過程で、誰かが傷ついたり、苦しんだりしてもええんか?」
若手モデルの内なる叫びが響く。
(そうよ! 私たちの苦しみは誰にも分かってもらえなかった……)
その思いには、長年の苦悩と、やっと理解してもらえたという安堵感が込められている。
「デザイナーさんやモデルさん、それにスタッフのみんな。みんな、ファッションが好きで、この世界に入ってきたんやろ?」
スタイリストの心の声が紬に届く。
(ああ、そうだった。私はファッションが大好きだったんだ……いつからか忘れていた……)
その声には、失われた情熱を取り戻そうとする決意が感じられる。
「せやのに、なんでこんなに苦しまなあかんのや? 過酷な労働、パワハラ、薬物……こんなんで作り出された美しさなんて、本物やない!」
大手アパレルブランドの重役の複雑な思いが伝わってくる。
(確かに……私は利益ばかりを追求してきた。でも、これからは……)
その心には、反省と変革への微かな希望が芽生えていた。
「本当の美しさって、もっと優しいもんやと思うんや。人を大切にして、お互いを認め合って、そこから生まれるもんや」
新人デザイナーの心が高鳴る。
(そうだ! これこそ私が目指していた美しさだ!)
その思いには、新たな創作への情熱が燃えている。
紬は、自分が着ているウェディングドレスの裾を軽く持ち上げる。
「このドレスな、確かにきれいや。でも、これを作った人の笑顔が見えへんかったら、本当に幸せな花嫁になれるんやろか?」
ドレスメーカーの心の叫びが聞こえる。
(そうだ……私たちの笑顔も、このドレスの一部なんだ……)
その声には、誇りと使命感が滲んでいる。
「ワシはファッションの力を信じとる。人を美しくする力、幸せにする力を。だからこそ、その力の使い方を間違えたらあかん」
ファッション誌の編集長の決意が伝わってくる。
(私たちも変わらなければ。もっと美しさの本質を伝える雑誌を作ろう。この純白の天使のように!)
その思いには、メディアの役割を再認識した強い意志が感じられる。
「みんなで変えていかなあかん。この業界を、もっと優しくて、温かくて、本当の意味で美しい場所に」
若いモデル志望の女性の心が躍る。
(こんな業界になるなら、私も安心して夢を追える!)
その声には、未来への希望が満ちあふれている。
「美しさって、人を傷つけるもんやないで。人を幸せにするもんやと思うんや。そんなファッション業界を、みんなで作っていこやないか!」
紬の最後の言葉に、会場全体が静寂に包まれる。そして、ゆっくりと、しかし確実に、拍手の音が広がっていく。その音は、新しい時代の幕開けを告げる鐘の音のようだった。
カメラマンの一人が心の中でつぶやく。
(これは単なるスキャンダルじゃない。業界の革命の瞬間だ)
その思いには、歴史的瞬間を目撃した興奮が溢れている。
紬の背後で、がらにもなく柚子が感動している。彼女の心の中で、紬への敬意と愛情がさらに深まっていくのを感じていた。
会場全体が、希望と決意に満ちた空気に包まれる中、ファッション業界の新たな章が、今まさに幕を開けようとしていた。
紬のウェディングドレス姿は、皮肉にも真実を語る「純白の告発者」として、人々の記憶に深く刻まれることとなった。
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