第19話
《私には残念ながら今、それを見ることはできませんのでなんとも。受付と撮影だけです》
ここから先は必要最低限の会話のみにしよう、とスカーレットは決めた。言葉が犯されていくのは不快。だが実際にそう。どんな気配値で、値がついているのかは確認できない。この場から離れて戻らない限り。
なにやら話はひと区切りついたらしい。さて、アロサウルスとやらもそろそろ本腰を上げて殺りにくるはず。少なくともオーガストには打開する術が思いつくわけもなく。
「で? お前が頭がいいのはわかった。作戦はあんのか?」
そしてそれは実行できることなのか。「あいつの胃に潜り込んで内側から銃を乱射しろ」とかは無理。その前に挽き肉になっている。
特殊な磁場。神経細胞。それらを駆使すれば。ひとつだけエリオットには可能性がある。
「できるかどうかはわからんが。それが不可能なら俺にはお手上げだ。仲良く喰われるしかない」
それもまたいい。死んで地獄に行ったら、他の悪人達と『どんな死に方をした?』なんて雑談をしながら「恐竜に喰われた」なんて答えたら一躍ヒーローだろう。話のネタにはなる。
「そ。じゃ、任せた。私はなにもしなくていい?」
いち抜けた。どうも自分では役不足感は否めない。それはアデレイドにもわかっている。
そしてそのエリオットの打破する手段にも、その他の人物は含まれていない。自身だけで完結する。
「あぁ、というか少し離れていてくれ。俺もどうなるかわからんからな」
もし成功するならば。むしろ離れていないと危険。巻き添えをくらって死ぬかもしれない。わからない。どれほどの可能性を人間が秘めているか。
「……?」
その言葉にオーガストも従う。アロサウルスもわからんが、コイツもわからん。だが賭けるしかない。
そして。
離れたところでドローンを操作し、観戦と決め込んでいるスカーレット。座って木にもたれかかり、用意したモニターを見つめる。負けて全員喰われたらそれも良し。いいショーとしておひねりがもらえるだろう。勝てばそれはそれで美味しい。
(さてさて。No.17。あなたは中々高額な死刑囚なんですから。頑張ってもらいたいところ……だったんですけど、さすがに。さすがに恐竜はまずかったなー。あとで上にドヤされるんだろうな、無駄な金使ってって)
なんとなくピン、ときて買える死刑囚リストから選ばせてもらった。ちょっとだけセールだったし。だから。期待はしたい。
空中に浮かぶドローンを確認し、インカムも外すエリオットは、無言で意を決する。
《……》
できるのか、できないのか。わからないが、もしできるのであれば、人類の扉を開くかもしれない。人体。ブラックボックスだらけの人間の体。そのままゆっくりとアロサウルスに近づく。
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