第25話

「で。こいつがどうなるかも気になるが、俺達もどうなるんだ? まさか無罪放免、なんてことはないだろう。ここから出られず、一生彷徨うことになるのか?」


 こいつ、とエリオットが指差すのはもちろんアロサウルス。博物館か、どこかの研究所か。死んでいるとはいえ、ほぼ完全な形で残されているわけで。歴史が変わるかもしれない。自分達にそんな自覚はないが。


 そして会話の矛先をスカーレットは変更。今回のMVPへ。


「まさか。あなたがたは生き残った場合、我が社の大事な戦力ですから。そんなぞんざいな扱いなどするわけもありません。ですが、完全な自由というわけも当然ありません」


 当たり前ですけど。死刑囚がそのまま娑婆に解き放たれる、なんてあってはならないこと。ある程度の制限がつくのはしょうがない。むしろ檻の中じゃないだけでも感謝してほしい。


 自由、というワード。それについて気になることがあるアデレイド。


「元の世界……まだよくわかんないけど、ここに来る前にいた世界には戻れるの?」


 行ったきりで帰れない、なんてこと。受付とかは行き来できるような、なんかそういうのがあって。自分達はここで自給自足。なら少しはタンパク質として恐竜肉は分けてもらえるのだろうか。


 という不安があがることもスカーレットにはわかっている。


「もちろん帰れます。ですが、この世界のことは口外できませんから。今の時代は大変ですよ。ネットに書き込んだりでもしたら、即座に全世界にバレます。その火消しの労力たるや」


 自身にはそこまでのことは求められていないけども。企業としての声。それを代表して。


 しかしどうにもオーガストには納得がいかない部分がある。少しくらいは、このサハ共和国についてのなにかしらの情報が流出していないものか、と。


「今のところ、聞いたことはなかったな。よっぽどの力でも働いているのか」


「まぁ、そんなところです。万が一書き込んだ場合、本人はもちろんのこと、親族まで含めて闇に葬られるでしょう。と、脅しています」


 おどけるスカーレット。だからこその怖さ。


 それはオーガストにもしっかりと伝わる。


「笑えねぇな。あんなの見る前だったら冗談で済みそうだったんだがな。殺したくてうずうずしてるアンタといい。抑止力としては相当効きそうだ」


 他のチームとやらもそんな感じなのだろう。もしかしたらどこも、まず最初にひとりくらいは犠牲になっているのかもしれない。その脅しのために。人柱。


「一応、AIによってネットワーク上の『この世界の』サハ共和国についての情報を、書き込まれたら即座に全て削除するようになってはいるんですけどね。もしかしたら普通のサハ共和国の情報も、どさくさに紛れて消されてるかもですけど」


 それはもう。しょうがない。一の情報を消すために百の疑惑を消滅させる。スカーレットとしても心は痛いが。技術の進歩には秘密と犠牲はつきもの。


 となると。力技で網の目を潜り抜けるしかない、とエリオット。


「人が大勢いる街中で叫んだほうが拡散できるかもな」


 自分だったらそんな恥ずかしい真似はできないが。このチームのリーダー(仮)なら喜んでやるだろう。

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