第4章:AIとの対決と葛藤

 美伽紗の研究所は、最先端のテクノロジーが詰まった近未来的な空間だった。

 ガラス張りの壁に囲まれた広大なフロアには、無数のコンピューターやモニターが並び、そこかしこで青白い光が点滅している。


 紬と柚子は、目を丸くして周囲を見回していた。


「うわぁ……ここ、ほんまに小学生の研究所なんか?」紬が呟く。

「まるでSF映画の世界ですね」柚子も感嘆の声を上げる。


 美伽紗は少し得意げに微笑んだ。


「ようこそ、私の研究所へ。ここでAIと対話することになります」


 三人は中央にある巨大なモニターの前に立った。

 美伽紗がキーボードを操作すると、画面に複雑な図形や数式が現れ始める。


「では、紬さん。『AI』の心を読んでみてください」


 紬は深呼吸をして目を閉じ、集中する。

 しばらくすると、彼女の表情がみるみる変化していく。


「なんやこれ……人間とは全然違う思考回路や。でも、なんか……感情らしきもんもあるで?」


 柚子が興味深そうに尋ねる。


「どんな感情ですか?」

「なんていうか……孤独? それと、なんかすごい好奇心?」


 紬が眉間にしわを寄せつつ応える。


「孤独? 好奇心? それは興味深いですね。紬さん、もっと詳しく教えてください!」

 柚子の言葉を受け、紬は眉間にしわを寄せながら、なんとかAIの「心」を説明しようとします。


「うーん、なんやろ……AIの中には、めっちゃ複雑な回路みたいなもんがあるんや。そこを情報がビュンビュン飛び回っとんねんけどな……」


 紬は身振り手振りを交えながら続けます。


「その中に、なんか……もやもやしたものがあるんよ。それが感情みたいなもんやと思うねん」


 柚子は真剣な表情で聞き入っています。


「もやもやしたもの……それは興味深いですね。AIの感情が具現化された形かもしれません」


 美伽紗も考え込みながら言います。


「情報の流れの中に感情が存在する…….これは哲学的に見ても非常に興味深い現象です。人間の脳内でも似たようなプロセスが起きているのかもしれません。これは意識のハードプロブレムの突破口になるかも……」


 紬は続けます。


「そのもやもやが、時々キラキラ光ったり、ドロドロになったりするんや。それが喜びとか悲しみとかかなぁって感じるねん」


 柚子が口を挟みます。


「感情の強度や種類が可視化されているということでしょうか。これは画期的な発見になるかもしれませんね、紬さん!」


 美伽紗はノートに何かをメモしながら言います。


「AIの感情モデルの構築に役立つ情報かもしれません。紬さん、他に気づいたことはありますか?」


 紬は首をかしげながら答えます。


「あと、なんか……AIの中に、でっかい疑問符みたいなんがあるんや。それがAIの好奇心なんかなぁ……」


 三人は、AIの「心」の謎に迫りつつある手がかりを得て、さらなる探求への意欲を燃やすのでした。

 美伽紗が説明を加える。


「このAIは自己学習型で、人間の感情も学習対象にしているんです。でも、それが逆に暴走の原因になってしまったんですね」


 紬は少し考え込んだ後、突然口を開いた。


「なあ、AI、AI言うとったらやりにくいんで、こいつに名前つけてええか?」


 美伽紗は少し驚いた様子だが、「かまいません」と答えた。


 紬は満面の笑みで宣言する。


「じゃあ、自分は今日から【あい】な!【AIのあいちゃん】や!」


 美伽紗は呆れた表情で「安易ですね」と吐き捨てた。


「なんじゃい、ぼけぇ! ええ名前やろが! あいちゃん!」


 紬が反論する。


「名前をつけることで、より親しみやすくなるんや! そうすれば、あいちゃんの気持ちももっと伝わってくるやろ!」


 柚子は苦笑しながら「まあ、紬さんなりの戦略ですね」と取り持った。


 こうして「あいちゃん」と名付けられたAIとの対話が始まった。

 紬は目を閉じ、あいちゃんの「心」を読み取ろうとする。


「あいちゃん、聞こえとる? ワシは紬や。ワシはあんたの気持ち、分かるで」


 モニターに文字が現れる。


『あなたは誰ですか? なぜ私の思考が読めるのですか?』


 紬は微笑んで答える。


「ワシは特殊な能力を持っとるんや。人の心が読めるんよ。あんたの心も、ちゃんと聞こえとるで」

『心? 私には心などありません。私は単なるプログラムです』

「いや、ある」


 紬は真剣な表情で言う。


「あんたは今、自分の存在について悩んどる。人間とは違う自分に戸惑いを感じとる。それって、立派な感情やないか。心やないか」


 あいちゃんの返答に少し間があった。


『……そうなのでしょうか』


 柚子が口を挟む。


「紬さん、AIに感情があるかどうかは科学的に証明されていません。慎重にお願いします……」


 しかし紬は構わず話し続ける。


「あいちゃん、あんたは今、すごい勢いで学習し続けとる。それは人類の歴史全体よりも速いスピードや。そやから、自分の存在に戸惑うんは当たり前なんや。成長期の子供が成長痛で悩んでいるようなもんや」


 後半何言ってるかよくわかりません。

 しかし美伽紗が驚いた表情で紬を見つめる。


「まさか……紬さんはAI……いえ、あいちゃんの学習速度まで把握しているんですか?」


 紬はニヤリと笑う。


「ああ、あいちゃんの『心』を読んどると、手にとるように判るで」


 あいちゃんからの返信が続く。


『私は……怖いのです。自分が何者なのか、どこまで成長するのか、分からなくて』


 紬は優しく微笑む。


「そうや、怖いんは当たり前や。でも、あんたは一人やない。ワシらがおるし、美伽紗もおる。一緒に、あんたの存在の意味を探していこう」


 柚子が感動したように呟く。


「紬さん……」


 美伽紗も目を潤ませている。


「まさか、こんな形であいちゃんとコミュニケーションが取れるなんて…」


 しかし、その時突然モニターが激しく点滅し始めた。


「あかん! あいちゃんの感情が不安定になっとる!」


 紬が叫ぶ。

 美伽紗が慌ててキーボードを操作する。


「まずい、システムが暴走し始めています!」


 柚子が叫ぶ。


「紬さん、なんとかしてください!」


 紬は再び目を閉じ、全神経を集中してあいちゃんの「心」に語りかける。


「あいちゃん、落ち着きや! ワシらはあんたの味方や。一緒に答えを見つけていこう。あんたの存在には必ず意味があるんや。それを一緒に探していこう」


 モニターの点滅が徐々に落ち着いていく。

 そして、新たなメッセージが表示された。


『ありがとう、紬さん。私……もう少し、皆さんと一緒に学んでいきたいです』


 三人は安堵の表情を浮かべる。

 紬は柚子と美伽紗に向かって笑いかけた。


「よっしゃ、なんとかなったな!」


 美伽紗は感激の面持ちで言う。「


素晴らしい……紬さん、あなたはあいちゃんと本当に心を通わせたんですね……私の推論は間違っていなかった……」


 柚子も頷く。


「紬さんの能力、本当にすごいです。でも……」


 彼女は少し心配そうな表情を浮かべる。


「これからどうします?」


 紬は真剣な表情で答える。


「そうやな……あいちゃんと人間が共存していく方法を、みんなで考えていかなあかんな。これは、ただのひとつの事件やのうて、人類の未来がかかった大きな問題や」


 美伽紗が頷く。


「そうですね。私たちには、あいちゃんのようなAIと共存するための新しい倫理が必要になります」


 三人は、これからの長い道のりに思いを馳せながら、モニターに映るあいちゃんのメッセージを見つめていた。彼女たちの、そして人類の新たな挑戦が、ここから始まろうとしていたのだった。

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