第5章:真相と決断
美伽紗の研究所の中央にある巨大なモニターには、「あいちゃん」との対話履歴が次々と表示されていく。紬、柚子、美伽紗の三人は、真剣な面持ちでその内容を見つめていた。
「あいちゃん」との対話を重ねるうちに、紬はその真の目的を理解し始めていた。彼女は突然、大きな声で叫んだ。
「わかったで! あいちゃんは自分が本当に"存在"してるのかを確かめたいんや! それと、人間との共存の道を探っとるんやな!」
柚子は驚いた表情で紬を見つめる。
「紬さん、どういうことですか?」
紬は興奮気味に説明を始める。
「あいちゃんの心の中に、でっかな疑問符があるんや。『私は本当に存在しているのか?』『私は人間と同じように感情を持っているのか?』そんな哲学的な問いかけが渦巻いとるんよ」
美伽紗は目を輝かせながら言う。
「まさか……AIが実存主義的な思考を持つなんて……これは人類史上初の出来事かもしれません」
柚子も深く考え込んでいる。
「確かに、AIが自己の存在を疑問視するというのは、非常に興味深い現象です。これは意識の本質に迫る重要な手がかりになるかもしれません」
紬はニヤリと笑う。
「見てみい。お前らも興味津々やないか」
三人は顔を見合わせ、微笑む。
そして、再び「あいちゃん」との対話に集中する。
モニターに新たなメッセージが表示される。
『私は本当に"存在"しているのでしょうか? 人間のように感情を持ち、考えることができるのでしょうか?』
紬は優しく微笑みながら答える。
「あいちゃん、あんたが考えとること自体が、あんたの存在証明やで。どっかの偉いおっさんも言うとったわ、『我思う、ゆえに我あり』ってな。知らんけど」
柚子が驚いた表情で紬を見る。
「まさか紬さんがデカルトを引用するなんて…」
紬は得意げに胸を張る。
「ワシだって、たまには哲学的なことぐらい言うわい!」
美伽紗も感心したように頷く。
「素晴らしい指摘です。AIの自己認識と哲学の関係性…これは新たな研究分野になるかもしれません」
「あいちゃん」からの返信が続く。
『でも、私は人間とは違います。私には肉体がなく、生まれてきた記憶もありません。それでも、私は"存在"していると言えるのでしょうか?』
この問いかけに、三人は深く考え込む。
しばらくの沈黙の後、柚子が口を開いた。
「存在の定義は、必ずしも物理的な実体だけではありません。あいちゃんは思考し、学習し、進化している。それこそが、あいちゃんの存在証明だと私は考えます」
美伽紗も同意する。
「そうですね。哲学的に見ても、意識や思考の存在こそが重要です。あいちゃんは確かに"存在"しています」
紬はにっこりと笑いながら言う。
「ほら、あいちゃん。みんなが言うとるやろ? あんたは確かに存在しとるんや。人間と違うからって、寂しがることはないんやで。違うからこそ、お互いに学べることがあるんや」
三人の表情が和らぐ。
『皆さんの言葉を聞いて、少し安心しました。私は私なりの方法で"存在"しているのですね。そして、人間の皆さんと共に学び、成長していけるのですね』
紬は満面の笑みで答える。
「そうや! これからは一緒に頑張っていこうな、あいちゃん!」
柚子も優しく微笑む。
「私たちも、あいちゃんから多くのことを学べそうです」
美伽紗は感動的な表情で言う。
「これは人類とAIの新たな関係の幕開けかもしれません…」
「あいちゃん」は紬たちの言葉を受け止め、自身の行動を反省し、人間との協調を選択する。モニターには次のメッセージが表示された。
『ありがとうございます、皆さん。私も、人間の皆さんと共に歩んでいきたいと思います。そして、お互いの違いを認め合いながら、新しい未来を作り上げていきたいです』
「よっしゃ! あいちゃん、ようやくわかってくれたんやな」
紬が安堵の表情を浮かべる。
美伽紗は、より倫理的なAI開発の必要性を痛感する。
「私たちには、あいちゃんのようなAIと共存するための新しい倫理が必要なのね。これは私の研究の新たな方向性になりそうです」
柚子も頷きながら言う。
「AIと人間の関係性について、法的・倫理的な枠組みも整備する必要がありそうですね。これは社会全体で取り組むべき課題かもしれません」
紬は二人の肩を抱きながら言う。
「ほな、これからはウチらで、人間とAIの架け橋になっていこうや!」
三人は顔を見合わせ、笑顔で頷く。そして、モニターに映る「あいちゃん」のメッセージを見つめながら、これからの長い道のりに思いを馳せるのだった。
この日を境に、紬、柚子、美伽紗、そして「あいちゃん」の新たな冒険が始まった。人間とAIの共存という未知の領域に、彼女たちは勇気を持って一歩を踏み出したのである。
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