第11話 悪魔神、この世界は1000年後だと知る

飯食って、エニナたちと別れたあと。


「いやぁ〜エニナちゃんもルナちゃんも可愛いなぁ」


「そうだな」


「あれ? そこは狙ってるのかとか、ライバルかとか言うところだよ」


「なんだ、ライバルになって欲しいのか」


「本当にライバルになるようなことをしたら、ボクは君に殺されないかい? 」


「友人を殺したりはしないぞ……俺をなんだと思っているんだお前は」


「恋は盲目って言うし、多少はね? それにヘルクは怒らせるととんでもないことをしでかすのは、ルナちゃんの時で分かってるし」


「俺は平穏に青春を楽しみたいんだよ。あまり厄介事はごめんだ」


「あの人が同じクラスな限り、あっちが改心するまで一生同じことが起こりそうだけどね? 」


あの人とはおそらくデブ貴族こと、バカカスのことだろう。

悲しいかな。アレが改心する未来が一ミリも見えない。


「誰に対してでもああやって助けるわけじゃないからな? 」


「君の友人、エニナちゃんとルナちゃんだけかい? 」


「あ? お前もに決まってんだろ」


そう言うと、何故かめっちゃ感極まってポロリと涙していた。変なやつ。


「風呂に入りたいんだが、先に入るか? 」


「風呂と言うと……部屋のかい? それとも大浴場の温泉の方? 」


そう、ここにはなんと温泉もあるらしい。

各自部屋にも浴槽とシャワーがあるのに、贅沢な話だ。


他にも寮には色んな設備が備わっているみたいなので、近々色々周りたいものだ。


しかし温泉か……。

初日だからかなりの混雑が予想される。悪魔神とはいえ、前世を思い出したのが最近ということもあり、まだ完全には力を取り戻せてない。そのためか多少疲れがあった。


「少なくとも今日は、部屋の風呂でいいかな。セリカは行きたければ俺に遠慮せずに行ってくるがいい」


そう言うと、一瞬困ったような表情を見せたセリカ。しかしすぐ笑顔に戻る。


「ボクは……ずっと部屋のお風呂になるかな」


「温泉嫌いなのか? 」


「そういう訳じゃないんだけどね、ちょっと色々と」


「ふーん」


やっぱこいつ、何かあるんだろうな。

別に詮索したりはしないけど。


「あっさり納得してくれるんだね。自分でも誤魔化しきれないのは分かってるのに」


「人に一つや二つくらい隠し事はあるだろ。俺に不利益さえなければ、気にすることもないだろう」


「やっぱりかっこいいなぁ、ヘルクは。ボクも君みたいになりたいよ」


貴族かなんかの剣術の名門? の奴が、悪魔神に憧れるのはダメだろう。それに、俺はこいつに何もしてないのに。


「やっぱ、変な奴だなお前」


風呂は先にどうぞとのことだったので、お先に失礼した。


ざぱんっっ。


浴槽に浸かり、背伸びをする。

ようやく一息つくことが出来たからか、はぁぁぁっと長いため息がでた。


明日から学園生活がスタートするわけだが。

まさか、始まる前にして、三人も友達が出来るとは思っていなかった。


三人とも中々クセのあるやつだ。

エニナは誰にでも声かけや気配りが出来るし、面倒を見ることも出来る。ルナという友達が出来たことによって、昨日よりも顔が明るかった。


傍から見ればあれは、お姉ちゃんと妹みたいだが。


そうだ、俺の姉ちゃんと妹……家族の皆は元気にやっているだろうか。彼らは、俺の前世が悪魔神だなんて露も知らないし、戦闘も後方支援も何も出来ない非力で最弱クラスの印象のままだろう。


……手紙書いとくか。

【創造魔法】で紙を取り出し、三人の友達が出来た旨を記し、入学試験で合格を出来たことも書いておいた。なにかめんどいことになりそうなので、10万点のくだりや、デブ貴族の件は省いた。


書いたとはいっても【念写魔法】を使ってだ。頭の中で思い浮かべたことが、そのまま反映される。


1位になったのを伝えないのは、書いてもおそらく信じてもらえないだろうから。


取り出した時から【水濡れ防止】を付与していたが、一応念の為、ほんの少しだけ俺の魔力を手紙に添えておいた。


これは差出人が本人であるという証拠になる。

封をしっかりとしてから、【アイテムボックス】にいれた。


学園の敷地外には出れるのか、はたまた学園内に郵送サービスの魔導ポストは設置されているのか分からないが、出せる機会があれば出すとしよう。


ついつい長湯してしまった。

セリカも早く湯に浸かり、疲れを取りたいだろう。


さっと魔法で、水滴とかを吸い取り、ドアの近くにかけておいた寝間着を纏って、セリカと交代した。


ほどなくしてホクホク顔のセリカが、上機嫌で上がってきた。


「やけに元気だな」


「お風呂はいいもんだね〜♪ 」


「それならよかったが、これからどうするんだ? 」


消灯時間とやらはなく、寝る時間は学生個人の判断に委ねられるらしい。相部屋の生徒が合意するのであれば、オールしてもいいのだとか。


俺としてはどっちでもよく、セリカが起きていたいなら、それに付き合う。


「ん〜、今日は早く寝たい……かな。夜更かしして、明日起きれなかったら嫌だし」


まぁ、初日だもんな。初っ端から遅刻しましただと、この先が思いやられる。しかしだ。


「安心しろ、もし遅刻しそうになっても俺がなんとかしてやる。なんなら授業開始1秒前までここで寝ていても大丈夫だ」


「一秒は流石に無理じゃないかな!? ここから校舎……しかもボクらのSランク教室までかなりあるよ」


「転移魔法を使えばいいだけだろう」


「て、転移魔法って。あれは喪失魔法だよ。1000年前に勇者様が使ったとされてる凄い魔法なんだ。その時代ですらも転移魔法を扱えたのは勇者と魔王……それと悪魔神。この三人だけだとされている」


真剣な顔をして語り出したから何かと思えば、あのインチキクソ勇者とダチ魔法、オマケに俺まで出てきて思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになるのをなんとか堪える。


「いくらヘルクといえども、あまり迂闊にそういうことは言わない方がいいよ」


お前が話にだした、その悪魔神とやらは俺なのだがな。

真面目な性格だし、こいつが寝坊することなどないだろうから、目の前で転移魔法を使うことは無いかもしれない。


なんなら俺の方が寝坊しそうだ。


部屋の電気を消して、二人ともそれぞれのベットに潜る。


「おやすみヘルク。今日は楽しかったよ」


「ふっ、俺も楽しかったぞ。明日もこの俺を楽しませてくれよ? 」


そう言うと、次の瞬間にはもう眠りについて、寝息をたてるセリカ。


俺は頭の中で考える。

さっきのセリカがさらっと言っていた話。


1000年前ーーーか。

どうやら俺は1000年のも時を超えて転生したらしい。


数百年は経っていると思っていたが、ケタが一つ違った。

こんなにも時が流れているとなると、俺の配下たちや、先程の話にも出た魔王と再会を果たすのは無理だろう。


当然、師匠とも会えない。


もう皆とは会えない。

そう頭では分かっているのだが、どうしても拒んでしまう。


あいつらなら1000年の時を越えてでも再会出来るんだって。俺たちはたった1000年程度の時間で断ち切られる程、柔い関係では無いと。


少しでもアイツらのことを考えると、沢山の思い出が溢れてくる。


それにヒビが入っていき、パリンッと割れた。

気づけば真っ黒な世界。


もう会えないなんて認めたくない。


あいつらが居ない世界に俺は必要なのか。


どんどん気持ちが悪い方向に向かっていってしまう。

だがそこでエニナたちの顔が浮かんだ。


もし学園に行かず、家での仕事を手伝う選択をしていたらエニナやルナ、セリカには会えず、俺の空いた心を満たす人間は現れなかっただろう。


俺はエニナを守ると誓ったんだ。


それにあいつらは、俺の自慢の配下だ。1000年なんてチッポケな時間、余裕で過ごしているはずだ。それは魔王も、師匠もだ。


ははっ、俺はなんで焦っていたんだ。


エニナたちに出会えてなかったら、俺はさっきの喪失感に呑まれていたかもしれない。


この俺が悩み事をするなんてらしくないことをしたな。

気持ちの靄が晴れて、ぐっすり眠れそうだ。



――――――――――――――――――

【あとがき】

「続きが気になる!」「面白い!」「ハーレム要因だヨシ!」「悪魔神といえども人間らしいとこあるんだね」と少しでも思って頂けましたら、 広告下からフォローと星を入れていただけますと、幸いです。皆様の応援が、執筆の原動力となります!よろしくお願い致します!――――――――――――――――――

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