第5話 悪魔神、助けた少女と泊まる

「こまったな、金が足りない」


俺は学園近くの宿に宿泊しようとしたのだが、手持ちの金では足りない事に気づき、ため息をついた。


一応、両親から少しお金は渡されていたのだが。


今日は学園の入学試験で、近場に泊まる受験者が多く、稼ぎ時とみた周辺の宿が、今日だけに限り一泊の値段を釣り上げていた。


なんてあくどい事をするんだと思ったが、どこの宿もそうだったので、そういうものなのかもしれない。


嫌らしいことには変わりないが。


俺であれば、多少離れた宿に泊まったとしても、ここまで直ぐにやってこれる。

めんどくさいが遠めの他の場所をあたろう。


宿を出て、歩き出そうとしたところを呼び止められる。振り返るとエニナが居た。


「はぁ……はぁ……やっと追いついたよ」


肩で息をしながらそう言ってくる。

息切れしていたのは俺を追いかけてきたかららしい。


「ヘルク君、宿決まった? 」


「いや、恥ずかしいことに手持ちが足りなくてな……何処も値段を釣り上げているから、ここから離れた場所まで移動するつもりだ」


「えっ、それじゃあ明日間に合わないよ!? 」


「多少急げば大丈夫だ。それよりエニナはここにするのか? 」


俺は今出てきた宿を指さして聞く。


「うん私はここにするつもりだよ! ねぇ、それで相談なんだけどさ! ヘルク君さえ良ければ一緒に泊まらない? 」


「ふむ、金を出し合い二人で1部屋に泊まるわけか。俺としてはありがたいのだが、エニナは良いのか? 俺がいたら疲れも取れないだろう」


「そんなことないよ。それに助けてくれたお礼もしたかったから」


別にお礼などいいのだが……。

人……いや悪魔神として当然の事をしたまでだ。あの状況で助けに入らないカス共と学ぶのは癪だが仕方ない。


「せめてもだが俺が部屋代は多めに払おう」


「それじゃあお礼にならないよ。なんなら私が全額払うんだから」


「高いぞ? ここ」


「お母さんに沢山お金は貰ってきたから……ヘルク君は気にせず私に奢られて! 」


こうして半ば強引にではあるが、エニナと泊まることになった。




「中はかなり広いですね。あの値段なのも納得です? 」


「そうはいっても、いつもよりは値段が上がってるのだからエニナに無駄金を使わせたみたいで忍びない」


「もう〜! まだ気にしてるの!? 私が払いたかったから払ったの! 」


「ふっ、そうだったな。この恩は必ず返す」


「だから違うって! これは私の恩返しなの。また返されちゃったらずっとループしちゃうよ!? 」


そう言って、わたわたとしだすエニナを見て。


「俺があってきた人間の中で1番可愛いな」


こう、小動物みたいな感じで。


俺としては今までの人間と比べてそう言っただけだったのだが、エニナはえらく顔を赤くする。


そしてひとしきり口をパクパクさせた後、とても小さい声で呟いた。


「ちょっとヘルク君急になに!? 人間の中で1番可愛いって……ちょっと変な言い方だけど……そんな突然言われちゃったら、心の準備が出来てないというか……それに密閉空間だし〜!! えっ、これで1日過ごすの!? 」


「すまないが人間界のことはよく分からなくてな、非常識な発言だったらすまない」


「にんげんかい? あっ、ここのこと? 変な言い方するんだねヘルク君。それに助けてもらった私が言うのもなんだけど、確かに。非常識……ではないけど、常識外れのことはしてたね」


しまった、また癖でココを人間界などと呼んでしまった。なんて呼ぶのが正解なのかイマイチ分からないが。


「常識外れってどんな事だ? 」


「私を助けてくれたこと。普通、私みたいな平民が貴族にどんな難癖つけられても、反抗出来ないの。目をつけられてしまったら終わり。貴族の言うことは絶対なの」


「じゃあエニナはあのデブに奴隷になれと言われたらなるのか? 」


俺の言葉が想定外だったのか、黙ってしまう。そして少し悩んだ末に答えを出す。


「……うん。だって拒んでも、彼らは無理やりにでもしてくる。それに私の親にまで危害が与えかねられない。それに私を庇ったせいでヘルク君にも嫌がらせが……私のせいで……」


ああ、胸糞が悪い。

こんな少女にそこまで言わせてしまう、それが当然となっているこの世界が。


俺はどうやらクソみたいな世界に転生してしまったようだな。もしや女神がこの俺を転生させたのはそれが目的なのか?


でなければやすやすと悪魔神を転生などさせないだろう。させるにしても記憶と力が絶対に蘇ることのないようにするはずだ。


それすらもしなかったということは、女神からの挑戦と受け取っていいだろう。


目の前で不安そうにしている少女、エニナを見やる。


俺があの場でデブ貴族に自分のせいで反抗をしたから、仕返しをされてしまうのではないかと不安になり自分を責めていた。


安心させるように、俺は堂々と言う。


「俺の心配はしなくてもいい。それにこれは俺が巻いてしまった種だ。エニナを何があっても守ると誓おう。持っている力の全てを使ってでもな。この俺が守ってやるんだ、何の心配もしなくていい」


デブ貴族なんぞには力を使わずともエニナを守れるだろう。

しかし、学園には強者もいるだろう。


エニナに害する者、そして当然だがこの俺に楯突く者も蹴散らしてやる。


「だから安心しろ。……そうだな、俺はこのソファで寝るとしよう。エニナはベットで今日の疲れを癒してくれ」


「ありがとね、ヘルク君。あんな圧倒的な力を見せたヘルク君が私を守ってくれるだなんて嬉しいよ! 騎士様みたい♡ 」


悪魔神なのだが……騎士如きと同じにされたら困る。

護衛的な発言をしたから騎士を連想したのかもしれないが。


「じゃあ、白馬の王子様♡ 」


「まだ騎士の方がいい。それに俺はエニナとは対等な立場でいたいのだが」


「あちゃー。あ、あと! ソファは私が寝るよ。ヘルク君がベット使って」


「遠慮せずともベットを使ってくれ。俺は椅子なぞで寝ることには慣れている」


玉座でよく寝ていたからな。


だがエニナも中々引き下がらない。そして結局ーーー


「なーんだ! 最初からこうしてたら良かったですね。……やんて言いましたけど、本当は最初からこれを狙ってただなんて言えない……」


そう、一緒に寝ることになった。

俺としては1人分のサイズのベットに二人で寝たら窮屈で寝付けないだろうと引き下がったのだが、エニナがどうしてもと言うので、失礼することにした。


当然俺のすぐ真横にはエニナが居る。


異性と一緒に寝た経験など、前世でも数える程しかない。

今世では妹や姉と寝ていたが、それは家族だからな。


妙に心臓がドキドキした。

ああ、懐かしい。初めてこの感覚に陥ったのは、配下の1人と寝た時だった。


ちらりと横を見ると、エニナはすやすやと寝息をたてていた。


どうか幸せな夢を見ていくれ、そう願いながら俺も夢の中へと旅立っていった。


――――――――――――――――――

【あとがき】

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