第21話 里帰り そしてハッピーウェディング
ディランは王族籍に復帰することはなかった。王太子の度重なる説得も固辞し、首を縦に振らなかったためだ。
そこで7年前に断絶したグローリー公爵家を再興し、ディランを当主として据えることとなった。
グローリー公爵家は、ディランの母方の実家であり、8年前に国王陛下への謀反の罪を着せられた。親族は流刑にされたが、正式に以前の処置が前国王の誤りであったと公表し、親族は流刑から解放され帝都へ戻ってきた。
かつてのグローリー公爵家の領地はディランのものとなり、かつてグローリー公爵家に仕えていた臣下達は喜び勇んでディランの元へ集結した。
本当に謀反が冤罪であったのかは不明だ。だが、王太子としては、父王の罪は多ければ多いだけ都合がいいのだ。
王太子は正式に国王へと就任した。前国王は幽閉され、やがて忘れ去られた頃に牢の中で病死した。
新国王主導の元、クァルト帝国との和平交渉が進められた。ディランの功績も改めて認められ、少将へ昇進という話もあったが、これもディランは固辞した。
◇◆◇
「少将よりも准将の方が響き的にカッコいいと思わないか?」
私の実家に向かう道すがら、ディランは私にそう尋ねた。
「響き……まぁ、そうですね。ディランには准将という響きが合ってる気がします」
私が笑ってそう答えると、特務騎士団の団員達も「准将だからこそうちの団長だ!」と同意してくれる。
「でも、響きがカッコよくないだけで、少将昇進を断っちゃったんですか?」
「准将の給料で充分だし、領地からの収入もある。俺はレジーヌと特務騎士団の団員がいてくれればそれでいいんだ」
今回の里帰りは、特務騎士団全員で付き従うことになった。彼らにとってもディランは弟のようなもの。弟の妻の里帰りには、全員で参加したいと来てくれたのだ。
私は公爵夫人となることから、王妃の護衛騎士は退職することになった。王妃・ハリエット様は寂しそうにしつつも、帝都に滞在している間は王宮に伺うことを条件に許してくれた。
かつてミラルス王国を出る時には、私がマルテル帝国の将軍と結婚して、公爵夫人となることなんて想像もしていなかった。一生、結婚とは無縁だと思っていたのに。
◇◆◇
「お久しぶりです、クレメンティエ少将」
ディランは父との対面で軍人らしく敬礼で挨拶をした。
父はディランを見て目を見開いている。
「あの時の……あの美少年が今の貴方なのですか?」
あの時、とはハリエット様の輿入れの際の、国境での挨拶のことを言っている。あの時とは比べものにならないほど、大人へと成長した。
「美少年かはわかりかねますが、私があの時挨拶をしたものです。これからは義父上とお呼びしてもいいでしょうか」
父が私に視線を移した後、嬉しそうに微笑んだ。
「私はこの子のウェディングドレス姿は見ることがないと思っていました。男嫌いを拗らせてしまったようで。もちろん喜んで。マルテル帝国きっての勇将と名高い貴方が義理の息子となるなんて、我がクレメンティエ家にとっても大変喜ばしいことです」
父は義理の息子を抱き寄せた。
「貴方の名声は聞き及んでおります。娘婿はどういう人物なのか、失礼ながら調べもしました。随分と……つらい思いをされたのですね」
「もうつらい思いはしません。素晴らしい妻が傍にいてくれます」
ディランは明るくそう答えた。私はなぜか涙ぐんでしまう。父は情に厚い。きっとディランのことも可愛がってくれる。
「義父上、息子としてワガママをいってもいいでしょうか?」
マルテル帝国でも、グローリー公爵家の再興と同時に結婚式も行った。しかし、その他やることが立て込んでいたことから、かなり簡易的なもので終わらせてしまった。
既に結婚式は終わらせているため、ミラルス王国で行うのは結婚披露パーティーという名目ですることになる。
「結婚披露パーティーは豪勢に行いたいのです。ミラルス王国きっての武門の名家であるクレメンティエ家のご令嬢と、マルテル帝国国王の実弟であるグローリー公爵家の当主が縁を結ぶ。ミラウス王国でも喜ばしいことではないでしょうか」
父は笑みを深め、ディランはいたずらを思いついたように笑った。
「それに、義父上もサボルニア伯爵家のご嫡男には思うところがあるでしょう? 彼がレジーヌを振ってくれたおかげで、私の妻となることができた。義父上が自慢できるように頑張って武功を重ねてきたんです。大いにこれが私の息子だと自慢してください」
◇◆◇
結婚披露パーティーには、王太子、第二王子、第二王女も参列してくれて、主だったミラウス王国幹部も参列してくれた。
ドレスはディランが金に糸目をかけずに豪奢なものを選び、わざわざエマを呼んでメイクも施してくれた。
私を振ってくれた元婚約者のサボルニア伯爵家の次期当主も、渋い顔で参加してくれた。ディランは目ざとく彼を見つけて、私の手を引いた。
「わざわざ来ていただいてありがとうございます。貴方がレジーヌを振って下さったおかげで、今の私の幸せがあります。貴方には感謝しかありません」
ディランはにこやかに笑い、彼の手を両手で包むように握手をする。
「い、いえ……。あの、久方ぶりに奥方様とお会いしまして。その……大変お美しくなられて……」
久しぶりに見たサボルニア伯爵のご長男は、私を見てすぐに目を逸らした。
現在は近衛騎士団の見習いとして頑張っているそうだ。引き攣った笑いを浮かべている。
「妻は顔だけでなく、剣ダコも美しいのです! タコができるほど剣を振った証ですからね。けど、貴方のタコはまだ柔らかいようだ。鍛錬を重ねたほうがよろしいですよ」
ディランは嫌みを言って、サボルニア伯爵のご長男を解放した。
「やりすぎですよ、ディラン。剣ダコは美しくはありません」
「俺の価値観では美しいんだから仕方ない。これからも共に剣ダコを育てていこう。落ち着いたら特務騎士団に入ってくれ。人間との戦いは当分なさそうだが、魔物がいる。来春にはオークとの戦いが待っている。共に戦場を駆けよう」
私は公爵夫人となっても、騎士は辞めない。
もし子供が生まれても、成長を見ながら両立していく道を模索していく。
「では私は、貴方から必ず一本を取ってみせます。覚悟してくださいね、団長」
【完】
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ここまで読んでいただきましてありがとうございます。
拙い文章だったかと思いますが、少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
もしよろしければ、現在こちらの作品も更新中です。興味がありましたら読んでいただけると大変嬉しいです。
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