第14話

 にひひ、といやらしい笑い方をするスカーレット。それこそがこの仕事の醍醐味。お給料に関わってくること。


《もうお気づきですね。なにか取ってきてください。そこから。過去でも未来でもなんでも。で、色んなところにいつも到着するんですが、残念ながら今回はとても危険な場所に来てしまったと。あちゃー》


 ペシっと額を叩く音。失敗失敗。広すぎてどこになにがいるのか。まだ調査が全然進んでいない。今回は運悪く恐竜のいるとこ。予想できなかった。


「なにか……って。その前に死ぬと思うけど」


 冷静にアデレイドは突っ込んでみる。生えてる雑草を持ってこい、とかならまだなんとかなる。飛んでる鳥を撃ち落として持ってこい、もわかる。でもこんなんだし、今回はむしろ恐竜を諦めたほうがいいと思う。


 わかってないなぁ。でもそんなところも可愛い。スカーレットは優しく、それでいて冷え切った回答を用意している。


《それならそれでいいじゃないですか。言ったでしょ? いくらでも補充はききますし、だからこその死刑囚なんですよ。人類の進化のためだったら。あなた達の命くらい安いもんでしょ?》


 死刑の判断が甘くなり、簡単に死刑囚を生み出すことができるようになった昨今。これほど派遣するのに適した者達はいない。なんたって捨て駒。利益を生み出せたら儲け物。でも死刑反対に五月蝿い連中には秘密に。こっそりと。世界が世界に隠し事。


 にしては。手にした銃は、当初はウキウキとした者だが、あんなものを見たあとではオーガストには心許ない。


「それならもっとマシな武器を用意しろ。こんなんで勝てるか、あれに」


 あまりにバカバカしすぎてだいぶ落ち着いてきた。笑うしかない。世界は広い、とシンプルに切り替え。


《何度も言いますが、我々としては死んでいただいて構わない、というか死んでいただきたいので、最後に温情で交渉しているだけなんですよ。生きて成果を持ち帰り続けていただければ、ついでに生き続けることもできるっちゃできますから》


「俺達にはあぁいった化け物を倒す手段がある、ということか?」


 どこかスカーレットの口ぶりから、まだ秘密にしていることがある気がしてしょうがない。エリオットはそう判断した。太古の生物がいることは想定内。もしそうなったら。その時のための。もし回収できれば。


 やはりこの人は。やりやすいしやりづらい。しかしスカーレットは嫌いじゃない。


《その通りです。リーダーに任命しましょう。強い弱いよりも、いつも冷静でまわりが見えているあなたに相応しい》


 勝手に決まっていたみたいだけど修正。ほんの少しだけ、生き延びてしまってもいい人達に思えてきた。だから手助けできることはできるだけやってみよう。成功したらそれはそれでお給料に反映されるし。


 リーダー、といっても形だけであることはエリオットもわかっている。しかしそうなると文句の言いたくなることもある。


「なら戦力はひとりも殺さないでほしかったんだがな」


 猫背の男。そのおかげでコンマ数パーセント程度には違いが生まれているかもしれない。今の時点で違った意味で役に立っているようだが。喰わせたのは、まぁ、すまない。

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