第2話 悪魔神、貴族をボコボコにする

「お兄ちゃん! いってらっしゃい! 」


「お姉ちゃんに手紙を毎週だすこと! 分かったね? それに、辛くなったらいつでもお姉ちゃんを呼ぶのよ! 」


「ハッキリ言ってお前がやって行けるのか不安だ。昨晩も母さんと生かせるべきでは無いのではないかと話をしていた。でも、お前が行きたいと宣言したんだ。送り出す他あるまい。楽しんでくるんだ」


「お友達もちゃんと作るのよ〜」


「ああ、行ってくるよ。イウルナ、ネム姉ちゃん、父さん、母さん。……姉ちゃん、流石に毎週は無理だがなるべく心配はかけないよう気をつけるよ」


そうして俺は魔法学園へと旅立った。



「ここが魔法学園か」


そう呟いたと同時におかしな景色を見た。


ぶくぶくと太った少年が少女にぶつかり、わざとらしく地面に転がった。


「おい! 平民が貴族の僕ちゃんにぶつかるとはなんてことだ! 」


「え!? あ、いやその……わたしは……ぶつかってなんか……」


「僕ちゃんは優しいからな、ちょっと付き合ってくれたら許してあげるよ」


ああ、なるほど。太った少年は最初からそれ目的でわざとぶつかったんだな。


しかしこのままではあの少女が可哀想だ。ここは一つ俺が仲介に入ろう。


周りの者達はこの光景を見て見ぬ振りをしている。

誰一人あの少女を助けようとなんてしない。


多方報復でも恐れているのだろう。

昔からそうだ。人間界も魔界も、貴族は自分が偉いと勘違いをして、人様に平気で迷惑をかける。それでいて、それを指摘した者をあの手この手で地に落とそうと錯誤する。


ハッキリ言って反吐が出る。


もう一度周りを見渡すが、視線を落としている者、この場から離れていく者と様々。


一つ分かることがあるとすれば、誰も助ける気がないということ。俺は弱いものイジメは大嫌いだ。


つかつかと歩み寄り、声をかける。


「おい、そこのデブ。俺の目には貴様がその少女にぶつかったように見えたが? 平伏し謝るべきだろう」


そう言うと周りがざわめく。


はて?何かおかしいことを言っただろうか。

当然の事を言っただけだと思うのだが。


「き、ききききき貴様!! 僕ちゃんに向かってそんな口の利き方をしていいと思ってるのか! 」


こいつの取り巻き二人も同じようなことを言ってくる。

このお方はあの大貴族のうんたらかんたら……。


それを言って何になるのか?

名前を出したらビビるとでも思ってたのだろうか。


おあいにくさま俺は、ここからかなり離れたド田舎の領地に住んでいた人間だ。


バカカスかゴミカスか知らんが、そんな名前聞いたことがない。


「バススカだよぉ!!! バカにしてるのかぁ!!?? それに様をつけろよおおお!!!! 様をおおおおお」


「どっちでもいいだろう。えぇと、バカカス様? これでいいか? 」


俺がそう言うと、この場を離れた場所から見守っている群衆共の一人が笑う。それにつられてか、笑いがどんどん広まっていく。


それが広がるに連れて、バカカスはみるみる顔を赤くしていく。


「ふん? 何かおかしかっただろうか? まあなんでもいい、早くこの少女に謝るんだな」


俺としては何故、周りの人間共にこれほどウケたのか分からないが、笑ってくれたのなら良い。


「何故貴族の僕ちゃんが平民などに頭を下げないといけないんだあぁぁぁぁぁぁ!! 」


そう言いながら、バカカスが殴りかかってきた。


おいおい、これほどまでに目撃者が居るというのに、暴力に出て良いのだろうか。


人間は大体の事は話し合いで穏便に済ませると聞いていたのだが。


対して早くもなく、威力もカスみたいな攻撃にあくびが出る。


「どうしてこの状況であくびが出来るんだよおおお!!!!!!! 」


あろうことかこいつは欠伸を邪魔しようとしてきた。

ああもう、うざったいな。魔界で俺の欠伸を妨害しようとする者など一人もいなかったぞ。


へなちょこな拳を片手で受け止めると、俺は奴の頭を持ち、思い切り地面に叩きつける。


がこおおおおおおおおあおおん!!!!!!


メリメリと地面に擦り付ける。

衝撃で地面は多少割れている。


「ちゃんと下げれたではないか。しかし謝罪の言葉が無ければ意味が無いぞ? ほら、この少女に謝るんだ」


しかし返事がない。これでもまだ貴族のプライドが勝つのだろうか?


「やっば……あいつあそこまでやんのかよ」


「けどスッキリしたよね。あんなにもボコボコにしてるのを見たらさ」


「お前じゃあ、あいつに話しかけてみろよ」


「そ、それは流石に怖いわ! 」


「この場に残っていたら、あの貴族に目つけられそうだし、早いとこ受付いこうよ」


「そうね……あんな様子だったし無理やりなイチャモンつけてきそう」


「あの人かっこよかったなぁ〜♡ あーし、唾つけとこっかな? 」


「ちょっとメリアちゃん……! あんなかっこいい人に唾なんて吐いちゃだめだよぉ! それに早く受付しないと」


「唾つけるってそういう意味じゃないのよ……そうだね、時間も危ないし受付いっちゃおっか。あ〜ん、あたしの未来のダーリン♡♡ 」


俺の足元に転がっているバカカスと俺を交互に見たあと、気まずそうにこの場を去って受付へと移動していく聴衆。


目が合っても皆すぐそらされたのだが、なんだか一人だけ熱い視線を送ってきたやつがいた。


そいつは隣にいた奴に身体ごと引っ張られながら受付へと消えていった。連れられていってる最中もずっと俺を見てきていたのだが、なんでだろう。


まさか俺が悪魔神であることがバレた?

いや、そんなわけないか。


あれほど居た聴衆も、今は周りには誰もいない。

俺と、バカカス。そしてこいつの標的に選ばれてしまった少女だけの空間となる。


そういえばこいつの取り巻き2人くらいいたよな。主君を見捨てて逃げたのか。


あれだけ凄い貴族だのなんだの言ってたのに、こいつ人望ねぇんだな……。


むくりとバカカスが身体を起こす。

顔は血だらけで、地面の破片が突き刺さっておりホラーである。


なんだこいつは、学園の入学試験だと言うのに身なりすら整えて来てないのか。


「お前が……やったんだろおおお!!!!! どうしてくれるんだよおおお!!! 痛いよおおおお!!!! 」


こんな軽い攻撃じゃ、改心できないのだろうか。


もう興味は無い。泣き喚くバカカスを置いて、俺は歩き出す。

さっさと試験の受け付けに行こう。こいつのせいで受付に間に合わず締め切られたらかなわん。


「待てよぉ! 平民のくせにぃ……僕ちゃんにこんな屈辱を味合わせたこと絶対に後悔させてやるんだからなぁ……! 」


何やら後方から聞こえたが無視する。


「まさかこの学園はあんなのばっかじゃないだろうな……」


一抹の不安を覚えながらも、受付を済ますのであった。

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