第99話 side Branch
◆ ◆ ◆
安心ゆえの衰えを感じるのは生まれて初めてだった。老成故に油断を自覚するのもだ。
メディテュラニス連邦において最強と謂れを持たされ『連邦の弓』や、『鋼の太陽』と呼ばれた俺でさえ、4人目の子どもが独り立ちして、長男に早く子供が生まれ祖父となったこの年になると、昨日の自分よりも今の自分がそこまで強くないことを日々の鍛錬から思い知らされる。
衰えを知らぬ、シグフレドの兄ちゃんが羨ましいと思うほどだ。言い訳は、ここまででいいだろう。
油断した。運が良かった。判断をミスした。独断専行した。他人に任せた。
「……これは私の失態だ。豪華にもお前はおとりか、すぐに殺して戻らねばならん」
「おとり、ねぇ。俺としては……まぁ、いいか。失態はお互い様だと思うけどなぁ」
光熱を帯びた鉄棒の打突。雑木林の斜面や木々というあらゆる地形を無視して飛来して、退却用のオフロードバイクを飴細工に突き刺した串のように融解させる。
「なに……!?」
ただ持っていた棒を発射した――投げたのではない! 棒が自力で噴射熱を出して飛行したんだ!
もう一発、俺の力でも無効化しきれないそれが脇腹にあたって、痛みが、腹で燃え盛るようになにかが破裂した音が聞こえた。
熱さが些事になるほどの炸裂の熱烈。いま、手に持っていた棒は発射したはずだろうか……!?
「一撃で死なないか。なるほど、俺よりもパワーのある相手と戦うのはガキの頃以来だ」
脇腹に当てられた鉄の棒を握ったおっさんが険しい顔で、そこいた。いつから!
能力の特性も無視した力をいっぱいに振り回すが、瞬間的な放熱と爆発が距離を離すおっさん騎士の妨害を許さない。
見えなくなった騎士の姿へむけた拳から放たれた余波で大地を爆散させたのだから、殺したと思ったが、視界を覆う塵の向こうに赤い点描の塊が見える。
「……なんのつもりだよこれ!? 凍えろ!」
現れたそれに向けて、上空から地面まで瞬間的に凍てつく絶対零度の壁は、雑木林の植物や草花を土ごと蒸発させる。純粋な冷気ではない。マグマさえ瞬間的に蒸発するほど局所的異常低気圧の真空を超えるマイナス圧力の壁が、それらを沸騰させて爆発的に膨張させる圧熱が、冷気を突き破って、俺の肩をかすめる。ギリギリ反応できた。だが、
「今、避けなければ……」
当たっていのは喉元だ。
爆発が重なる。連鎖爆発ではなくそれが、個体が勝手に蒸発して冷気を帯びるほどの規格外の低気圧を実態のある金属の塊が飛来することで爆雷となり連射されていることを俺に察知させる。
加熱しているはずの金属が、宇宙空間よりも低いマイナス気圧の中で蒸発していない。こんな素材、地球上の物質では限られる! だとしたら、質量を発生せるのではなく力そのものが質量として実体化したフェイズ4に近い能力なのか?
「連射っ、む……!?」
点描の全てが核弾頭を火傷ですませる身体能力を持てあます俺たちですら、致命傷に至らしめる圧倒的な殺意の打突であった。
顔面だけは守る。目が潰れたら、どうしようもない。両腕にグサグサと刺さるのは角の尖った金属の破片。……!? 金属にしては重い。こんな素材俺たちの住む現代の装甲材でもなかなか視ないぞ。
死んだふりをするわけじゃないが、融解した土面と割れた地面の間に息を潜めて、おおざっぱに発射方向辺りををグズグズに重みをました両腕をおろして視認する。
左脚と両腕と背中に数か所と尻に二、三くらい……金属片が何本か刺さったが、まだ動ける。隙を伺うんだ。この霧の中で
「おい……死んだふりか?」
霧が薄らいだその向こうの薄ら笑顔と目があった。これは……、他の全員が全滅してでも本気で挑まなければ、勝てないと確信した。だが、その判断が俺個人にできるものか! だが、やらねば死ぬしかないのだ、最大出力を行使しなければ!
力を溜めていると霧の向こうのそれが弾けて、消えた。その座標へ、光の柱が落ちた。
「ラファエルか!?」
返事はない。敵の気配も消えた。だが、俺以外に数人、周囲に俺と同格の気配がいるのが確かに分かる。その識別は不可能。だが、こうなってしまえばこっちの勝ちだ。こっちには見えないものに対する判別に長けた二人がいる。
霧の向こうから点描が赤く輝く、
「あ、が、が……ぐっああ!」
木々の隙間を駆ける。そこから何発か刺さって、何個かの赤い点描の光点を避けきって分かったが、奴はタレットのようなものを設置しているのかもしれない。
いずれにしも、俺が焦土化する座標内にいたらラファエルの攻撃の邪魔になる。だから、
膝が落ちた。膝カックンをされたのか? そんなふざけた感想が胸に沸き立つ。
椅子に座りそこねたような錯覚に陥る俺の視界の裏で騎士らしい服装の女性が黒々とした紋様を這わせた剣を振っていたのが視えた。
見えたが、瞬間的に消えたその女がいた座標へ光の帯が飛んでそれがは回避されったのだと理解する。
この女っ! 発射前にラファエルの光を避けた!?
それよりも移動の動きがギリギリ目で追えないレベルの超加速なのからして、光よりも速く動いているなんてことはない。だとしたら、やつらにはラファエルの能力を予見する手段が、標準的に備わっている可能性が、
自分の体が落ちた。斜面を転がってやっと、あの紋様に切断された両足の痛みに悶えた。
「あ―――――――――っ!」
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