第16話

 となると。それは恐竜にも作用しているわけで。もしかしたら、白亜紀などよりも好戦的で野蛮で獰猛で危険度が増している可能性もある。破壊力も。


「それ以上にとんでもねぇのがいるから気づきにくかったけど、つまりは『速く動こうと思えば思うほど応えてくれる』ってことでいいのか?」


 難しいことは抜きにしたいオーガスト。シンプルにまとめるのは自分の役割。ファラデーだかサワデーだかは知らないが、要はそういうこと、でいいのか?


《またもやお利口さんな答えが出せましたね。オーガスト》


「殺すぞ」


 スカーレットの軽口もだいぶオーガストには慣れてきた。慣れたくはないが。できるだけ早めに関係を断ち切りたい。


 ここで先ほどまでとは打って変わって、口調に真剣味が増すスカーレット。ほんの少しだけ声を顰めて。


《でも忘れないでください。スピードとパワーが上がってもそれはあなたの話であって、だからと言って——》


 と、その時。増してきていた足音と絶望の主である恐竜が、さらに凶暴性を追加して三人の視界に入る。逃げる際にはしっかりと捉えられていなかったが、全長は八メートルはあろうかという巨体。重さも振動からして数トン。スーパーヘビー級、で出場するにもストップがかかるであろう。


「ここは私が」


 唯一、試し撃ちとはいえ撃った経験があるアデレイド。どうやら自分達はスーパーサイヤ人的なアレらしい。ならば恐竜など恐るるに足らず。貫通して、むしろその先にある月にクレーターを空けないか心配なほど。ハンマーを起こし、感情もなく引き金を引いた。が。


「……効かないんだけど」


 ハジかれて弾丸は何処へ。確実に当たりはした。はず。だが歩を止めることなく恐竜はゆっくりと近づいてくる。むしろ反撃されたことでより関係は悪化。


 それについて、やっぱりか、という失望の息をスカーレットは吐く。


《銃は別に関係ありませんから》


 あなた達が強くなっただけであって。銃とか。いや、そりゃそうでしょ。


 だよな。と嫌々ながらもオーガストは納得せざるをえない。ゆったりと持ち上がる恐竜の首。頭。そしてそこから勢いをつけて振り下ろすと、地面にめり込むほどの威力。それを見て。


「ならなんで持たせたんだよッ! バカかッ! ロケットランチャーとか、戦車とか! そんなんは!」


 数秒前までいた場所にクレーターができる。まさか返されるとは。土煙が巻き起こり、死神が鎌を構える。たしかに。一瞬で恐竜は間合いを詰め、打ち下ろした。ファラデーとやらの力で避けなければ、ペシャンコどころか爆発四散している。


《あるわけないでしょう。なんで生き残ろうとしてるんですか。これは半分はショーなんです。ビジネスって言ったでしょ?》


 ピシャリ、とスカーレットは怒り気味に拒否。それに戦車とか持ち出したのが世間にバレたりしたら。厄介でしょう、色々と。


 勝っても負けても、いや、生き残っても死んでも金が動く。その循環がオーガストには反吐が出る。


「これを楽しそうにワインでも飲みながら観戦してる、っつーのか? 週末のサッカーじゃねぇんだぞ。あんなティラノサウルス——」


「あれはおそらくアロサウルスだ。大きさ、見た目、戦い方、サハ共和国。全てが合致する」


 もちろんそれはエリオットにも本でしか知らない知識だが。ティラノサウルスとはまた違う。どこか顔だけ見ればのっぺり感もある。

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