第3章:真相への序曲

 紬と柚子は、多田刑事に案内されてオーナーの部屋に入った。

 豪華なスイートルームの中央に、オーナーの無残な遺体が横たわっている。


「ほう……」


 紬が呟く。

 柚子がメモを取りながら尋ねる。


「死因は?」


 多田刑事が答える。


「毒殺のようです。胃の内容物から特殊な毒物が検出されました」


 紬は目を閉じ、周囲の「声」に耳を傾ける。


(こんなことになるなんて……)

(あの晩餐会で……まさか……)

(証拠は完璧に隠したはず……)


「ふむ……」


 紬が目を開けた。


「柚子、ちょっと来てや」


 柚子が紬の元に駆け寄ると、紬は小声で何かを囁いた。柚子の目が大きく見開かれる。


「まさか……そんな……」

「ああ、間違いないと思うで」


 紬が頷く。


「でも、まだ証拠が足りんな」


 その時、多田刑事が二人に近づいてきた。


「どうですか、紬さん。何かわかりましたか?」


 紬はニヤリと笑った。


「ま、ちょっとしたアイデアはあるんやけど……多田はん、ちょっと頼んでもええか?」

「なんですか?」

「今晩、このホテルに宿泊してる全員を集めてもらえへんか?」


 多田刑事は驚いた表情を見せた。


「全員ですか? それは……」

「ふっふ~ん♪」


 紬は楽しそうに呟くと言葉を継いだ。


「ワシな、いっぺんやってみたかってん! あの現場に皆を集めて、名推理を披露して『犯人はお前だ!』ってビシッと決めるやつ!」


 紬は両手を握って瞳をふるふるさせている。

 柚子はため息をつきながらかぶりを振った。


「しかしですね、紬さん、まだ犯人もわかってないのにそんな……」

「大丈夫や」


 紬が自信満々に言う。


「ワシにはもう判っとんねん、誰が犯人か」


 柚子は不安そうな表情を浮かべながらも、紬の言葉に頷いた。


「わかりました」


 多田刑事も渋々同意する。


「では、今晩8時に大広間で……」

「よっしゃ、任せとき!」


 紬が声を弾ませる。


「ほな柚子、準備するで!」


 二人は再び部屋を見回し始めた。南の島の陽光とは対照的な、暗い影が部屋を覆っている。果たして紬は、この密室殺人の真相を暴くことができるのか。真犯人との対決の時が、刻一刻と近づいていた。

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