第10話

 瞬きもせずに見つめ続けるアデレイドだが、ここの敷地の人か、と納得。たしかに自分達が悪いけど、ちょっと不躾やすぎない?


「こんちは。お邪魔します」


 その言葉が言い終わる前に再度、振り下ろす一撃。先ほどまでは数十センチ、という程度だった穴が、ポッカリとメートル単位で広がる。太陽光が多めに降り注ぐ。埃が乱反射し、煌びやかに内部を照らす。


 片目だけ覗いていた『ソレ』が、顔ごと突っ込む。ジロジロッと獲物を無言で品定め。


 それはまるで、


『ワニ』


 のような。


『トカゲ』


 のような。


 いや、一番近い表現は、




『恐竜』




 である。


 目薬でも点したかのように目をパチパチとするオーガスト。顔合わせは早くも二度目。オッス、久しぶり。腰痛の調子どう? なんて軽口は一切浮かんでこず。


「……な?」


 と、周囲に反応を求める。恐竜、以外になんて言えばいい? というか。なにをすればいい? 命乞い? 通じる?


 沈黙。を破るように、恐竜が頭を持ち上げる。先ほどまでの攻撃は、いわゆる『頭突き』。それで頑丈なコンテナに穴が空いた。


「……! くるぞッ! ドアから逃げろッ!」


 さらに致命的な一撃になりかねない。即座に反応したエリオットは、先ほどまで死を望んでいたことも忘れて生きる術をシュミレート。ここは『逃げる』。しか。


 その言葉にアデレイドもハッとする。手には拳銃。これを使って……いや、無理無理。横向きになったドアへ駆ける。


「どうすんの、これ」


「知らんッ! とりあえず外だ! ここにいたらペシャンコになるぞ!」


 パニーニみたいに。あ、今の例え上手いかも。なんて走馬灯のようにオーガストの脳内を駆け巡った。最後に食べたかったな。


 一瞬、弾薬をどうするか悩んだエリオットだが、こうバラバラになってはどうしようもない。そもそも効くとも思えない。そしてそんなことをやっている暇もない。


「とりあえず外だッ! ここにいても死ぬだけだッ!」


 あれ? それを望んでいたはずなのに。心の底では生きたいと思っている? もっと違う死に方がいい? こんなわけのわからないままやられるくらいなら。せめて正面から堂々と喰われたい? なんだそれ。


 ちょっとだけダルさを覚えつつも、アデレイドはその指示に従う。


「マジで。なんなの」


 それは全員の言葉。代表して言ってみた。上下左右もよくわからない。そのドアは横向いてるし。引くと、そのままドアは外れてしまった。勢いで外へ。多少の高さがあり、落ちてゴロゴロと土の上を転がる。


 そこにオーガストも落下。太陽が眩しい。目を細めながら振り返る。するとそこには高さ三メートルはありそうな、やはり恐竜。三度目の顔合わせ。できればもう遠慮したい。急いで銃を構えてみる。


「……『ジュラシック・パーク』の新作撮影か? リアリティ出すために、演者には教えない、的な。随分とよくできている」


 なんだか恐怖よりも感心してしまった。誰が監督をやっているんだろう、とか。主演は誰だ、とか。俺達は開幕速攻で喰われるモブ役? そういうのに応募した記憶はないが、ありがたい。好きなんだ、映画。

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