第9話 悪魔神、相部屋である剣術の名門の長男と一瞬で仲良くなる

自己紹介が終わり、解散となった。

教師であるルヴェールが教室から出ると、生徒たちは疲れを口にしたり、近くの生徒と喋ったりしていた。


む? 終わったのはいいが、これからどうしたらいいんだ。


まさか宿を卒業までの2年間取らないと行けないのか!?


そう不安に駆られていると、ルヴェールが戻ってきた。

額にはうっすらと汗をかいていた。


「こほん、一つ伝えるのを忘れていたことがあった。君たちがこれから住む寮は校舎を出て、体育館の少しあとにある建物だ。道が分からなければ、他の学年の生徒や教師にでも聞いてくれ。それぞれの部屋割りは寮の掲示板に貼ってある」


寮があったのか。

俺はほっと一息ついた。もし寮たるものが無ければ、俺はまたエニナに宿代を払ってもらう羽目になっていた。


悪魔神たるこの俺がヒモになるのはよくないだろう。

……決してそんな生活に憧れはない。


「じゃあ行くか」


「うんっ! そうだね」


早くもワイワイしている教室を後にした。

学園の外に出て、説明のあった通り体育館辺りまで歩く。


かなり高い建物が見えていたので、あれだろうと直ぐに分かった。


掲示板を覗き、部屋当てを見る。

どうやらこの寮は一年だけのようだ。


1階から3階が男子、4階からが女子となっている。

それを見たエニナはガッカリしていた。


「えー!? ヘルク君と部屋いっしょじゃないよー!? 」


「いや、当たり前だろう。学園が男女で適当に部屋割り当てて過ごさせたら大問題になるぞ」


「なんでそういうとこだけ常識的になるの」


「酷い言われようだな」


ぷくーっと頬をふくらませて、ムッとした様子。

めちゃくちゃ可愛い。


前言撤回して学園長に直談判しに行ってやろうか、と考えたが流石に辞めておく。


「別練ってワケでもなかったから、良しと捉えるしかないだろう。それに会いたくなったらいつでも部屋に来ればいいだろう」


「んー、それもそっか。それにお部屋に呼んで、そのまま泊まっちゃったりしてもいいかも」


それはアリなのか怪しいところだが……。


なんとかしてなだめれたので、寮の中に入った。寮母と思わしきおばちゃんが、狭いちょっとした窓から顔をのぞかせ、俺たちを見て、言う。


「あら、お似合いねぇ。けどねぇ、お部屋に呼ぶのはいいんだけど、異性だと時間が限られてしまうし、夜9時からは異性の部屋への訪問は出来ないのよ。辛いかも知れないけど、学校が決めたルールだからねぇ……それに何か手違いが会ったら学園に通えなくなるし」


俺たちが手を繋いでいたからか、何か勘違いした寮母はとんでもない意味深発言をカマしてきた。


横目で見るとエニナは耳先まで真っ赤になっていて、身体も少し震えていた。


「ふっ、寮母よ、俺たちは別にそんな関係ではない」


「なんでぇー!? 昨日一緒に寝たじゃん」


あらあら、とエニナに優しく微笑む寮母。しかし俺には何故か冷たかったような……。


「俺は3階だったな、相部屋の奴の名前はセリカとかいうやつか」


「私は4階だったよ! うへへ、1階違いだし夜中でもコッソリ行けば寮母にもバレないんじゃ」


「それ、普通男が言うセリフじゃ」


「違いますーだ! 夕方食堂一緒にいこーね! 」


「覚えてたらな」


「酷いっ!? 」


こうして一旦別れた。


部屋に着いて、ドアを開ける。

中は意外と広く、机やベット、物置などがどちらも二つ分ある。


それに、ハンガーに制服が4着、学ランが2着かけてあった。

夏服と冬服だろう。


タグに名前が書いてあったので、俺の方を取り、とりあえず夏服の方だけ残して後は【アイテムボックス】に放り投げる。


することもないので、相部屋の奴の到着を待った。

数分後ドアが開かれた。


ひょっこりベットから玄関を覗くと美青年が立っていた。

向こうも俺に気づき、小走りで部屋の中へと入ってくる。


「ええっと、ヘルク君……だよね? ボクはセリカ。セリカ・アーセナルング。その、君の知っての通り、剣術の名門、アーセナルング家の長男だ。ボクみたいなのと一緒の部屋になったせいで堅苦しく思うかもしれないが、ボクはそんなこと何も気にしないし、ボクも友達として接してもらいたいと思っている」


「いや知らん。あいにく俺は田舎出身なもんでな。貴族だろうが名門どころのお坊ちゃんだろうが、全員同じ人間として接する」


「そうか……ありがとう」


は? なんで俺は感謝されてるんだ。

貴族やお偉いさんは、上に接せられたいんじゃないのか。


「ボクはそんな貴族とかが嫌いでね。……身近に嫌な人間が居るから、それを反面教師にしてるんだ」


「ふん、お前とは仲良くやれそうだ。俺はヘルクだ。ド田舎からやってきた最弱クラスの平民だ、よろしくな」


「いやいや、あのバススカを平気で打ちのめすような君が、最弱クラスな訳がない。君とだったら楽しくやれそうだ、こちらこそよろしく頼むよ」


熱い握手を交わす。

むっ、こいつ手がマメだらけだな。


相当鍛錬を重ねているのだと一瞬にして分かる手だ。

こういう奴は嫌いじゃあない。


しかし、心なしか手の感触が、柔らかかった。

こう、ゴツゴツしていない感じ。


「ど、どうかした……? 」


「ああ、なんでもない。それでだが、そこにかけてあるのが制服だ」


「ほんとだ、ヘルク君はもう取ったのかい? 」


「ヘルクでいい。あいにく俺の事を君付けで呼ぶ人間はもう決まっているのでな」


「自己紹介の時に隣にいた女の子かい? あの子とはどういう関係……って聞くのは野暮か」


「制服はもう収納したぞ。明日着るようの夏服だけそこのハンガーにかけ直した。……それと寮母にも勘違いされたが、エニナとはそういう関係ではない」


そう言うと、驚いた様子で聞き返してきた。


「えぇ!? あれで付き合ってないの!? 」


「昨日の入学試験で初めて会ったばかりだ」


「そ、そうか……うん? そういえば入学試験前に、あのやばい貴族から女の子を守った受験生が居たって話題になってたけど、まさかこれもヘルク? 」


「そうだな」


「君はバススカが怖くないのかい? 二度も目をつけられるようなことをして」


「あれの何が怖いんだ? ただのデブだろ」


「ボクの家名を知らなかったくらいだから、まさかとは思ったけど、やはり知らなかったか。バススカ家はこの国でもかなり上位の貴族だよ」


「へぇー。ま、エニナに危害を加えようとするのなら、とことん潰すだけだ」


「やっぱ君とエニナちゃんは付き合ってるよね? 」


「付き合ってないと言っただろう」


夕方までセリカと語り合い、食堂が開放される時間となったので、二人で飯を食べに行くことになった。


――――――――――――――――――

【あとがき】

「続きが気になる!」「面白い!」「けっ男キャラってことはハーレム要員じゃねぇのかよ!」と少しでも思って頂けましたら、 広告下からフォローと星を入れていただけますと、幸いです。皆様の応援が、執筆の原動力となります!よろしくお願い致します!――――――――――――――――――

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