第3話『天才少女 vs 紬と柚子の最強タッグ!』

第1章:予期せぬ依頼

 大阪の喧騒が朝もやに包まれる中、紬(つむぎ)・ゴンザレスの探偵事務所に新しい一日が始まろうとしていた。


 しかし、この日はいつもと様子が違っていた。


 事務所の中は、驚くほど整然としている。普段は書類の山で埋もれているデスクが綺麗に片付けられ、床には高級な掃除機の跡が残っている。そして、紬はなんとスーツを着て、ネクタイまでしていた。


「なあ柚子、これでええか?」


 紬が不慣れな様子でネクタイを直す。

 柚子は呆れたような、でも少し嬉しそうな表情で答える。


「まあ、紬さんにしては上出来ですね。でも、なぜこんな……」


 その時、玄関のチャイムが鳴った。


「おっ、来たで!」


 紬が立ち上がる。

 柚子は首をかしげる。


「誰かお客様でも?」


 紬はニヤリと笑う。


「そうや。昨日、突然電話があってな。『明日の朝9時きっかりに伺います。きちんとした身なりで待っていてください』ってな」


「えっ!? そんな大事なこと、なぜ私に言わないんですか! それだったら……」


 柚子の言葉が途切れたとき、ドアが開いた。


 現れたのは、小学生くらいの少女だった。

 長い黒髪と知的な瞳が印象的な、凛とした雰囲気の子供である。

 彼女の後ろには、まるで護衛のような大柄な男性が2人控えている。


 少女は紬に向かって言った。


「あなたが心を読める探偵ですね。私と勝負してください」


 少女は単刀直入に切り出した。

 紬は面白そうに目を輝かせる。


「ほう、おもろそうやないか。受けて立つで!」


 一方、柚子は不安そうな表情。


「紬さん、ちょっと待ってください……!」


藤堂とうどう美伽紗みかさです。よろしくお願いします」


 少女は簡潔に自己紹介する。

 紬は美伽紗の心を読もうとするが、驚いたことに、彼女の心の中は複雑な数式や記号で溢れていて、紬にはまったく意味が判らなかった。


(なんやこれ……こいつ普通の子供やないな……)


 紬は内心で呟く。

 しかしそこでふと思い出したように紬が美伽紗に尋ねた。


「そういや、昨日の電話で『きちんとした身なりで待っていてください』って言うてきたのはなんでや?」


 美伽紗は少し微笑んで答えます。


「そうですね。それには二つ理由があります。まず一つ目は、私自身の能力を試すためです」


「能力を試す?」


 柚子が首をかしげる。

 美伽紗は続けます。


「はい。私は人の行動パターンを分析し、予測する能力があります。紬さんのような型破りな方が、本当に言われた通りにスーツを着て待っているかどうか。それを確かめたかったのです。ちなみに私は紬さんはスーツを着ると予測しました」

「なるほど」


 紬が感心したように頷く。


「で、もう一つは?」

「二つ目の理由は」


 そこで美伽紗が真剣な表情になる。


「これから私たちが向かい合う問題の重大さを認識してもらうためです。普段の気楽な雰囲気ではなく、緊張感を持って臨んでいただきたかったのです」


 紬と柚子は顔を見合わせる。美伽紗の言葉に、二人は改めて事態の深刻さを感じ取った。


「わかった」


 紬が真剣な表情で言う。


「ほな、全力でいかせてもらうで」


 美伽紗は安堵の表情を浮かべながら頷いた。


「ありがとうございます。では、本題に入りましょう」


こうして、三人の本格的な対決が始まろうとしていた。


「で、どんな勝負がしたいんや?」


 紬が尋ねる。

 美伽紗は不敵な笑みを浮かべる。


「簡単です。私が出す問題に答えてください。もし全問正解できたら、あなたを認めてあげます」


 紬はニヤリと笑う。


「別にお前みたいな小娘に認めてもらわんでもええけど、面白そうやないか。で、ワシが勝ったら?」


「その時は……貴女の言うことを何でも一つ聞きます」


 美伽紗が答える。

 柚子が慌てて割り込む。


「ちょっと待ってください。紬さん、だから軽々しく受けるのは……」


 しかし、紬の目は既に闘志で燃えていた。


「よっしゃこい! いっちょ揉んだるわ!」


 張り切る暴走脳筋探偵に柚子はいつものように溜息をつく。

 対する美伽紗はにっこりと笑う。


「では、始めましょう」


 彼女は護衛の一人が持っていたアタッシェケースを受け取り、中から最新型のタブレットPCを取り出した。画面には複雑な数式や図形が次々と表示されていく。


「最初は簡単な問題からです」


 美伽紗が言う。

 紬は目を細める。


(簡単って……これのどこが簡単なんや……)


 柚子も画面を覗き込み、驚きの声を上げる。


「これは……大学院レベルの数学の問題では?」


 美伽紗は微笑む。


「そうですね。でも、心を読める探偵さんなら簡単でしょう? 私の心の中に答えがありますよ?」

「あ、当たり前やないか!」


 紬は汗を拭きながら、美伽紗の心を読もうとする。

 しかし、彼女の頭の中は更に複雑な数式と記号で埋め尽くされていた。


「なあ、柚子……」


 紬が珍しく弱気の小声で言う。


「こいつ、ほんまにただもんやないで」


 柚子も頷く。


「ええ、明らかに普通の子じゃないですね。紬さん、大丈夫ですか?」


 紬は自信なさげに笑う。


「まあ、なんとかなるやろ……」


 こうして、紬と天才少女・美伽紗との予想外の対決が始まった。果たして紬は、この難問を解き明かし、美伽紗の真の目的を明らかにできるのか。そして、その先にはさらなる驚きの展開が待っているのだった。

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