第14話

 俺が事情を説明し、受け取った金銭と添えてあった文章を組合事務所に届け、仲間たちと解散し、検問が終わったら南の街に行くかと思っていたところ。

「申し訳ありません、等級二以上の傭兵に招集がかかったので、今晩は詰め所……今は人が多いので向かいの喫茶店で待機をお願いしています。報酬は……王国から支給されるそうなので」

 書類をみつつ慣れない作業に慌てる若い事務員に聞かされて面倒とおもいつつ、張り出された書状に何人かの傭兵たちと食い入るように眺め、

「これ、拒否権ないやつじゃないか」と誰かが毒づく。

 先程まで仕事をともにしていたケイトさんと妹分がテラスのテーブル席でコーヒーをほっぽりだしてなにか話していた。

「招集ですって」

 他人事のように感想を述べてテーブルをともにする。

「強制的に引っ張られるのは面倒だけど、仕事があるだけありがたいと思うべきなのかしらね?」

「あ、ウェイター、俺にもコーヒー頼む」

「ところで、なんの招集なのかしら? 戦時招集と同じマークっだったけど、あんなの初めてみたわ」

「ん? あぁ、マシンの襲来可能性だって」

 ケイトさんは険しい顔付きで、小さくため息を吐く。

「本当にこないといいけど」

「ん? なんでそんな」

 なぜ不安なのか疑問に思うとケイトさんは大きくため息を吐く。

「そりゃ、この大陸に住んでたら滅多に見ることのない異形の怪物だけどね。たまに、来るのよ。で、私は一回戦わされた事があるんだけど……もう、ダメダメだったわ」

「ダメダメ? なにが」

 コーヒーの温度を見るように息を吹きかけ、熱を恐れて飲まずにソーサーに戻すトリタの質問に、ケイトさんは本当に嫌なものを思い出すように首を振る。

 俺がコーヒーを受け取り、熱々の飲料をチビリと口に含むとケイトさんは嫌な思い出を語りだす。

「傭兵が100人、死にもの狂いで抑えて時間稼ぎしかできなかったわ。……たぶん、あの場に居た半分は死んだと思う」

「へぇ、そんな何体もいたのか」

「いや」

 ケイトさんは本気で嫌な顔で過去を振り返る。

「戦ったマシンは一体だった」

「は、そんなに?」

 お手上げといった顔で苦笑。ケイトさんはまだ湯気の立つコーヒーを一息でのみほす。

「バケモンだよあれ、ゼフテロくんも『帝国の影』の異名と武勇に恥じないように、まぁ、出し惜しみだけはしないでくれよ」

そんな期待のされ方されたら、何も言えねぇよ。なんて言えば良いんだよ。

「そういや、イェルクさんは事務所か?」

「あれ、そういや、あれ? こっちにきていないわね」

 ケイトさんがあたりを見渡して、待機中だというのに酒を頼む男性を見て、眉をひそめる。。

「暇だからって酒を、いや、私が騎士崩れとして硬すぎるのかな」

「ん、ケイトちゃんって騎士崩れって年じゃないでしょ?」

 トリタのまっとうな疑問に、空のカップを見つめて適当な生返事。

「あぁ、そうなんだけどね。そこらへんはゼフテロくんと同じだよ。私の両親も旧帝国で騎士してたから、戦う手段は教わるなら、そんな心構えも聞かされちゃうよねって話。影響受けただけよ」

「つっても、俺の出身を振り返っても子供を元騎士のおっさんや老人みんなで鍛えてたような思い出しかないからそんなお硬くは……、あぁそれは、いや違うかもな。さっき手形残して違約申し込んだジークフリートも、まぁ、めちゃくちゃ硬いところあったな。保守的というか」

「そういや、その彼、違約を想定して契約を申し込んでたって、いよいよ胡散臭いことに足を突っ込んでない? 幼なじみとして監視とかしたくならないの?」

「あぁ、アイツは……たぶん、っいや、俺と別れた後王国の騎士についていったから、逮捕とかではなかったけどさ」

「なにやったのよ……?」

 流石に口ごもる。話を変えるか、

「……本当にこっちに用事があったみたいだね? イェルクさん、裏の理由があるんだとばかり勘ぐっていたよ」

「……ふぅ、そういえば言っていたわね。任務に同行する理由でそんなこと」

「てっきり、俺を監視しているのかと思ったが、何もなかった。本当に」

「?」

 あぁ、そりゃ不思議に思うよな。

「俺、一応、植民地独立運動に関わっているんだが、あいつも少し噛んでる活動ではあるんだが、……あぁ、政治的なスタンスっていうのかな? それがかなり違うから、警戒してしまっていたんだ。取り越し苦労だったようだ」

「それは、気苦労なことね」

「そうだよな。イェルクさんが行動を起こすにしても、なにか……いや、まさかな」

「なに?」

 俺に詰まった言葉をケイトさんは気にするが、

「別に、どうでもいい冗談をかんがえてしまってね」

 などと言って、あり得ない可能性に吹き出してしまう。まさか、な。実はユーリさんがターゲットでユーリさんを召喚したカルト教団が実がイェルクの知り合いだとは馬鹿げた夢想だ。

 仮に彼が解放軍のシンパだとしても愚帝の真似事のようなカルトには手を出さないだろう。と、

 組合のスーツを着た職員が騎士をつれてなにやら説明を始めるので集合を呼びかけるのが聞こえた。


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