第87話
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僕は僕が作った間違いの中に正当性を探すのに必死で、侮蔑するあの人たちの涙にだけ目を向けた。
そうだ。あの娘の涙は、僕の通った足跡だ。
僕が、壊した。
大きな不幸を壊した後、残ったほんの小さな不幸だ。だから、僕は僕を否定してはならない。
民衆から引かれ、殴られ、蹴り、踏みつけられる弱者の苦悶の涙。
それは僕に救えない。僕が救ってはならない女の子の苦しそうな、声も、悲鳴も、食いしばった顔も、
その絶望は僕が作った。僕が望んで、僕がやっのだ。
民衆が賛美して、弱者が礼賛した正義の結果だ。こんなものも、
悪の首を落とし、胸を切り裂き、心臓を止める。力なき人々を苦しめた悪を苦しめ、殺して、辱める。
やりすぎることでしか僕の正義は証明できなかった。子供を攫って売り飛ばし、麻薬を作って売り飛ばす、歯向かった兵士には金で雇った傭兵で黙らせる。
その結果がこれだ。
名もなき英雄が通りすがっただけでマフィアと関連組織が何人も死に絶え、一人の女の子が集団の大人によってたかって蹴られる暴行の嵐。
その悪を許さなかった正義を証明した結果がこれだ。正義のヒーローでは、全ての弱者は救えない。だが、
今すぐ死にそうな誰かを一人でも多く救える。その結果だ。だから、僕は彼女に侮蔑の目を送るのだ。
そうでなければ救った人たちの命を否定することになる。
それは決してあってはならない。ならば組みした馬鹿の家族が不幸になるくらいの取りこぼしは諦めないとならない。そうでなければ、きっと、クーングンデさんに『お前なんで死んだ方が良かった』って言っているのと同じ意味に成る行動をとってしまうのだぞ?
そんな、無礼をするつもりはない! 僕にはできない! したくない!!
悪には悪にふさわしい末路だ。それが一族郎党辱められる。それだけのことなのに、
ずっと頭にこびりついたあの光景の中心に居た彼女には同情するよ。それでも、僕には理解できてしまう。今苦しんでいる彼女の父が加担しようとした悪事にどれだけ多くの人が苦しめられたのか、どれだけ多くの人が涙を呑んだのか。
悪が弱者を嬲って、結果、悪が弱者より弱くなり、弱者が悪をなぶれるようになった。そう、こんなとこにしか僕が証明した正義はない。守れた全ての多さは不幸よりもずっと少ない。でも、
苦しめた人々とそれに組みした者に、涙を呑んだ被害者にしかできない暴力がある。だから、こんなに見苦しい。だけど、ここにしか正義はない。憎しみに染まったその全てを否定したら、悪の行いで生まれた死を肯定してしまうことになる。だからこそ、悪になっていないなら、憎しみを否定するほど下品じゃない。それなのに、僕は、
僕が殺して回った血の海に、躯の
その全てが僕を恨む。故に、僕が正しいと証明される。
組した者を排斥にかかる民衆が僕をたたえて路の足跡に義気を見い出す。
きっと僕がまぶたの裏に隠れるこの躯たちの顔を怖がり続ける限り、人々は安息と平穏を得ることでその平和が力を得る努力ができる。そうすればきっと、この躯の路の悪夢にも、橋をかけるだけの躯の骨が集まるだろう。
『お前は狂っているんだ!』
たった一人の英雄が躯の路の先の血の海に浮かぶ島で僕を睨む。ひどく怒った顔。
ずいぶん若い頃のお父さん、なんだこの浮島は巨大な髑髏が血の海に浮かんでいるのか、
『狂っている? なんで、僕は……みんなのために』
『そんなわけがないだろ! ……人がそんなことで何百、何千人も殺さない。お前は……! いや、いい……話すだけ無駄だな』
『……「そんなこと」? 父さんは、見殺しにしていたらいいって言っているのか!?』
『は?』
『父さんは、いっぱい人を殺した英湯だから褒められたんでしょう!? 僕だって、褒めてくれていいじゃないか!!』
『貴様ッッッ!!!!!!』
錆臭くて、生臭い、赤い味が口の中から出てくる。
父の拳、痛かったはず。そんなことよりも、怖かった。
涙がでてボコボコになって身体が動かなくなっても、周囲の老人たちも誰も僕を助けてくれなかった。僕が助けてくれたのはセシリア先生の温もりだけ。
もしもあの時、妥協していたなら、僕には別の道があっただろうか? 例えば、セシリアをシシィ先生と呼んだりした愛称が、シシィ母さんとかになったかも、
父さんに殴られた痛みを思い出せない。シシィが父さんから僕を攫ってくれるほど死にそうになったのに、怖かったことしか思い出せない。
父さん、……うるさいな。お前の目は、うるさい。そんな目を最後になるまで、しなかっただろ!
「アンタは僕に殺されただろう? なんでまだ僕の中にいる!! 出てくるな! 父さんは」
「……」
「悔しかったんだろっ! 衰えて……病気で陰っていく自分が僕に超えられるのが!」
「……」
「怖かったんだろう!? そう言えよ! もうとっくにアンタより強くなった僕が、父さんの偉業を超えて、名声を得て、自分が間違っていたと認めさせられるのがッ!!」
「……」
「なんなんだよ……僕が殺しただろう? まぶたの裏でうるさくするな……」
「……」
「僕が殺してやるつもりだっったのにッ……! 勝手に、自殺しやがって! 僕が、アンタを殺せないって知っていたくせに……、僕のためとか言うつもりで自殺したんだろう?」
父はもう、悪夢の中にいない。
「違う! 違うんだ! そんなつもりじゃなかった! 死んで欲しくて地獄に落ちろっていたんじゃない。そうじゃない! 地獄にいかなくていいくらい……僕を、愛してくれていたならッ」
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悪い夢をみたような気がする。
気の所為だ。今、持っている書類を書式に則って用意していただろう?
無心で作業していた所為だ。作業しながら思い出せない悪夢を見たような気分になる。
彼女が作業していおる専用の機材が置かれている部屋に入って軽い内容の確認のあと、手元の書類を見て、話半分で作業に集中しているせいでクラーラにこの声が届いているのか不安になる。
「内容はこんなものだ。アンドロマリーへの信号連絡を頼めるかい?」
「はい、じゃあここに置いておいて」
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