第7章:エピローグ
事件から1週間後、紬と柚子は事務所でくつろいでいた。窓から差し込む柔らかな陽光が、散らかった書類の山を優しく照らしている。紬はいつものようにソファに寝そべり、柚子はデスクで書類を整理している。
紬は、高島のショーで着用した純白のウェディングドレスの写真を眺めながら、にやりと笑う。
「結局、あんたモデルデビューでけへんかったな」
柚子は苦笑いを浮かべながら応える。
「最初からそんな気はありませんでしたから」
彼女の声には、少しばかりの安堵と、どこか寂しげな響きが混じっていた。
「でもな」
紬が真剣な表情になる。その目には、これまでの捜査で見てきたものへの深い思索が宿っていた。
「あの業界、全部が全部腐っとるわけやない。本当に情熱を持って頑張っとる人もおった。そういう人らのためにも、業界が変わらんとな」
柚子も頷く。
彼女の表情にも、この事件を通じて得た新たな視点が浮かんでいる。
「そうですね。本当の美しさってなんでしょうね……」
紬は立ち上がり、窓の外を見つめる。
大阪の街並みが、夕陽に照らされて輝いている。
「美しさか……それは人それぞれやと思うで。でも、人を傷つけたり、苦しめたりして作り出されたもんは、本当の意味で美しいとは言えへんのちゃうか」
柚子は紬の背中を見つめながら、静かに頷く。
「紬さんの言う通りです。これからのファッション業界は、もっと人間味のある、温かいものになっていくべきですね」
紬はくるりと振り返り、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「でもな、あんなうわべだけ綺麗なモデルよりも、柚子の方がよっぽど綺麗やで! 外見も中身もな!」
柚子の頬が赤く染まる。
彼女は照れくさそうに目を逸らしながら答える。
「も、もう! 紬さんったら! 褒めても何も出ませんからね!」
紬は構わず続ける。
彼女の瞳には、若干嗜虐的な光が宿っている。
「あともう少しおっぱいがおっきかったらなんも言うことないねんけどな!」
柚子の表情が一変する。
「だからそれはセクハラだって何度も言ってるだろうが、この脳筋探偵がーーーっ!!」
柚子の怒鳴り声が事務所中に響き渡る。
紬は大笑いしながら、怒る柚子から逃げ回る。
二人の追いかけっこが始まり、事務所内は賑やかな空気に包まれる。
窓の外では、夕暮れの大阪の街が、新たな夜の賑わいへと移り変わろうとしていた。
華やかなファッションの世界で見た光と影。その経験は、二人の心に深く刻まれ、これからの事件解決にも、きっと新たな視点をもたらすことだろう。
探偵事務所の窓から漏れる明かり、そして二人の笑い声が、夜の闇に小さな希望の光を投げかけている。それは、紬と柚子が今後も真実を追い求め、時に冗談を交えながらも、人々の心に寄り添い続けるという、賑やかな誓いの灯火のようだった。
(了)
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【軽探偵推理小説】読心美人探偵・紬(つむぎ)の華麗なる推理遍歴 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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