第43話
僕を担いだユーリが階段を降る途中、ユーリの背中越しに大きな揺れを感じた。
「え、なにこれ? 上でなにが起きているの」
「爆発でもしてるの?」
「いや」
ユーリと僕の疑問に背後に部下を率いるギュヌマリウスは目を伏せて答える。
「コルネリア子爵が魔術で作られたっぽい生物と戦ってる。……そう、なんだと思う」
「……それで、この振動? そうか」
耳をすませば今も微かに爆発音のような音が響いているが、
「コニアなら、これって実はかなり抑えているんじゃないの?」
「かもしれないとは薄々思っていたが、……本気じゃないのはそうなのか、俺には全く分からん雲の上の話のようだ」
「分かるも何も、見たことがあるかどうかでしょ」
階段を下りきる前にまばゆい魔法陣の輝きが視界を邪魔する。
「なんだこれ? 魔力を、吸っているのか、……人を贄に!?」
魔法陣や、転がる人間に触らないように避けてあるいきながらため息をつく。
「頼めるか? 転写を」
「もうやってます」
そう言うと、ギュぬマリウスの部下たちは遮光のためか目元を隠す仮面をつけてなにか板に抑えた紙とペンで模写を図っている。
「えーっと、彼……、その方々は?」
「空間関連の魔術のエキスパートたちだ。もしも仮に、戦いになって逃げや回避に徹してしまわれたら、それこそ預言者でも無い限りどうしようもない天才魔道士たちだ」
「魔道、ですか。その方々」
『彼ら』と途中まで言いかけたが五人中三人が女性の比率な上にただならぬ雰囲気のために『方々』と言い直してまで、すこし距離をとって邪魔しないようにギュヌマリウスに聞いた。
「あぁ、お前より上の権限で召喚魔術の魔導書を読める。というか管理に関わっている人たちだ。また、調べる機会があったら彼らに頼むこともあるだろうから、顔は覚えておくといい。あぁ、仮面を外した後にな」
「……これ」
ユーリから背中から降ろしてもらい、血中の動物毒の解毒のために血液まで無力化してしまい貧血気味になった体を壁に持たれながら、魔法陣を見て意見を述べる。
「召喚魔術もう発動してないか?」
「おそらく、贄と条件が揃えば自動的に発動するみたいですね」
「そうか、解除はできるとおもうか?」
「祭壇を調べないことには断定できませんけど、それをしよとは思えません」
「今魔法陣に触るのはやめたほうが良いわ。召喚魔術に巻き込まれて魔力を吸われて殺される可能性が高いわ! 離れて」
目元を隠した女性の魔道士に慌てた動きで静止されてしまう。
「えぇ、大丈夫です。流石に命は惜しいので触りたくないです……ですが、召喚を止められないものかと」
「……そうだったわね」
なにか納得したようで、忠告をされる。
「……私達が殺すってことはないけど、保護をしたいなら貴方がやらないと誰もやらないわよ? 拘束して、王国に渡して放置。私達の仕事はそこまでなの」
「え……」
「当たり前でしょう。ギュヌマリウス様の主君の圧倒的な剛腕といえど、その役割をやりたい人が少ないから貴方が魔導書を読む許可が比較的簡単になるんだから」
ユーリとともに何も言えずにいると、彼女はため息をはいて適当な雰囲気で手を降って力強くつぶやく。
「我々の立場から言えることは少ないけど、言いたいことはあるわ。……『頼んだ』わよ」
「! はい」
そうだ、僕がやることなんて変わらない。仮面を外した彼女の顔が魔法陣に照らされてにやけていたのが見えた。
魔法陣の明かりが弱まり、失敗かと思ったが、祭壇からなにか強烈な衝撃がつたわる。いや、吹き飛ばされるような爆発とかそういうのじゃないが、強い風が真夏の空より暑く照らされたような吹込みをしてくるのだ。
様子を見ると、白い。服装の……簡素な衣服をきた少女がへたり込んでいた。
「あー……?」
彼女は状況を飲み込めてないのか? 周りを見渡して、なにか言おうとしている?
彼女は何も言わず、その場の石造りの床を軽く叩いて首をかしげた。
ユーリが彼女の下に駆け出した。そうだ、保護は、僕の役割だ。ユーリに続いて僕も彼女の下へ行く。
「ん?」
首をかしげた彼女へ、ユーリに続いて階段を登った僕は
「もうしわけありません」開口一番頭を下げた。
「貴女は我々の世界の悪人たちにより異世界から召喚されてしまったのです。いわば、誘拐されたんです。事態を未然に防げなかった私のせいです。もうしわけないとともに、こちらで誘拐被害者を保護するので、どうか」
「んー、あ!」
「まって、フリッツ!」
状況説明をユーリに阻まれる。
「あ、うん」
素直に従うと、ユーリは彼女に近づいて、膝をついて彼女の手を取る。
「シャノン……このタグが、貴女の名前ね?」
僕と同じくらいの年の見た目で亜麻色の髪をした彼女の頭を撫でて、急に抱きしめる。
「大丈夫、彼は良い人だから」
なにかを見てシャノンと呼ばれた彼女は見た目にたいして、幼いふるまいでうめく。
「うー……あ?」
向こうの感嘆の言葉のような言語だろうか? と思ったら、
「この子、正気を失っている」
そう告げたユーリの顔から一切の感情が読み取れなかった。その頃には魔法陣への魔力の流動が消え去り、ただの黒い模様に変わっていた。
抱きしめられる成人直後くらいの見た目に対し、異常に幼い彼女は言語にすらなってない声で喜んだ声をあげていた。
「キャー、あー、ばあ」
少しして、眠った彼女をユーリが担いでくれ、魔法陣の構造を記録する仕事をしている職員より先にギュヌマリウスと共に地上へ戻ることになった。お陰で僕は階段を歩くことしかできなかった。
いや、こんなの、なにもしていないのと同じだ。
僕はまだ、彼女たちのためになに一つもできていないのだと、思い知った。
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