第11話

 裏路地に回り魔導書店少し散財し情報を得て、違法なものも取り扱う魔術に関する装置の店を見て回り、訝しげな目を向けられたがそれがなにかわかってないらしく、兄貴分も深く言及せずに見て回れた。

 喫茶店で休憩する前の最後に薬屋にはいって見覚えのある薬草の名を告げ、店員に包んでもらっていると同郷の友人は何をおっしゃるか?

「毒草?」

「なんで、そんなもの入ってないだろう」

「わかるわけ無いだろ。お前が作る薬なんて」

「僕をなんだと思ってるんだ? 毒なんて作らないし、出来合いのものしか買わないよ。このまま飲み込むんだよ。体がホカホカして風邪が良くなる」

「……作ってなかったのか? 殺人毒を」

「風邪、まだ悪いの?」

 ユーリに首をかしげられながら、可愛らしい顔するじゃないかと胸の奥で文句付きながらやせ我慢をする。

「今の体調を考えるとまた悪くなるだろうからね」

「あぁ、うん。ごめん」

 薬を受け取り店を出ると、ユーリは上着を一枚脱いで僕の上に被せる。

「え? なんで」

「治りたてでしょ?」

 掛けられた上着を返そうとするろと、

「少し汗ばんで」

 それだけで押しのけられた。そういえば、昔、旧帝都に少しだけ住んでいた時、頻繁に熱を出したような……。そんな気がしたが、それは言い訳に使ったんだった。


 ◆


 「あなた、……そうか! やはり、シグフレド様の」

「えーっと、どなた?」

「おまっ!?」

「え、なんで!」

 喫茶のテラス席で知らない人に親しげに話しかけられた。知らない女性、騎士? いや、学生服か、幼いほど若い。僕と同年代だろう、少女と言うべきか悩ましい程度の青年の女は少し考えて、なにか勝手に納得する。

「……! あぁ、そういう設定なのね」

「たぶん、だれかと間違えてますよ?」

 なんだ、こいつ。誰だ? 気持ち悪い。知らない人だぞ。

「当人が放っておいても奇跡の子たるものをあの男の娘も放っておくものじゃないよね。ふふ、グニシアがさ、ずっと探してたって話よ」

「グニシアって誰なんです?」

「……あー、ごめんなさい。有名人ではないものね。説明は、少し面倒だけど、そうね……。有る人物の娘よ」

「じゃあ、今言った『奇跡の子』ってなんすか?」

「私とクラーラのことだよ。断定はできないけど、」

「誰だよ。アンタもクラーラも」

「あと、一応、武功猛々しいタニス国の王妃もその一人という噂もあるわ」

 護衛のゼフテロとトリタが腰の剣に手がとどく中腰まで腕を下げて警戒態勢をとっているじゃないか。本当に不審だぞ。

「……本当になんの話ですか? 貴女とは初対面ですよね」

「ん? 半月、いや一ヶ月くらい前かな、王国で声をかけただろう」

「知らないよ。覚えてないです」

「そう」

「ごめんなさい。あんた誰なんだ? 気持ち悪い」

 少し驚いた。少女が、少し反応しただけでゼフテロとトリタの警戒が臨界ギリギリまで迫る。トリタに至っては刀に手が触れているのを見て立ち上がり、女性から距離をとりゼフテロに近づく形でトリタを妨害するように腕を広げる。

「トリタさん、控えて」

「へぇ、そういうこと、ふーん」

「あんたが誰か僕は知らないんだ。自己紹介くらいはしてくれ」

「……え? 本当に、なら貴方を連れてきたのは、グニシアじゃなくて教授かな? 彼女はなんて?」

「誰だよ! なんだよ連れてきたって。こっちは、自費でここまで来てんだよ。訳の分からない話を」

「おい、下がれ!」

 ゼフテロが間に割って入り腰の剣を握り構えて牽制する。そこから4人でジリジリと一緒に下る。

「まさか、本当に知らない? それは、まずいわ。なんとか急いで」

「トリタさんユーリを連れて逃げて!」

「はい!」

 ユーリと走るトリタに反応は無い。ユーリが目当てのカルトではない?

「あんた、結局、誰だよ?」

「すまない。この女の代わりに俺が答える」

「あー……どうしよ。そりゃ、怖いよね。ゼフテロくん、頼める?」

「王国の、姫で、預言者の、子飼いだ」

 ジリジリと距離を取りながら駆け出すタイミングを見計らう。もう既にこの女の間合いから外れているように思えるが、ゼフテロは異常な警戒を続ける。

「その評価は曖昧だが正確だね。悲しいけど、ところで、我々は君のような人を保護する義務があるんだ」

「あ?」

「やめろ、耳をかすな」

「一応、私、騎士の身分はなくはないから、手荒な真似をせざるをえないこともあるっていうか、うん、いまさらゼフテロ君と敵対はしたいものではないよ?」

 雲行きが急に怪しくなるな。椅子から立ち上がり、手元で魔力を練っている。電気の系統と、風と、あとは

「脅しのつもりですか?」

「答えるなフリッツ」

「ごめんなさい。そんなつもりはないのよ? でも、私たちも困ってて」

 手元の魔力の構築が取り消された? そう思うと、しっかりと腰を折って頭を下げられた。

「まず、手を取ってくれないかな?」

 ゼフテロと目が合う。うなずくと僕らは全力で走る。

「なっ!?」

 振り返る余裕はない。だが、消え方が違うのか僕は何も考えずに走っているのにゼフテロは気づけば僕の横に並んで視界から消えないようについてきた。

 いくらか走って、ぬるい風とやけに冷えた空気を切りながらずいぶん離れた場所まで移動したと思う。


 喉が痛ぇ、静かな街並みにきたが、こんな場所で息切れしてたらちょっと悪目立ちし過ぎかもな。

「はぁ、はぁ、はぁぁぁ、はぁ」

「病み上がりにはきついか、大丈夫か?」

「うん、ありがと、で、さっきの人は何?」

「閣下だ。王国の地方騎士を取り仕切る要人で、預言者の、その、信者だ。あぁやってたまに、スカウトするみたいだな」

「ゼフテロもそのスカウトを受けたの?」

「なんで?」

「あの人、お前の名前を知ってただろ。『ゼフテロくん』って向こう側からしてみたら親しげだったけど」

 言うと、表情がまったく変わること無く完全に押し黙られた。なにも言ってくれなくなったので、話題を換えることにした。

「奇跡の子? ってなんだ」

「それは知らないが、預言者は特定の才能を持った子供を探してさらったりしてるらしい」

「あ? 人さらい?」

「噂だ。噂。すまん、実際はお前が毛嫌いしているような人さらいではなくて、身寄りの無い子供を孤児院で育てて見込みのある何人かを重用してるみたいだがメインメンバーになってるあたり、批判はあれど本当に養護して育てているだけっぽいが」

 街並みをあるきだす。レンガ造りの舗装がカツカツと鳴り、小気味よい音に感じる。

「どうやって合流する? えーっと、トリタさんと」

「手段はある。そういう魔法を俺に教えたのはお前だろう」

「えーっと、どれだろ? 作っても実際に使う機会は少なかったから、理解しててもあんまり思いつかない……な」

「水源を探知する魔術だ。これの出力を調整すれば自分の水の魔力属性因子だけを探すようになる」

「え? あぁ! これは発見だな。そんな効果が、あったっけ? 次を実験し直す際はこういう点に留意してみるか……」

「トリタのアクセサリーの裏につけた水の因子を簡単な式にして貼っつけてある。これで自分の魔力をもとに辿って場所がすぐ見える」

 そんな術、だっただろうか? 自分が作った術に使う属性因子を見る手段と、水分の位置と比率を見る術は教えたが、たぶんそんな遠くまで見通す手段なんて教えてないし僕はそんなことしたことがない。

「あぁ、そんなのも、あったかな?」

「あぁ、重宝してる」

 僕の教えた魔術の僕の知らない使い方をして、それは本当に僕が教えた技術なのだろうか?


 ◆

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