第11話

「バカッ! 早く逃げろッ! アデレイドも!」


 そこにエリオットも到着。呆けるオーガストの肩を持ち、振り返らずに全速力。足の力が抜けているようで、引っ張るだけでも辛……辛く、ない? 必死だといつも以上の力が出る、とかいうやつか。とりあえずそれよりも恐竜から距離を取ることを最優先。先頭に立つ、とか言っていたのに。


 そしてその先頭に立って走り抜けるのはアデレイド。従順に従う。


「どこまで。逃げるの」


 現在、森の中。枝やら葉にぶつかったりしながら一直線。運動は苦手。できればどこかで休みたい、けどまだ走れそう。


 背後では、まだドゴッという爆音が聞こえる。追いかけてくる気配はない。時折違う音が聞こえてくるのは、縦から横から様々に仕掛けているから。


 多少の安堵。ようやく振り返る余裕。だが足を止めずにエリオットは返答する。


「わからん。だが、多少は時間が稼げているはずだ」


「時間?」


 やっとのことで体に力が戻ってきたオーガストが、振り解いて並走する。「わりぃ」と律儀に謝罪。で、時間稼ぎとは?


 少し遡り、二人が逃げ出したことを確認したエリオットは、自身の逃げ道の確保のために、傍にあった道具を活用した。


「死んでいた男を献上してきた。食事にはたっぷりと時間をかけるタイプだと嬉しいが」

 

 ヨーロッパのディナーのように。逆にファストフード感覚で食べられたら困る。歩幅が違う。すぐに追いつかれるだろう。塩胡椒でもあれば味わってもらえたかもしれない。


 猫背の男になんの感情もアデレイドは持ち合わせていないが、グチャグチャと齧られているところを想像するのは少々。


「うげ」


 ホラーは好きだけどスプラッターものは。銃で撃たれた、とかは問題ないけど、体真っ二つとかは。


 そのまま数分走り続ける。しかし、息が切れる気配がない。必死だから? いや、それだけではないはず。おかしい。そろそろ答え合わせがしたいエリオットは、ついに足を止め、木漏れ日の中問いかけた。


「おい、聞こえてるんだろ? なんだあれは。納得のいく答えはあるのか?」


 どう見てもトカゲでもなければワニでもない。そんなかわいいものではない。いや、ワニは結構怖いけど。その程度ではなくて。


 ひと息ついたオーガスト。完全にリーダーの座は奪われた形だが、それよりも。


「? 誰に言って——」


《聞こえてますし見えてますよ。いやー、いい絵が撮れました。カメラの向こうは大盛り上がり間違いなしですね》


 インカムから聞こえてくるのは受付の声。どこかウキウキハツラツとしている。笑い声も若干。


 それがよりオーガストの怒りに拍車をかける。マックスをさらに更新するとは。


「お前……! なんだありゃ、死ぬとこだったぞ」


《だから言ってたじゃないですか。殺す気だって。ただ、さすがに謝らないといけないですね。すいやせん》


 心のこもらない受付の謝罪。さらには《私も名前つけていいですか? スカーレットでどうです?》と勝手に混ざる。もちろんモデルはスカーレット・ヨハンソン。

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