第12話
全然に似てねぇ。なにもかも。そのムカムカもオーガストに追加される。
「……ナメてんのか。で、なにがどうなってる。撮影か? 映画なのか?」
だとしたら随分と最新技術。じっくりと見れなかったが、本物にしか……本物は知らないけど、自分の知る恐竜像に当てはまって、澱みなくぎこちなさもなく動いていた。
基本的に博物館や本でしか見たことがない。四足歩行だったり二足歩行だったり空飛んでいるのもあったり。だが巨体で爪とか牙とか尻尾とか。危なそうな武器をたくさん持っていて。人間などどれかくらえば一瞬であの世行き。それが子供の頃からのイメージ。それがさっき。目の前に。
沈黙したあと、鼻で笑うスカーレット。映画。映画て。
《違いますよ。現実です……! これが現実……!》
あの猫背の人は私が殺して。で、今は胃の中に収まりつつあるのでは? くすくす、という声が漏れていないか心配。
しかしそうなるといまだに信じられないが、恐竜というのものがこの世界にいて。信じられないが、そこに我々は……タイプスリップなのかなんなのか。いや、銃を持ち込んでいいのか?
「……ここは非合法な動物園か? バイトで雇われてるのか俺達は。それで、謝らなければいけない、というのは『恐竜は想定外だった』ということか?」
生きた恐竜など世界各地から人が集まるだろう。危険かどうかはさておき、一大ビジネスだ。だが、それを捕獲しようものならただの人間三、四人で。しかも拳銃でどうにかなるものではない。そうなると、ここは。この場所は。
そして先の恐竜のフォルム。噛み付くではなく、頭からぶつけにくるスタイル。となると。ひとつだけ、いや、相当に頭のおかしい発想だが。可能性が生まれる。
「パンダとかゾウとか。そういうほうがいい」
個人的な要望を出すアデレイド。食事の補助は。なにか福利厚生的なものは。気になる。
全く話についていけていないオーガスト。自然と声も荒くなる。
「で、どうすりゃいいんだよ。そのまま喰われればいいんか? お前はどこにいんだよ、そんで」
「それよりも。ここはロシアか?」
考えられる可能性。様々な糸を手繰り寄せ、編んだ結果に見えてきた図柄。それが今いるこの場所。エリオットの推理。
もちろんそんなところにオーガストの脳は到達することもなく。
「は? ロシア? なに言ってんだおま——」
《大正解です。そしてその中でも、とある地域なんです。面積でいうとそうですね……インドくらいの大きさでしょうか》
さらに細かい情報をスカーレットは小出し。結構適当なヒントだが、もうこの人物には見えているだろうから。必要ないと思うけど。
そしてそれは当たりで。微かに笑みを浮かべるエリオットは、正解したくなかった答えに確信を持つ。
「……なるほど、サハ共和国。俺達はそこに連れてこられた、というわけか。冬じゃなくてよかったな」
もしそうなら死んでいる。とっくに。恐竜ですら生きていられないかもしれない過酷な大地。
サハ共和国。ヤクーチャともいい、ほぼ全域が永久凍土地帯。約三百万平行キロメートルの面積の中に百万人ほどが住み、その広さゆえに共和国内でも時間帯を三つ持つ、ロシアを構成する一地域。
世界最大の地方行政単位でもあり、人間の定住地として最も寒さの厳しい場所でもある。夏との寒暖差が激しく、比較すると百度を超えるほど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます