第7話 悪魔神、学園生活がスタートする
「ち、ちょっと、10万点ってどういうこと!? 」
「ほら、あそこ」
俺の名前のところを指さす。
それを追うようにして、視線を動かすエニナ。そして目を見開く。
「ほ、ほんとだ……すっご」
昨日もそうだが、野次馬に囲まれることが二度もあるなんてな。
なんでそんな点数を出せるんだとか、満点を超えているのはおかしいだとか質問や疑いが飛び交う。
めんどくさいな。
「言っておくが俺はこんな点数に収まるつもりはないからな」
そう言って、エニナの手を引いて学園の中へと入ろうとしたのだが、不愉快な声がしたので足を止める。
「なんで、なんであの時のお前がああああああ!!!! 大貴族であるこの僕ちゃんが1位じゃないんだよおおおおおお」
俺はためいきをついて、振り返る。
やはり負け犬の遠吠えをしていたのは、あの時エニナをいじめようとしたデブ貴族であった。
何がご立腹なのか、ふがふがと息を荒くしながら、近づいてくる。
「あのなぁ? なんで僕ちゃんが1位じゃないんだとか、おかしいだとか吠えてるけどな? それ2位や3位が言えるセリフなんだよ。お前何位? 」
「……5位」
「は? 冗談だろ」
こんなんが5位なわけがない。俺は紙を確認する。
ええと、5位はっと。
バススカ・カセマヌ。
「おいデブ、嘘をつくな。お前のいう5位はバススカという名前になってるぞ」
「僕ちゃんの名前がバススカだよおおお!!!!! 昨日名乗ったじゃないかああああ!!! 」
むっ、言われてみれば確かに昨日そんな名前を言っていた気がする。どうでもいいし、こんなやつの名前を覚えようとも思わないから忘れていた。
「そうだバカカスだったな」
「なんでさっきは言えたのに今はまたバカカスなんだよおおおおおおおおお!!!!! 」
「どうでもいいだろう。それにお前が5位とはなんの冗談だ? 裏口入学をしたなら、こんなとこで油を売らずに、鍛錬でもしろ」
俺の言葉にギクッとするバカカス。
しかし反論してくる。
「お、お前だって裏口だろ! 10万点なんてありえないじゃないかああああああ!!!!!! 僕ちゃんでも……ゲフンゲフン! ともかくうううう!!!! 覚えてろよおおおおお」
そう捨て台詞とたんを吐くと、校舎へと入っていこうとする。
【スリップ】を発動させる。
バカカスが思い切り、足を滑らせる。
どんっっっつ!!!
大きな音をたて、尻もちをついたバカカス。
取り巻きに身体を起こされ、尻を擦りながら、今度こそ校舎へと消えていった。
その光景を見ていたウルマ達は、姿が消えたのを確認してから大爆笑していた。
俺はただ、エニナの胸をいやらしく見ていたバカカスに腹が立ったまでだ。
こいつらは俺が魔法を使ったことに気づいていないのか、勝手に転んだと思い込んでおり、
「あいつなにもないとこでこけてたな」
「従者に起こされてたとこから笑い堪えるの大変だった」
などと盛り上がっていた。
点数の横に何クラスかも書かれていたので、校舎に入ったあと、自分のクラスを探す。
因みにエニナも同じクラスだった。
上から30人くらいがSクラス。
Sクラスの教室をみつけて、教室へと入る。
先に入ってたバカカスと取り巻きが睨んできた。
そう、上位30人くらいが同じクラスに分類されているせいで、こいつと同じクラスになってしまった。
昨日、そして今日の状況を見るに、こいつは懲りることなく、俺たちに嫌がらせをしてくるだろう。
座席表なるものが見当たらない。
前の列に座っていた生徒に聞いてみると、席は自由に決めていいらしい。
俺たちは早めに来ていたお陰で、1番後ろの席に座れた。
「その……私隣に座っていいの? 」
エニナがそう聞いてきた。
「突然だ。この俺の右隣はエニナと相場が決まっている」
「そっか……! ありがとっ!! 」
そんなこんなで時間がたち、教室の大体が埋まった。
俺の左隣は誰も座ってこなかった。
教室のドアが開かれて、一人の女性が入ってきた。
それを見て、ざわめき出す生徒たち。
「静粛に。Sランク教室の担任を務めることになったルヴェール・ナトバリスだ。よろしく」
ルヴェールと名乗った女が、挨拶をすると割れんばかりの拍手が教室中に響き渡る。
俺はエニナに聞く。
「あの女は有名なのか? 」
それを聞いて驚くエニナ。
「えっ!? ルヴェールさん知らないの!? 天才魔術師って呼ばれてるお方なんだけど……」
へぇ……あんなのが。
【鑑定眼】を使い、覗いてみる。
確かに魔力も高く、使える魔法も多い。
……俺にはまったく及ばんが。
それに、なんだこの属性。
おもしろいのを見つけた俺は、深く探ろうとしたが、この女に名前を呼ばれ、遮られた。
「君はヘルク……だったな。私の顔をじっと見ていたが、何かついていたか? それとも見惚れていたのか? 」
「あ? 俺が見惚れるのは横にいるエニナだけだ。……いまのところは」
「へ、ヘルクぅぅ♡♡ 最後は余計だけど嬉しいよっ!! 」
抱きついてきて、すりすりしてくる。
もう好きにさせながら、俺は言う。
「やけに盛り上がっていたから有名な奴なのかと、見ていただけだ。この俺が女に見惚れたりする訳がない」
「えぇ♡♡ でも私には見惚れたんでしょっ? 」
「余計なことは言わなくていい。お前は特別なだけだ」
「でへへぇ〜♡ 特別♡♡ 」
エニナの相手をしていると、ルヴェールは気まづそうにしていたが、顔をぱちんっ!と叩いて気を引きしめる。
「知らない人がいてもおかしくはないか。私はそれなりの魔術師をやらせてもらっている」
「えぇー! 先生それなりじゃないですよねー! 」
「天才魔術師と名が高いじゃないですか」
「こほんっ、まぁ、そんなルヴェールだ。これから共に頑張っていこう」
こうして学園生活がスタートしたのだった。
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【あとがき】
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