第2章:天才少女との対決開始

 紬と柚子の事務所に、美伽紗が持ち込んだ高性能タブレットPCが置かれた。

 画面には複雑な数式や図形が次々と表示されている。美伽紗は自信に満ちた表情で紬を見つめる。


「では、始めましょう。まずは簡単な問題からです」


 美伽紗が最初の問題を提示する。それは一見すると難解な数学の問題だった。


 紬は目を閉じ、美伽紗の心を読み取ろうとする。

 しかし、彼女の頭に浮かぶのは、紬にとっては意味不明な数式や概念の渦だった。


 紬は美伽紗の頭の中にある複雑な数式を見ただけで、急激な吐き気を感じ始めた。

 彼女の顔は青ざめ、冷や汗が額を伝い落ちる。


「うっ……」


 紬が呻き声を上げる。


「なんやこれ……急に気持ち悪なってきた……」


 突然、紬の全身に赤い斑点が現れ始めた。

 蕁麻疹だ。


「紬さん!?」


 柚子が驚いて声を上げる。


「大丈夫ですか? うわっ、こんなひどい蕁麻疹が……」


 紬は苦しそうに答える。


「あかん……数学のトラウマが……高校の時の赤点の嵐が甦ってきおった……」


 柚子は急いで紬のそばに駆け寄り、彼女を支える。


「紬さん、深呼吸してください。大丈夫、私がここにいますから」


 紬は弱々しく頷き、深呼吸を始める。

 しかし、美伽紗の頭の中の数式は消えず、紬の苦しみは続く。


「くっ……くっそ、こないなもんにワシが負けるわけにいくかい!」


 紬は歯を食いしばる。


「数学がなんぼのもんじゃい! 算数なんてお釣りの計算ができればそれでええんじゃー! 屁のつっぱりはいらんですよーー!!」

 紬が咆哮する! 言葉の意味はよく判らないが、とにかく勢いは感じられる。

 美伽紗が不敵な笑みを浮かべる。


「どうですか? 私の思考、読み取れますか? 難しいですか?」


 紬は額に油汗を浮かべながら答える。


「くっそ……読み取れとるんやけど……なんて言うたらええんかわからへん……ワシ、ほんまに数学大っ嫌いなんや……滅べや、数学ー……!」


 柚子が突然閃いたように声を上げる。


「紬さん! 心を読んだ内容をそのまま私に伝えてください! 紬さんは判らなくていいです! 分析と計算は私がします!」


 紬は目を輝かせる。

 紬の顔もぱっと明るくなった。


「それや柚子! さすがワシの助手やな! ほな任せたで!」


 こうして、紬が読み取った美伽紗の思考をそのまま柚子に伝え、柚子がそれを解析して答えを導き出すという新たな戦法が始まった。


「えーっと、なんか『リーマンよそう』とかいうのが頭に浮かんどるみたいや。サラリーマンやめろっちゅうことかいな?」


 紬が伝える。

 柚子は瞬時に反応する。


「リーマン予想? ということは……ああ、なるほど! この問題は、リーマン予想を応用すれば解けますね」


 柚子は矢継ぎ早に計算を始め、驚くべき速さで答えを導き出す。

 美伽紗は目を丸くする。


「まさか……正解です。しかも、私の考えていた解法とは異なるアプローチで……」


 紬はニヤリと笑う。


「どうや? ウチらの黄金コンビ、なめたらあかんで?」


 しかし美伽紗も負けてはいない。


「まだまだ序の口です。次はもっと難しい問題を出します」


 こうして、紬と柚子のタッグと美伽紗の天才的な頭脳との熾烈な戦いが続いていく。

 問題は数学から物理学、さらには哲学や倫理学にまで及び、その難易度は刻一刻と上がっていった。


 紬は美伽紗の脳内を必死に読み取り、柚子に伝える。


「なんか『しゅれでぃんがーの猫』がどうとか……」

「ぴーえぬぴー? なんかそんな感じのが出てきたで」

「『げーでるのふかんぜんせいていり』? なんやそれ」


 柚子は紬から得た情報を元に、驚異的な速さで思考を展開していく。

 彼女の頭の中では、無数の計算式や論理的推論が瞬時に組み立てられていく。


「なるほど、この問題は量子力学の観測問題を応用しているわけですね……」

「P≠NP問題か……これは計算量理論の根幹に関わる問題で……」

「ゲーデルの不完全性定理を踏まえると、この問題の解答は……」


 美伽紗は次第に焦りの色を隠せなくなっていく。


「どうして……どうしてそこまで的確に解けるんですか?」


 紬は得意げに答える。


「ワシらのコンビ、最強やからな!」


 と言いつつ、慣れない数式をいっぱい見てしまった紬の顔色はまだ青い。

 しかし、戦いはまだ終わらない。美伽紗は最後の切り札を出す。


「では、最後の問題です。これは私が開発中のAIに関する問題です」


 紬と柚子は顔を見合わせる。ここからが、本当の勝負の始まりだった。

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