第3話 悪魔神、友達が出来る

「あ、あの……! 助けてくれてありがとうございました……」


先程の少女が追いかけてきた。


「礼はいらん、ただ誰も助けようとしなかったのが気に入らなかっただけだ」


「そのお名前を聞いてもいいですか……? 」


「俺はヘルクだ」


「わたしはエニナっていいます! ヘルクさんも受験生だよね? よろしくね! 」


そう言うとエニナは俺の手を握って、身体をくっ付けてくる。


俺は困惑していた。


なんなんだこいつは……。

初対面なのにグイグイ来すぎだろ。


いや、俺の常識がおかしいだけで、普通はこうなのかもしれない。これが人間の普通の学生生活か。


そういえば、配下のうちの数人もこうやって擦り寄ってきてたな。こう、むにむにと腕を圧迫してくる動作に何の意味があるのかわからんが。


不快ではないし、好きにさせれば良い。


「も、ってことはエニナも受験生なんだろ? ヘルでいいよ。それに同年代なんだ、ラフな口調で話してくれ」


敬語で迫られると配下を思い出してならん。

あいつら……俺が死んだあと元気に過ごしたかな。


「は、はい! あ…いや、うん! ヘルク君! 」


また敬語になりかけていたが、それに気づき言い直してくれた。言われたことを素直にできる奴は嫌いじゃあない。


しかし心做しか、配下の一人と面影が似ているせいで、変に意識してしまう。


有り得ないことなのでそれはさておき。

姉ちゃんよ、早速友達が出来たぞ。


落ち着いたら手紙に今日の出来事を添えておこう。

胸デカ女を助けたら友達になったとな。


ふと思う。

前世で配下こそいたが、友達と呼べるような者はいなかった。どうしても圧倒的な力を持つ者というのは、畏怖され、関係も一歩置かれてしまう。


それが、こんなにも簡単に出来てしまったことに驚く。

こうして初めて出来た友達ーーーエニナ。


横を見ると笑顔でまだ俺の腕に抱きついている。

この屈託のない純粋な笑顔を曇らせないためにも、もっと強くなろうと思ったのだった。




「ひとまず案内された場所に来たが、まずは筆記試験からか」


受付を済ませた後、説明された場所に行った。


「うぅ、緊張する」


先程までの笑顔から一転、びくびくと震えながら、試験会場を見渡しているエニナ。


早速笑顔が曇ってしまっているではないか。

悪魔神であるこの俺が決めたのだ。笑顔でいてもらわないと困る。


「始まる前からそんなに緊張していたら最善を尽くせないぞ? 少し落ちついたらどうだ」


それに筆記試験に落ちたとしても実技試験で良い成績を出せば入学は確実だろう。


だが周りの人間どもを見渡しても全員緊張している様子だ。

ふむ、こういう場面では緊張するのが普通なのだろうか?


しかしさっきも言ったように、緊張していては、本来の実力も出せないだろう。


この魔法学園に入学するために今日まで鍛錬をしてきただろうに、それじゃあ意味がない。


そうだ。

俺は、エニナのおでこに人差し指を当てる。

そして【精神安定】を時間限定で付与する。


「ふぇ……? あ、ありがと。少し落ちつけたよ」


そう言ったエニナは何故か顔を赤らめていた。


「急に触れられたからちょっとびっくりしたよ! けど、さっきまであんなにも緊張してたはずなのに、ピタッと緊張が解けたんだけど、ヘルク君が何かしてくれたんだよね? 」


「さぁな。俺はただおでこを触っただけにすぎない」


「ふふっ、そういうとこ素直じゃないんだねヘルク君は」


「知らん知らん。そんなことよりも、周りのヤツらは何故カリカリしながら本と睨めっこしている? 」


「試験の直前まで勉強してるんだよ。私も今からするんだけど、ヘルク君はしないの? 」


「ふむ、では手伝ってやろう」


「え、けどそれじゃあヘルク君が勉強出来ない……」


「教えながらでも学べることは出来る。というか、俺に解けない問題なんぞ存在しない」


そして試験が始まるまでエニナの勉強に付き合ったのだった。



「それではこれより筆記試験を開始する! 全員、初めッ! 」


試験監督の一声により、教室にいた受験生が一斉にページをめくる。


俺もワンテンポ遅れてめくる。


そして書かれている問題文に驚愕する。


魔法に関しての問題が長々と続いているがどれも常識の範囲の問題だったからだ。


だがそれはヘラントゥスとしての俺の常識であり、ヘルクとしてはかなり難しい難易度だったかもしれない。


悪魔神としての前世を思い出すことのないまま、この学園に来ていたら、隣にいる少女エニナも守れなかったかもしれないし、このテストにも一問目から頭を抱え、青ざめていたかもしれない。


何故、魔法学園に行く直前の昨日に思い出したのか。偶然なのか分からないが、俺自身に感謝しながら問題を解き進めていく。


ここまで解いて分かったことがある。

それは、これくらいの難易度が合格者の選定に丁度良いのかもしれない。それに本当に重要な試験は次に控えている。


ふん……。悪魔神である俺が、こんな問題を正解できないのは沽券に関わる。


十分程度で全ての問題を解き終わる。

試験の終了までは、まだゆうに時間がある。


ちらりと横に座っているエニナを見ると、真剣な表情で、一つ一つ丁寧に解いている。


あれだけ熱心に俺の出した問題に答えて言ったのだから大丈夫だろう。


それを見て安心した俺は、することもないので寝ることにした。

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