第6話
こうやって理解してもらえないのはいつものこと。噛みつかれても受付は気にしない。
「あまりに説明ばっかりだとね。退屈でしょうから。ま、頭だけじゃなくて体を動かしてください。生き残れたら追加で説明しますし、そのほうがスッと頭に入ってきますから」
生き残れたら。サラっと挟み込み、他人事のように。実際他人事。生き残ろうが死のうが、自分達だけWin-Win。私としては死んでほしい、カナ? なんて。
「バカバカしいっつーの。どうせなにかのアトラクションだろ。こんなもの渡されてよぉ? 手が込んでいるっつーか、暇なヤツらっつーか」
不満を述べつつも金髪が箱から掴んだもの。『ベレッタ 92FS』。米軍や警察でも広く採用されているオーソドックスだが実用的なそれ。映画とか、アクションものでも結構見る。ジョン・マクレーンにでもなった気分はちょっとだけ嬉しい。
なら受け取らなきゃいいのに。この三人の中では受付は金髪が一番嫌い。猫背の人よりも。あの人が生き残ってたらあっちかもだけど。
「ま、そう思うならそれでいいです。どうせなら楽しんでいってください。私は近くにいますので。ドローンで撮影もしなきゃいけないし。あ、あと通信機器。双方でのやり取りは今後これで。と、弾薬。それじゃ。グッドラック」
重さにして十グラムほどの片耳用イヤホンを各自に。尽きた時用の弾薬も箱でその辺に。それだけ残し、ドアを開ける。ガチャっという重たい音。機材類を背負い、お先に。準備があるので。
大きく空気が入れ替わる。湿った鉄の味のする空気に清涼感。鳥の声。気持ちのいい風。室内にはより明るい光が流れ込んでくる。横たわる猫背にもスポットライトのように。そのまま昇天。とっくにしてるわけだが。
残された三人。明らかに噛み合わないであろうことは、先のやり取りでもわかる。ここにたとえば、お喋り怪獣的な人物を追加しても、きっとそっちのけでケンカもしくは沈黙するであろう。
とはいえ、なにもしないのもそれはそれで。口火を切るべきか、と黒髪は意を決した。
「……どうする?」
そんな当たり障りのないひと言目。ドアが閉まる。また。暗さついでに重力も足されたようで、体も口も重い。
「どうするもなにも。自己紹介でもする? 必要?」
銃口を黒髪に向けながら、女性はそんな提案。今、ここで私は一番か弱い存在。用心するに越したことは? ないし?
いつの間にか寝そべりながら金髪は即座に拒否。
「いらねーよ。どうせ死ぬようにできてんだろ? てか、チーム戦とか言ってたけど、もう死んでんじゃん。ひとり」
もちろんそれは猫背のこと。生きてる? 確認する気もない。無理だろうし。万が一生きてたところで重体。役に立たない。ここに捨てていくのが一番。理に適ってる。
立ち上がって足先でツンツン、と女性は触れてみる。反応はない。屍のようだ。そりゃそうか、自分で撃ったんだから。
「たしかに。これどうすんの?」
あんまり目に入れておきたくない。可愛いものとか綺麗なものとか。そういうので身の回りは飾っておきたい。知らない人の死体とか。それと一緒にいる今のこの空間。吐き気がする。
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