第20話
銃を、いや、効かないけども、構えるでもなくただただ接近するだけの姿を確認し、スカーレットは首を傾げる。彼女にも全く。なにをしようとしているのかわからない。
(……? 一体——)
と疑問符が浮かんでいると。
少しずつ。ドローンの画像に乱れ。最終的にブラックアウト。
「……え?」
色を失い、画面は暗転。音声も拾えなくなる。
「……嘘」
目を見開く。プールサイドでオシャレなカクテルでも飲みつつ、寝転んで日焼けしながら観てたい、なんてことを考えていた脳が一気に沸騰。
「ゲッ!」
一番美味しい瞬間。その時が来たのに。これでは色んなところからドヤされること間違いなし。
「なんでこんな時に! 今までなんもなかったのに! 障害が起きるかねッ!」
慌てて空を見上げる。ことにどんな意味があるかはわからないが、なんとなく。別に天気が崩れているわけでも、他の企業の妨害があるわけでもなさそう。唐突に。そう、唐突に電子機器に異常。
「この、ポンコツ!」
昔のテレビは叩けば直ったらしい。そんなことを思い出し、モニターを叩く。いや、モニターが原因じゃないだろうけど。ドローンが原因だろうけど。あとインカム。
「動けやッ! こんのぉッ!」
ブンブンと振り回されるモニター。円盤投げのようにぶん投げるか? いや、こっちが壊れても困る。冷静さも少々あったりする。
しばらくすると、徐々に回復の兆し。何度か復活、暗転を交互に繰り返し、最終的には復活。どうやら地面にドローンは墜落していたらしい。気を取り直して飛行。状況確認。
「……ふぅ、ようやく見えるようになった……か、な……?」
もし。すでにやられてしまっているのなら。なんて上には言い訳をしよう。素直に壊れたと言うべきか。自分も襲われたと嘘をつくべきか。おーん。
「……?」
しかし。どうにも様子がおかしい。インカムも正常に戻っている模様。だがそれを通しても音が聞こえない。アロサウルスの暴れ回る音。叫び。その他諸々。
「……!」
さらに。もしドローンから届く映像と自分の目に間違いがなければ。フェイク映像でも介入されて流されているのでなければ。
それが真実であるならば。
アロサウルスが。
血を流して。
息絶えている。
それも『外傷などなく』。
《すまないな。本当なら捕まえるべきだったんだろうが——》
外したインカムを拾い上げたらしいエリオットの声。非常に落ち着いて。就寝前のお休みの電話のような。
事態が。把握できないスカーレット。時間にして数十秒。程度。
「……は」
恐竜は、骨の化石でしか存在していない。もし肉までサンプルとして手に入るのならば、その価値はどれほどのものか。
近いものとして、マンモスのDNA配列と、それに最も近い現存する近縁種のアフリカ象のDNAを使用し、羊の細胞に注入して二百憶の細胞に増殖。その肉を使ったミートボール、ならかつて作られた。
技術の粋を集めてもその程度。だから。これさえ持ち帰ることができれば。その貴重な存在が。まさか脆弱な人間によって。
《殺した。生け捕りなんて余裕はない》
そう、こちらに一応は配慮しようとした、という余裕まで見せつけて。
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