第4話 悪魔神、入学試験で無双する

カーン。コーン。カーン。


「時間だ、やめ! 」


鐘の音がなり、試験終了の時間を知らせる。

そして試験監督が用紙を回収する。


回収の際にこちらを驚愕した様子でチラっと見たのが気になるが、なにか俺の顔にゴミでも付いていただろうか?


ああ、さっきまで寝ていたからな。ヨダレでも垂らしていたかもしれない。


服の袖で口元を拭い、試験監督の言葉を待つ。


「それでは次の試験に移る。グラウンドへ移動するように」


こうして一次試験である筆記試験が終了した。

試験監督が部屋を出る。


それと同時に皆、様々な反応を見せていた。


笑顔な奴、俯いてる奴、安堵の息を吐く奴、ため息を吐く奴、もう諦めている奴……など。


おいおい……あんな問題郡のどこに不合格になるような要素があるんだ……。


「ヘルクはどうだった? わたしはびっくりするくらい集中して解けたからか自信ある! ヘルクが最初に落ち着かせてくれたからだよ! ありがと! 」


「俺は余裕だった。悪魔神たるものこのくらい余裕だからな。それに俺は何もしていないと言っただろう。全てはエニナの実力だ」


「あくましん? 」


キョトンとした様子で俺を見る。


「あ、いや気にしないでくれ」


「うん……? 」


不思議そうにはしていたがそれ以上は言及しないでくれた。


危ない……うっかり悪魔神と公言してしまうところだった。

ここは魔界ではなく、人間界だ。悪魔神などと公言しようものなら追い出されかねない。


俺はじっとエニナを見る。

こいつになら伝えておいても、他の奴に言いふらしたりはしないだろう。


友達であるこいつを欺き続けるのは、悪魔神である俺といえども心が痛む。


いつかその時がきたら、こいつには伝える日が来るかもしれないな。


それでもなお、エニナが友達でいてくれるのか不安だが……。




外。


「よし、全員集まったな。それでは実技試験を始める」


実技試験は言わば的当てだった。

試験監督が名前呼び、一人ずつ前に出て数メートル離れた的に魔法を当てるというもの。


的に当てれずに悔しがる者、当たって喜ぶ者様々。


「次、平民部門ヘルク。前へ」


やっと俺の番だ。

しかし、わざわざ平民部門などと区切る必要はあるのか?

これでは貴族部門は有利ですと言ってるようなものだろう。


実力主義と聞いていたはずだが、やはり貴族のしがらみがあるのだろうか。


平民にだって凄いやつは沢山いた。

逆に貴族や地位のある者の方が、ろくでもない奴が多い。


真っ先に浮かんでくるのは俺を殺したインチキ勇者の憎たらしいあの顔。


思い出すだけでも腹が立ってくる。

わざと瀕死にさせたまま、長々と煽ってくるし、ここまでの武勇伝を聞いてもないのに語ってきた。


この世界が、あれから何百年後かすら分からないが、あいつの子孫を見つけようものなら同じようにいたぶってくれるわ。


そんな事を考えながら、右手を構え魔法を放つ。


ヒュッン!


黒い矢が常人には見えないスピードで的のど真ん中に突き刺さる。そして真ん中からポロポロと的が崩れていき、最後は灰となって消える。


なんだあいつ!? と周りが驚く。


「き、きみっ!? 何をしたんだ」


「は? 何ってこれが試験なのだろう? 的に魔法を当て、綺麗に破壊することで得点が貰えるのでなかったのか? 」


「ただ的に魔法を当てるだけで良かったのだが……」


それだと誰でも合格出来るではないか。

まだ他に試験があり、これは前座なのか。一人でそう納得した俺は、後ろに戻ろうとした。


「な、なにあいつ……」


「あんな魔法見たことねぇよ……それに的が壊れるなんて」


「あの的ってどんな魔法にも耐えれるようにオリハルコンで出来てたんじゃなかったっけ」


「おかしいな、僕の目には跡形もなくなってるように見えるんだけど」


またしても外野がざわめいていた。

当てた時の感覚でもしやとは思ったが、なるほど。オリハルコン製なのか。それなら悪い事をしたな。


灰となった的の分、試験の効率も落ちてしまい、俺の責任になってしまう。それだけは避けるために、試験を再開させようとする試験監督を制止し、的の元に向かう。


【完全修復】を使い、的を元通りにする。


「新品同様に戻ったはずだ。これで通常通り試験を進めれるだろう」


「あ、ああ。ありがとう。で、では次ーー」


試験監督も目を見開き驚いていたが、どうにか落ち着きを取り戻し試験を続けた。


約一名「平民のくせに……」と指を噛んでいたが俺は無視した。


俺は平民だが悪魔神だからな。この世のほぼ全ての魔法は習得している。その気になればなんだってできる。


前世ではその力を使い魔界を統べようとしたが、今世は対外的には人間だ。魔界は統べないし、世界も破壊しない。


ただあのインチキ勇者だけは超えてやる。



因みにだがエニナも的に魔法を当てることが出来ていた。しかも他の連中よりも精度が高い。実技の第1試験の突破は堅いだろう。


その後、全員の試験が終わり、試験監督の発した言葉に俺は驚くこととなる。


「よし、皆お疲れ様。合格発表は明日の朝、学園前のボードに掲示されている。寝坊せずに見に来るように。では解散だ。明日またこの場にいる皆と会えることを、そして学べることを楽しみにしているぞ」


そう、試験はこれだけだったのだ。

あの簡単な筆記試験と、的当ての実技試験だけだと?


教師共はこれでどうやって合否を決めるというのだ。


それにここは仮にも王国随一の魔法学園だと聞いていたはずだ。随一を謳い、卒業できたものには華やかしい将来が待っていると言われていた。


これでは受験者の本質を何も見抜けない。


本当にここは大丈夫なのかと不安に駆られながら、学園を後にした。


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【あとがき】

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