第17話

 アロサウルス。中生代ジュラ紀に存在していたとされる二足歩行の肉食恐竜。アメリカでも多く化石が発掘されるほど、ポピュラーな種族。体格はその後の白亜紀を代表するティラノサウルスよりも、比較的細身であった、という研究結果が出ている。


 その時代に生きていたわけでもないし。なんでこいつは、とオーガストは呆れを通り越してきた。


「なんでそんな冷静なんだよ。恐竜は恐竜だろ。爪とか牙とか。ジュラシックパークの」


 正直、トリケラトプスとかプテラノドンとか。そういうやつ……どうせ似たようなのがいっぱいいるんだろうけども、そういうのとは違うとはわかる。四足だったり空飛んでたり。だが二足歩行の肉食恐竜なんて、だいたい一緒だろう。恐竜博士と呼んでやろう。


 とはいえ、仕組んだ側のスカーレットとしても、落ち度があったことは認める。反省反省。


《別に太古の生物も人類の進化の鍵も、手のひらサイズなこともあるわけで。普段だったら銃くらいでなんとかなることが多かったんですが、今回はハズレを引きましたね。いや、当たりかな? ともかく、運が悪かったと思って諦めてください。まさか太古の生物とは》


 ある意味では油田とかよりも貴重。なんて幸運。なんて不運。せめて生まれたての赤ん坊だったら。これを機に武器の一新とかあるかも。尊い犠牲のもとに、改善していく。


 当のアロサウルスは、もう走る必要もないと油断しているのか、慎重に出方を窺っているのか、ジリジリと距離を詰めようとしている。もし逃げるなら。走って追いかけるだけ。だからじっくりと。


 さて絶体絶命なわけだが。こうなると、たかだか人間の筋力が多少上がったところで勝ち目など、オーガストには見えてこない。


「ならチームとか言うなら、百人くらいは詰め込んでこいよ。そっちのほうが可能性上がるだろ」


 人海戦術。なにかしらそれだけ集まれば知恵も出てくるかもしれないし、弱点が見つかるかもしれない。九五人くらいは犠牲になるだろうが。それでも、こいつらの利益は死刑囚の上になり立てる。


 が。それも電波の向こうでブンブンと頭を振ってスカーレットは拒否。


《嫌ですよ、生き残っちゃうかもしれないし。それに、我々もビジネスなんです。人数が少なければ少ないほど、ダメそうであればダメそうであるほど、大きな成果を手にした時に儲かるんです》


 だから。三人四人くらいだと美味しい。さらに継続的に生み出し続けてくれれば。言うことはない。


 カラン、と銃を落とすアデレイド。ま、よくやったほうでしょ。希望があっただけ絶望が足されてるけど。


「だってさ。無理無理。諦めよう。数百万年後にでもさ、仲良くみんなで胃の中で化石になって発掘されることに期待して」


 約十メートルの位置にアロサウルス。こっちの会話を待っててくれたのかな。優しい。生まれ変わったら爬虫類でも飼ってみようか。でもカメレオンって動いているエサや水じゃないと飲まないんだっけ。面倒だなー。


「……」


 まわりが余計なことを考えている中、ひとりギリギリまでエリオットは情報を結びつける。今、やるべきことは逃げること。生きること。だが、どうにもスッキリとしないことがあって。どうせ死ぬならそれを解決してから。そういえば自分はそういう人間だった。

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