第13話
「全然話が見えてこない。なにが起きてるの?」
そのサハとやらにいつの間にか連れてこられて。恐竜に襲われて。それで、勝手に話が進んで。アデレイドとしては少し落ち着きたい。いや、そんな状況じゃないことはわかってるけど。
それについてはスカーレットが本来の職務に戻る。やっと説明できる。ひとりは自力でたどり着いたみたいだケド。
《ロシアにこんな伝承があるんですよ。『神が地球の宝を持って、このサハ共和国の広大な凍った土地を飛び越えようとした。ところが、神の両手は凍え、持っていた宝を落としてしまった。ここには太古の生物や、逆に人類の進化の鍵が眠っている』。なんて》
この広い手付かずの大地には、ダイヤモンドなどの鉱業関連部門以外にも、様々なお宝が眠っている。そしてそれはどんなものなのか。はっきりとわかっていない。石油などの資源ではなく、想像もできないような『なにか』が。なにせ神様の落とし物ですから。
東シベリアのパイプラインを通じ、世界各国に輸出し続けているものとは一線を画す危険な代物。だが、世界の発展という意味で考えれば、これほど金になるものはない。
鳥の声が聞こえる。呑気なほどに朗らかな声。その平和なこの空間。エリオットの脳もバグが起きそうになる。
「それが……なんだあれは、本物の恐竜……か? バカな、いくら永久凍土の未開の地とはいえ、生き残っていることくらいは少し調査すればわかるだろう。ここは……本当にサハ共和国、なのか?」
こんな情報社会で、本物か偽物かは別としても恐竜が生きていたなら出回らないわけがない。バカな連中が突撃しないわけも。いや、生きているわけがない。
このパニックにも近い状態。毎度のことながらスカーレットは。あたふたしている姿を電波の先で予想するのが。好き。
《えぇ、本当に本当にサハ共和国ではあります。ですが、サハ共和国ではない、と言えばサハ共和国ではないですね。どっちとも言える》
この言い方以外にない。しっくりこない。自分なりに導き出しちゃってください。あとはもう。任せますから。
ずっと推理は任せっきりだったオーガストだが、そこまでくれば信じられないが、なんとなく見えてくるものがある。
「未開の地すぎて、近づくと異世界にでも飛ばされるってか? んで、俺らはそこに来ちまっている。と」
なんて陳腐な表現。異世界て。だが一番わかりやすい。違ったらあとは頼むわ。
パチパチ、とわざとらしくスカーレットは拍手する。まさかこの人の口から聞けるとは。
《すごいすごい。オーガストさん冴えてきましたね。永ーい研究の結果、ここは過去も未来も繋がった不思議な場所、というのが現在の結論です。これもまた、研究次第で変わるかもしれない》
「……そうなると、俺達がやるべきことが見えてきたな。やりたいとは一切思わないが」
どうやら。そういうことらしい。今までの常識が崩れる。教科書に載らないどころか、ダークウェブに載ってるかどうか。はぁ、とエリオットの深いため息。脳裏にこびりついた先の怪物。つまり。それを。
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