第2話

 硝煙の香りがほのかにアロマとして漂う。じっとり、と重い空気。だが、その場の誰ひとりとして恐怖を感じていない。むしろ。


「そいつが死んだからには、次に刃向かうヤツは必要か?」


 黒髪はそう確認を取った。この飲み込めない今の状況。少しでも情報が欲しい。転がった死体。ようやく背筋が伸びた模様。


 受付はニヤリと笑う。


「話が早い。そういう人はわりかし最後まで生き残ります。No.17」


「そいつはNo.829だった。俺は17。なんの違いだ? 殺した数か? いや、違う。殺した数のランキング、か?」


 黒髪自身の胸には『17』と書かれたシール。剥がそうと思えば剥がせるが、なんなのか確認してからでも遅くはない。それに『17』という数字は偶然にも好きだ。


 コツコツ、とヒールの音を響かせながら受付は黒髪の前に立つ。


「さすが。頭がいいというのは聞いていましたが、まだこの説明途中で気づいたのは他に十六人しかいませんでしたよ」


 あなたで十七人目。誇っていい、かどうかは任せますけど。どうでもいい。どうせこの人も死んだヤツとそんなに変わらないから。


 俯いたまま黒髪は問う。


「喜んだほうがいいのか?」


 そのほうがこの場では正解なのか? 正直、不正解でもどうでもいいが。踊らされるのは別に嫌いじゃない。


「いえ、どうせこのあと説明しますので。喜んでもいいですし悲しんでも怒ってもなんでも。でもそうですね、当てた人へのご褒美的なものもあってもいいかもしれません」


 そう思いついた受付は、傍の箱の中から拳銃をひとつ取り出す。そしてまた黒髪の前へ。


「……?」


 殺される? それもいい。黒髪は命乞いはしない。頭を撃ち抜かれようが心臓を撃ち抜かれようが。耳、鼻、指、肩。どこを撃たれても。


 が、受付はイスにポンッ、と放り投げた。


「グロック17。一応、人数分用意していたんですけど、ひとり空きましたので。あなたには追加でもうひとつ。あぁ、このあとあなたの本物の武器を渡しますのでお楽しみに」


 若干、鼻で笑う。細めた目は笑っていない。非対称で不思議な微笑。


 目だけは銃を捉えた。だが黒髪の腕は動かない。重力が何倍にも増幅されたかのように、伸びていかない。だが。


「あんたを撃ったらどうなる?」


 向けられた背中。もし心臓は外したとしても、それなりに致命的な臓器は傷つけることはできるだろう。伸ばすつもりもない腕だが、その鎖を引きちぎって構えれば一秒後にはできる。


 そんなことになっても受付は不敵。チラッと振り返るだけ。


「私が死んで。あなたはより良い武器がこのあと手に入るだけです。それと受付に支給されていたデザートイーグル。こちらもどうぞ」


 踵を返し、自身の銃も握らせる。完全に丸腰。でも。余裕が崩れない。


「……」


「その場合は次の方に勝手に引き継ぎますので、出てくる受付全員殺せば、そのぶんの銃火器が全部手に入ります。それもいいでしょう。私達はそういうものですので」


 どう、対処すればいいのか。黒髪は言葉にできない。どれも間違っている気がして。


「別に。殺しが趣味とか。そういうわけではない。これもいらないよ」


 デザートイーグルを返そうとする。人を殺すための道具なんて。どうかしてる。なんだってこんなものがこの世に存在するんだ?

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