第21話
マイクロウェーブ・オーブン。いわゆる『電子レンジ』。なぜ電子レンジで食事が温まるか、調べたことがある人も多いはず。簡単に言えば、電気の力で電磁波を発生させ、食べ物に含まれている水の分子を振動させる。すると振動による摩擦が起こり、その熱が温度を上げる仕組み。
わかったようなわからないような。そんな原理で重宝される家電だが、その振動が秒で二四億五千万回という、とてつもない回数となっている。水を含まない物質を通り抜け、効率よく温める。最初は研究者のポケットに入っていたチョコレートが、別の実験中に瞬間的に溶けたことから研究が進められた。
水分を温める。そして温まり続ければ沸騰する。それがもし。その水分がもし。
『血液だとしたら』。
血液の大半は水である。そして、大半の生物は色に違いはあれど、血液を持ち合わせている。栄養を全身に運び、病原菌を退治するなど、様々な役割を持つ血液を温めたとしたら。
強固な皮膚や鱗に守られていたとしても。電磁波はそれらを貫通する。貫通し、防御も回避も不可能なダメージを与える。特殊で強力な磁場が渦巻くサハ共和国。その環境下で人間が、意図的にマイクロウェーブを発生させることができたとしたら。どんな巨大な生物であろうと。血液を保つ限り。血管が破裂し、絶命する。
元から帯電しやすい体質だった、というのは自覚している。冬場は最悪。セーター、ドアノブ、車、人間。触れただけで静電気が走る。家の電気代にまわせたらな、なんてバカなことも考えたり。少し高めの防止グッズも意味はなく、至るところでバチバチと弾ける。
そんなこんなで電気というものに興味があった。なんで電気ウナギは発電できるのだろうか。電気なしで何日くらい生き続けられるだろうか。だからといって電気工事士になろうとか、電力会社で働こうとかいう夢があったわけではなく。人並み。夢はまた違ったものだったから。
「……終わったのか。よくわからなかったが、なにをやった……?」
離れた場所で、言われたままに見守っていただけのオーガスト。緊急事態が去った気配に乗じて、その災厄に近づく。
静かな森の中。アロサウルスが進んできた道は、木々が薙ぎ倒されて見晴らしがいい。振った首にぶつかっただけで、樹齢何十年という立派な木が折られている。この恐竜は噛む力が弱い、とされている。そのぶん頭蓋骨が硬く、それを駆使してジュラ紀を生き抜いた、とも。
一撃必殺。掠るだけでも矮小な人間など、触れた箇所が粉砕骨折。自身と同じサイズの、さらに耐久力のある怪物達を相手にしてきたような生物。小さき者達など食事どころか間食程度にしか過ぎない。はずだった。
だが。
「簡単な話だ。アロサウルスの血液を沸騰させた。逆に、博物館のような骨だけの存在に襲われていたら、こうはならなかっただろうな」
しっかりと全盛期の形を保ってくれていたおかげで、勝機が見い出せた、とエリオット。いや、骨なら銃が効いたかもしれない。いずれにせよ、この場この状況では人類の勝利。
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