第102話
速やかに数名の兵士に話かけ、そのなかの最も階級の高い老兵に『緊急的な異世界に関わるかもしれない話をしなくてはならないため判断のため人払いを頼みます』の、一息で言った周囲への漠然とした命令で兵士たちが離れて、兵士じゃない者を離れさせるように命令する。
そうして、何人か事情の分からない者も動かして、周囲の視線が消えると老兵は広い天幕の中に案内する。いつの間にかウーナも消えてる。
「なに、ここ、なんでこんな場所に」
「ユーリ?」
「ごめん、……専門家はクラーラ、ちょっと人払いが必要なことを説明しないと」
「……! わかった」
入り口に僕を呼んだかの近衛騎士が立ち待ってもらう形となった。
「なによいきなり、私はこれでも忙しいのに」
近衛に頼んで呼んでもらったクラーラを通してもらって、椅子を用意するとユーリは神妙な面持ちで事態を告げる。
「この場所よ。この場所に私達の世界から転移するための亀裂があるわ」
「亀裂がある?」
僕が疑問をオウム返ししてしまっているのにクラーラはなんなく理解したのか、奥歯を強く噛みしめるようだ。
「貴方が準備している送還術みたいなものよ。それよりも危険な。双方向的な穴にもなるかもしれない危険な……言ってしまえば通り道が作られているってことよ」
一瞬考えて、状況を僕が理解した頃にクラーラが聴く。
「質問させてもらうわ……このまま放置したらどうなると考えられる?」
「私達の世界から自由に出入りできる状態。えぇ、それを証明するには危険を伴う実験が必要になることも含めて、理解できているけど、扉が鍵を開けたまま閉まっているだけの状況ね。これじゃ、私達の世界の技術者からしてみたら出入り自由よ」
「……、緊急的に何人か騎士を、ここの監視してもらうとしても……預言者を呼べるか?」
「え? 私に言っているの?」
「他に居ないだろう」
クラーラしか、本来対異世界の戦力を集めている預言者への一番近い連絡手段は、
「緊急事態だ。ごめん。おねがい」
「アンドロマリー閣下にすがっても仕方がない。僕も戻ったほうがいいかもしれない……前に使っていた魔術的な装置でもなんでも、速やかに連絡する手段はあるか?」
「今手元にはないわ。もう、だけど、転移魔術を使って王城に戻るとして、そのために施設がここから一日では到達できない。頑張れば余裕だけど、贄の用意は流石に時間が必要になる。しかも、タイミングが悪いとアンドロマリーと入れ違いになる可能性だってある。他に手段はない? ないなら、私たちだけで引き返すけど、セシリアに連絡するとか……連絡手段を分散させるために近衛騎士を使う手も考えるとして」
「シシィ? なんで」
「知っているでしょ? 彼女は預言者と対立しているとは言え、預言者の娘たるグニシア様の直属の部下なのよ」
「……っそうだよ! 次の補給地のモウマドでシシィと会う予定がある」
「そうか! え、なんで?」
「シシィと僕はモウマドで魔術を勉強を教えているんだ」
「そうなの? ……そうか、貴様の魔術の腕に合点がいった。現代で催眠術を実戦レベル使えるのは単純な腕の強みだったのだな」
「まぁ、そんなとこ、急いで騎士に分担を頼むぞ。近衛騎士様! ご相談を」
適当な相槌を打って、急いで近衛騎士に対応を相談しようとすると、天幕でゴタゴタと押し合いで揺れる入り口のカーテン裏の影で声が聞こえた。
女性。若い女と老練の騎士とは別に、何人かの騎士が集まって、傷つけないように彼女は捕まえられているようだ。
「いけません! いま入っては!」
「ごめんね。むりやりでも通させて!」
「ダメです。人払いを命じられたからには」
「やーん、クラーラぁ、そこにいるんでしょー?」
なんだこの気の抜けた女の声は、
「グニシア様!? なぜ」
慌ててカーテンを拓いたクラーラの先には僕らよりは年上だろうが、戦場に慣れてないような普通の体つきの女が騎士たちにつかまっていた。
「なにをしているんです!?」
「……いや、責任者に話を、隊長に話す前に他の責任者と一緒に行こうかと」
目が合う。
「はじめましてだよね? グニシア・クォライトリーゼです。えーっと、ジーグフリードさんだよね?」
顔を知られている? 王城か学術都市で視られたか?
「……ジークフリート・ラコライトリーゼです。はじめまして」
笑顔。笑った? どういう感情で、
「あぁーー、なるほど、帝国系の名前だね」
「えっ、えぇ、グニシアさんもそのようで」
「うん、お父さんがどうも近い出身らしくてね」
騎士の方々も老騎士が片手で進路を制するだけで、騎士たちも離して様子を伺う。中で人払いを頼んだ僕たちがここにいるのだからね。
「……どう? ユーリちゃん」
「え?」
「ここになにかあるか、わかる? 大丈夫、ここで見えるものは話としては隠さなくても良い内容と保証するわ」
……知っているということか?
「いや、混乱を招くんじゃないのか?」
「いずれ知ってもらう予定だった……といえば、君はわかるかしら?」
……預言者の娘、なら彼女は未来を知っている? いや、そんなの誇大表現の冗談だろう?
「亀裂があります……道具があれば、私たちの世界と、こっちの世界を自由に行き来する事ができる状態にあります。それより、どこかで会ったことがありますか?」
「なるほど、見解は一致したってことね」
うなずいて、背を向けて特段立派なテントの方向へ指をさす。
「もちろん、貴方とは初対面よ?」
背中越しに指を向け、言ってから振り向いて気軽そうに説明する。
「私はここに精鋭を送るように言ったけど、それを実行したのはおそらくアンドロマリーちゃんよね? それこそ、この部隊の編成を決めたのは」
「はい……。そう、なりますね。僕に編成する権限とかないですし」
というか、そこらへんは完全に任せっきりどころか興味すらなかったことを思い出す。
「だよね。この話、彼女と、陛下に言っただけだから書状は……ここに……」
彼女は付き人に持たせていた鞄を寄せ、鞄の中から鞄を取り出し、その中から金属と木材で組み合わされた薄い箱を取り出してその箱を開いてその上に置いてあった紙を老兵に見せた。
「確かに……委任状です。それと、計画書も同封されているようです」
「そうだね。詳しいことは中で確認してもらうとして、いいかい? 大佐と一緒にそのテントの中に入ってさ」
「あぁ、拒否できないよ」
「それは、そうね。私もその委任状と計画書を確認したいかな」
彼女が入って大事な話をするそうなので、他の騎士と彼女の連れてきた教導会の付き人たちと一緒に外で待とうとすると無言で服の裾を掴まれる。
「え?」
「君もこい」
「……必要か?」
「君はゼフテロの弟みたいなものなんだろう? だったら実質私の弟でもあるようなものだ。騎士としても、将来的に人の動かし方を覚えていくのも悪くない。これは君が聞いても問題のない無いようなのだからね?」
何を楽しそうに『退屈な話を一緒にしましょう』って言ってくれるんだ。
「いや、違う。理由を聞いたんじゃない」
「……ふへ?」
「必要は無いのだろう?」
「あぁ、君はそういう感じなんだ」
「……ごめんなさい」
「いや、いいよ。君のことももう少し知りたい気持ちもある」
「ごめん、なさい」
心から湧き出るこの強い拒絶の感情を、僕はどうして制御できず謝罪という形で表明してしまったのか……。
◆
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