第72話 back Trunk
静まった邸宅に侵入し、付着した血も処理したとは言えフードの付いたロングコートを作業着扱いで用具入れに隠して側面玄関からこっそり居間に入る。
するとそこでなにかカップに入れて飲んでいたゼフテロに見つかる。
「外でなにしてた?」
「うん、トイレ行ったら自分の部屋がどこか忘れちゃって、起こすのも何だし、どうしようか悩んで少し体を動かして空を見てた」
「そうか、今日は夜も晴れているからな、だが、もう二回も寝た部屋だろ? まだ覚えられないか?」
「あぁ、うん、見分けがつかなくって」
シンクに移り空だったカップを洗い始めて、ゼフテロはうなずく。
「確かにそうか、後で扉に名札でもつけようかな」
「そうしてくれたら助かる」
「なぁ、その臭いはなんだ?」
「臭い?」
「あぁ、嗅いだことがない臭いだ。いい匂いではない。なんというか、すっぱいような、だが、なにか違う」
「あー、ちょっと汚れちゃったかもね」
……まずい、汚れは確認したはずだが処理した後に死体の臭いが移ったか?
「寝る前に寝間着に着替えておけよ」
ゼフテロは気づかなかった、なんとか。
◆ ◆ ◆
「おきろー。おい、起きろ! フリッツ」
旅の疲れも溜まっているのだろう。到着してから夜更かししてるわけでもないのにジークフリードは朝遅くまで上手く起きれない。だから、同じ部屋を割り当てられた俺が
「起こしてるだろう」
「うわっ!」
布団をひっぺがして天窓を開き外気を取り入れる。
「うぅ、寒い」
「あぁ、そうか? ほら、顔拭いてこい」
「うーん、別によくない? ここに居ても出歩くこともないし」
「なんか、なんかあるかもしれないだろ」
「人に会うとも思えないし素振りくらいしかすることないんじゃないかな」
「あ? なら、街に行って出歩いてでもくれば良いんじゃないか? 流石に10歳のお前にまでいろいろ手伝わせようとはしてないみたいだ。といっても仕切るための数字の話だ。強いのは知ってんだから、いざという時だけは頼りにしてくれるさ、時間を使って散歩でもしてな」
不愉快そうにジークフリードは睨むような、ただ目を細めたように首を斜めに傾ける。
「本気で言っている? いいや、まさか、ゼフテロ、アンタはこの旧帝都の惨状を見てないのか?」
「惨状?」
「あぁ、そうか」
ジークフリードの不機嫌な顔は納得したように晴れると縦にうなずいでいまいましげに言う。
「知らないんだね。その、ずっと壁と塀の補修してたからかな、お陰でもうずいぶんきれいになったからいいんだけど、そうだな。……外は獣の狩り場みたいな場所だよ」
「ちょっと意味がわからないな。街が獣の狩り場?」
「買い出しにでも着いていくと良い。あの街、大通りでさえ……」
口ごもる。
「なんだ?」
「見ると早いよ」
それで渋々ながら朝の支度を始めたジークフリードは朝食を取ると素振りと魔力属性因子を多量生成する体力を使うトレーニングをしたら、疲れたのか木陰で眠って後から到着した同年代の子供を迎えて建物を案内して、昼食を食べ始めていた。
その頃に食料を買い出しするために俺は買い出しの荷物持ちに頼まれて、
◆ ◆ ◆
伝承に伝え聞く死神は骸骨がローブを被った姿をしていると広く言われている。そうともすれば、眼前に来たるそれは死神といえるだろうか? 少なくとも、数十人の門番たちはそれを見て死神のようと認識した。
瞬きのような一瞬で黒い幕が張られる。音もなく、魔力も感じさせず、光も失っちゃいない癖に空が、道路から先の景色が、塀より先の隣の壁も、それらが見えなくなったその暗幕から、存在しない隙間を縫ってすり抜けたようにその死神は、
ローブを羽織った子供が心臓であるように、肋骨で守った人よりやや大きな白く、霧を纏った骸骨が腕を広げる。
「なんだ、お前!」
雷撃と風による画一化された魔術の一斉放火に、息もつかせず火炎放射と爆発する火種を照射させ、骸骨は煙に隠れる。
しかし、気にもとめずゆっくりと歩き。骸骨が真正面に手を広げると。屋敷へ密着するように黒い色が幕となって張り付いて屋敷の形そのままで封じ込めた。
「ちょっと、少ないね」
死神の少年は用心棒たちを見て、がっかりしたようだ。
「ここは特に強いひとが居るって聞いたからできるだけ最後にしたんだけど」
死神の手には万年筆が握られている。
「ダメだね」
万年筆を横一文字に振り払うと数人が植木や物置小屋と一緒に切断される。
「あ!」
「見えなかったんだ?」
なにが起きたかわからず死んだ。数名の死体が腹の臓物を撒き散らして吹き出した血と中身が生存者の横に転がり、切られた小屋より大きな氷の塊が死神へむかって打ち付けられるが、氷は外側のどくろに届くと溶けて消えて行く。それはまるで、
「吸収だ! こいつ、ガワの骨は氷でできてやがる!! コイツ魔力を吸収しやがる!」
向かった数人が骸骨の振った左腕にあたって崩れるようにその体を破壊される。そこには流木が砕け散ったような死体だけが残った。その中で、一つ、人の形を保ち、体を反らしながら腕を受け流しそのまま死神に向かって炎をまとった双剣を振るう魔剣士がいた。
その突撃は反応された骸骨の右腕へ向かって、ぶつかり合って骸骨を形作る氷を溶かさんとするが、その炎はきえずとも骸骨には微塵も通用せず、魔剣士は骨をもした氷の手のひらに握りしめられ、腕を折られ二振りの剣を取りこぼす。
「すごいなーこれに触られても耐えますか」
上半身だけのドクロの肋骨に守られる子供がそう宣うと、手の中のゴロツキは握りつぶされ血と人の粗挽き肉になる。こぼれら剣から沸き立っていた炎はその命と共に消え失せる。
握りつぶしたその瞬間、死神の本体たる骸骨の肋骨の中に立つ子供は粗挽き肉に目を移した。その隙を好機と見た二名が地面を抉るほどの脚力で、風を切るように死神の腕の下、肋骨へ肉迫し掲げた右腕の下と正面に迫る。
右腕の下の剣士は肋骨の隙間を縫って突き刺さんと剣を真正面に突き出すが、肋骨の隙間に毛細血管のような網目状の氷が現れ剣を絡みとり僅かな身じろぎで剣を奪い振り上げた腕の肘が剣士を頭蓋から潰す。
対して、正面から斬り掛かった槍使いは最大限威力が乗る位置で大上段から地面を割るほどの切っ先を振り下ろすが、子供の万年筆の尖端に引っかけられただけで槍は折れ、肋骨の中から出てきた子供に腹を割かれ、不思議なことに血は吹き出すこと無く、切り傷が枯れたミイラのように黒々と萎んでいた。
「粒ぞろいってのはほんとうだったのかな?」
骸骨の肘についた血液は枯れ落ち葉のようにくしゃくしゃに崩れて吹けば消えていき、肋骨を拡げてまたローブを羽織った子供を護るように覆い被さる。
正面の腹を割かれた男は肌が紫色になり、その血液が固まったようにみるみると黒くなる。
「すこし、ぼやけるな。君だね」
子供は目を伏せ、骸骨の背骨から新たな腕の骨が生えてきて、斜め後ろの細やかな茂みを殴り、こすり、3度も太く巨大化した骨組みの手のひらを叩きつける。
「錯視とか、そういう術はむしろ、専門なんだ。こうやって戦うよりもよっぽどね」
背骨から生えた腕が抜け、独立した腕として這って周り。生き残った兵士を潰してゆく。その周囲には近づくだけで凍えてから、枯れ木のようなミイラにされ命を奪う膨大な闇の魔力因子が漏れ出して逃げ惑うゴロツキたちを摘み取ってゆく。
何人かのゴロツキは破れかぶれでも僅かな可能性にかけて死神に迫るが拡げられた巨大な骸骨の腕の中、胸に近づき武器を奮う前に、肌は枯れ黒炭のような色合いに細まり、ミイラになって息絶える。
2人か3人、死神に辿り着いても闇の魔力で消耗させられた体では、骸骨の胸から出てきた子供の早業に一突きで首を折られる。
「外はこんなものかな」
死神の目には闇の魔力で出入りも空間移動も禁じた屋敷の中で動くことの出来る水分を含んだ物資の位置が理解できる。
張られた闇の幕は屋敷の外と中だけでなく、地上階と地下をも分断して、8人いる人質になり得る被害者の近くにいるゴロツキの人数が2人であることを確認させる。
地上階は1人除いて全滅。魔術で作った勝手に動く氷の骨格標本に摑まれてその生命力を止められ、1人残して他は全員死んだようだ。
地上階と庭を分断する暗幕を消す。
黒一色でピッタリ覆われていた邸宅が色を取り戻してその中から現れた男に子供は告げる。
「オマエは……僕の練習相手になりそうだ」
「死神……?」
「そうか、オマエらくらいだと僕程度でも神に見えるのか」
迫る男へ掴みかかる氷の骸骨。
溢れ出る闇の魔術も耐えきり両腕を中程で切断し、男は僕が居る肋骨へ迫り、ずいぶんと肉厚で長い石碑のような大剣を振り絞って、僕に斬りかかる。
肋骨に仕組んだ魔術も魔術仕掛けの肋骨そのものも貫通して、僕へ届いた大剣は僕をかすり、攻撃のすきを見せたようだったが、恐るべき速度どで地面を蹴り、エグリ土を飛ばしながら、後ろへ飛翔するように下がる。
錬気の制度から服にすら付着しない土に怯んだようなふりをして魔術で糸を張り、トラップを仕掛けようとするが見切られたのか炎の術を数発放って魔術製の糸を焼いて、肉すら引き裂く糸の使用を禁じる。
むかつくので風を高速回転させる風で作った
風をしかめっ面で魔力を込めた剣で叩いて打ち消すと、後ろから迫った骸骨に反応して炎の術で魔術その物事消しさる。
肋骨からでてきた僕は万年筆一つで男に肉迫して、斬ろうかと思ったが男が結構反応できているから前に地面から砂利の混じった土塊を生成し高速回転する柱ほど太いヤスリを打ち出し、男と僕の間に高速回転させながら発生させ、男の上段からの振り下ろしを妨害しながら、腹を狙って切りつけようとしが、後ろに飛ぶように引きながら蹴り上げてカウンターを狙ったので脚にささっと切りつけて、両腕を修復した氷の魔術でできた巨大な上半身だけの骸骨が男に掴みかかる。
男は対応して火炎で骸骨の大半を溶かすが、膝を付き、僕に切りつけられて地面へつく膝の色は薄ら青い黒色へ変色していた。
「は、ああああ! ぐあぁ!」
「はい、僕の勝ちですね。楽しかったですよ」
「なにを、したぁ!」
「はい、切りつけたそこ、水の魔術ではよくある浄化術の一種なんですけどね。本来は水の中の不純物を水の底へ貯める術なんですが、それを使って貴方の血液を血餅と血清に分ける術を体に回しました。その、傷口から」
「……! ……そう、か」
殻口まで紫色になって体の殆どの血液が変色を始めた男は怒りに満ちたまま力をなくし倒れる。
「……自分より弱い相手ばかり、……こんなになんで」
◆
入り口近くに死体が一つ、獲物が一人。獲物は僕をみてなにか言おうとしたから、血が飛ばないように凝固させる浄化術を使いながら首を割いた。
まるで割れるように万年筆で切れた首を一瞥し、男が座っていたテーブルにあった鍵束を握ってその先の血液が流れている反応がある地下階段の先へ降りる。
「……誰」
満身創痍。といった状態のお姉さんが檻の中から声をかけてきたので、なんと言えばいいか少し迷って適切な表現を思いつき、『ひと仕事おわらせたんですよ』とアピールのためにコートの内側にしまった封筒の束をちらりと見せびらかす。
「『賊』だよ。ここのゴロツキ共といろいろあって、抗争した『賊』」
「賊……私達をどうするの?」
どうも、できれば逃したい。
鍵束を順番に入れようと2、3本試したが面倒になったので水流を高速回転させて切断する
「……! 味方なの?」
「うん、欲しい物以外はいらないよ。これでも立場上、賊でしかないし」
檻の順番に甲高い音を立てて、もう一つ閂を外して、最初のお姉さんが居た部屋の2人、後の部屋の5人が出てこないから不思議に思うと手錠と鎖に繋がれていることに気づいて、それぞれ鎖を切って、手錠は鍵の形から鍵束の中の小さい方の鍵のどれかだと思うから、危険だし、自分で解いてもらいたくなった。
「鍵、これの中にあるはずだから、探して」
「あの」
幼い。立てるだけといったほど幼い子どもがボロボロになった服で必死に僕のローブみたいなコートの裾を引っ張ってなにかを訴える。
「待ってね。順番だから、もうすぐこんな錠は」
鍵を順番に開けていこうとする僕と同じくらいの女の子から目を話、隣のろうを見る。
見ると死体しかないのかと思った手錠と肌の隣接するそこは血が滲んでいるというのにそれ以上のことがあると言わんばかりに引っ張って、僕を導く。その先には全身がただれてちまみての男が両腕をそれぞれ壁に貼り付けられて拘束されていた。
「……生きてる。血が通っているから、これはどう見ても生きてるが、これは、どうすれば」
……僕にどうしろと。……いや、いまなら、頼れる人もいるか? ……報酬で動くよな? あの人も善人だが義理がなければ助けることも難しいだろう、義理が無くても、利があれば、いけるだろう。
この場で強奪した封筒の一つに魔術で作ったインクで万年筆にひらさせ、文字を記す。
次にもう既に無い暗幕の外にある死体の横から金貨をいくつか拾って袋ごと僕と同じくらい、いや、少し年上くらいのお姉さんに渡す。
「この封筒を、外れにある森の手前の豪邸に住んでいる魔道師に渡して、今、帰っているから、それでだめなら、どこかの医者にこのお金で頼んでお兄さんもみんなも治療してあげて、郊外の魔術師にはこの袋は、この封筒に書いた条件を飲まないなら渡さないで、すぐに僕が会いに行くって伝えて」
「え? え!」
「頼むっ!」
僕には流石に直接彼女の下へ行くには時間がない。一度帰ってからアリバイ工作をしてからでないとこれらの人殺しがバレてしまう。
「頼みます!」
「わかった」
僕はそれを聞いたらすぐさまその場を後にして、全滅した邸宅の庭と外界を仕切る暗幕の魔術を解除して、大急ぎで疎開先のユニーカの別荘に戻る。
封筒にはこう書いておいた。
『親愛なる師匠シシィへ、貴方の弟子より』
『前に欲しがっていたやすりとのこぎりをあげます』
『彼らを助けてください』
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