第4話

 燃える衣服を二人で囲って、しっかり燃えるように僕が薪を焚べたところで、彼女は口を開く。

「これからどうしよ……」

「そうだな……そりゃ、帰りたいよね」

 考えなしの返事をした僕に、彼女は激高してまう。

「当たり前でしょ! こんな訳の分からない世界に連れてこられて、襲われるわ服を燃やされるわでっ! ……っ……! ごめんなさい…………! でもっ! ――!」

 すすり泣くことを堪えるように鼻をすする音が聞こえる。

「そうか……だよね」

「本当に、私はただ、……逃げ出しただけなのよ」

 逃げ出した。そうだよな。誘拐されて、逃げて、次は私物を燃やされて

「なら」

 逡巡、それ以降は言いたいことを言い切るだけか。

「探そうか。帰る手段」

「……あるの?」

「わからない。だけど、昔は確かに存在して、運用されていた」

「昔は、ってことは今は?」

「旧帝国、今はプロギュス公国になってる。……って名前になった国に、プロギュス帝国だった頃に異世界と相互交流をする手段を持っていた。だけど、それを異世界の悪人に利用されて大陸を一つ、ぺんぺん草しか生えない荒野にされて、大陸をもう一つ、水銀とヒ素で沈めてしまった。だから、今はないことになっているけど、禁止するためには厳重に管理されてる場所があるはず」

「それって……」

「だけど、実際の所、管理なんてまるでできてない。入手する手段は少なくない」

「……そうなの、てっきり盗みに入るのかと」

「そんな必要は無いんだ。必要だとしてもカルトを襲うよ。事実として禄に兵士も揃えられない御使い信仰のカルト教団でも召喚術を使える。だから、旧帝国をくまなく探せば、方法だけなら簡単に見つかるはず。ただ、……問題が2つあって、需要もないのにリスクの伴う還送手段が記された魔導書がどれくらい流通しているかどうかってことと、公国が王国の植民地化されてから酷く治安が悪化したってことが……どうしようもね」

 夜空を見上げて、そこに星が見えなくなるほどに薪を焚べて周囲を照らす。

「だからユーリ、一緒に旅に出ないか?」

 彼女は考えて、首を横にふる。

「貴方と? ……ごめん、いきなり服を燃やすような人はごめんよ」

「そう、なら、傭兵も雇えばいい。近くの街の一つで、旧帝国軍人が傭兵をするのが流行って、そういうのが盛んな地域がある。それに、一度助けたからには僕もバレたら極刑だ。それに帝国にいくならどのみち護衛がいる」

「……運命共同体ってこと?」

「次に王国兵士が聞き取りに来るまでには逃げるつもりだ。利用できるから僕を騙す気できなさい」

 考えた彼女が、……眉を潜めて僕を見る。

「いや……待って、貴方おかしいわ? 変よ」

「どれが? 一応、心当たりが複数あるんだけど」

「貴方はなんでそうまでして私を助けたがるの? ってことよ! 見捨ててもいいはずじゃない」

「ん? いや、だって極刑は嫌だなって」

「は?」

「納得出来ないんだ」

 しばらく、だまって火を見つめた。

「何も知らない誰かを、助けたくなった。その理由なんて相手が理由を知らなさそう。それで、十分なんじゃないかな?」

 夜のが少し寒さを帯びてきたところで熱を帯びで赤くきらめく灰が、なんの灰だったかを確認できなくなったことを確認した暗闇の中で、

「そう」

 すこし、笑ったような息遣いが聞こえる。

 その後に時間が経ってから聞こえた声色が少し楽しそうだったのは、たぶん、僕にとって嬉しいことだった。

「納得できないなら、仕方がないのよね。うん、一緒に、傭兵を探しに行きましょうか」

 これで僕らは旅に出ることにした。

 あっさりしてるかもしれないが、覚悟としては十分だ。助けた分の義務は果たす。

「ありがとう。僕に、無責任な真似をさせないでくれて……ありがとう」

「いえ、弟や妹たちのために帰りたい気持ちも確かだけど、……帰れないのなら、この世界で幸せになるわ」

「そうだな……どうしようもない時は、それもいいかもね」


 ◆ ◆


 これほど楽しいと感じたのはいつぶりだろうか? ニ年前、いやもう3年も前になる立て続けに起きたあの別れ以来、こういう感情を抱えるのは初めてだったと思う。

「魔法ってのは制御できない現象を総合して分類しているんだけど、人の身体に魔法現象が起こることもあるんだ。それは制御できるけど、まる再現性のないその人独自の特殊能力として『魔法が宿った』って表現されがちかな」

「似たような表現は私達の世界にも有るわ。例えば、超能力とか、異能力って表現をして能力者がどうって表現ね。まぁ、私達の世界でもそういう人が本当にいたら研究の題材になるだろうけども……」

「そうなの? まぁ、表現の違いか。まぁ、魔法にもいろいろあるから研究の題材にならないとか、使いこなしたところでしょうがないから魔法使いでも、魔術を覚えるのが基本だけどね」

「そう、なのね」

「……これは、あぁ、そっちの世界には魔法が起こらないって聞いていたけど、あんがい、進んでいる研究が違うだけかもね」

「そうね。さっき話していた勇者因子とかどうとかっていうのは私達の世界で研究しても何の約にも立たなそうだからね。だって私達の世界に魔法という物理法則が存在しても魔術なんて技術は存在しないのだから」

「あぁ、そうだ……あぁ、街の門が見えてきた。ここからは異世界の話はしたら殺されると思って」

「……! わかった」


 獣除けの門で待機していた番の兵士に軽い受け答えだけして顔を見られるがなんの引っ掛かりもなかったのかそのまま素通りさせてくれて、住宅街区画から入ってそのまま大通りを進ませてもらって、居住区画と商業区画を区切る門でも素通りさせてもらった。


 「こっちはレンガ造りが多いのね」

「まぁ、荒事が多いし、燃えるとちょっと」

 住宅地側から入って商業区画に移動して、適当な返しを口にして人混みの減る街の堀と壁に近い傭兵の詰め所を探していると、そんな適当な返事をしてしまった。

「ここで?」

 通りかかる幼い子供連れの母親が眠る子供を抱えて正面を歩く。そんな場所で荒事は無いか。

「食べ物とか、彫金とか火を使う作業もあるし、ほら、多いよね」

「そう?」

 ユーリは首をかしげる。彼女が納得してないからには白状するしか無いな。

「ごめん、適当に答えすぎた」

「あ、やっぱり?」

 苦笑される。

「本当はなにも知らないんだ」

 食品を売るような外食店が無くなった中から、目印の昼から営業している酒場を見つけたので、声を上げる。

「あ、あった。あの酒場の隣が目的だ。ユニーカから、あー……村長の代理をしてる僕の幼なじみから紹介してもらった傭兵団の詰め所だ。うん、たぶん。そう」

「横の店、昼から酒が飲め場所が? 営業を……繋がっているだけかとおもったけど」

「流石に酒は日が沈まないと犯罪になるから、出してもらえないけどね。普通に営業だけなら繁忙時間でなくても酒場はするよ」

「あぁ、レストランとかそういうのね」


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