第3話 鏡の中の恐怖

佐々木一輝は赤い月の夜に見た鏡の影を忘れられなかった。囁き声はますます彼の精神を追い詰め、夜になると恐怖に震える日々が続いた。彼は何とかしてこの謎を解き明かそうと、再び屋敷の中を調べ始めた。


ある夜、一輝は再び囁き声に導かれ、屋敷の奥深くにある小さな部屋にたどり着いた。その部屋には古びた鏡が置かれており、鏡の表面には不気味な模様が浮かび上がっていた。一輝はその鏡を見つめ、何かが自分を見返している感覚に襲われた。


「カサカサ…」と静かな音が響き、一輝の背後に冷たい風が吹き抜けた。彼は振り返るが、誰もいない。ただ、鏡の中の影がますます鮮明になり、自分に語りかけるように口を動かしていた。囁き声は今や彼の意識に直接響き渡り、一輝はその声に引き寄せられるように鏡に手を伸ばした。


鏡の中の影が一輝の手を掴む瞬間、彼は激しい恐怖を感じ、手を引っ込めた。だが、その影は鏡を通してこちら側に出てこようとするかのようだった。一輝は恐怖に駆られ、急いで部屋から飛び出した。扉を閉めると同時に、「ドン!」という大きな音が響き渡り、彼の心臓は激しく脈打った。


一輝は息を整えながら、何とかしてこの状況を打開する方法を見つけなければならないと強く思った。彼は過去の住人たちが何をしていたのかを調べるため、再び地下室の文書に目を通すことにした。文書の中には、かつてこの屋敷で行われていた奇怪な儀式についての記述があった。


その儀式は、囁き声の正体である邪悪な霊を封じ込めるためのものであり、失敗すればその霊が解き放たれる危険があるとされていた。一輝は、その儀式を再現することで屋敷を浄化し、囁き声を消し去ることができるかもしれないと考えた。


だが、そのためにはいくつかの特定の道具と呪文が必要であり、それらを見つけ出すのは容易ではなかった。彼は文書の中に記された手がかりを頼りに、屋敷中を探し回った。最終的に、一輝は屋根裏部屋の隠し扉の奥に、古びた箱を見つけた。その中には、儀式に必要な道具と巻物が入っていた。


一輝は巻物を広げ、呪文を声に出して読み上げると、部屋の空気が急に重くなったように感じた。古びた道具を手に取り、儀式を始める準備を整えた。彼の心臓はドクドクと早鐘を打ち、恐怖と緊張で体が震えた。しかし、この儀式を成功させなければ、自分も過去の住人たちと同じ運命をたどることになるという決意が彼を突き動かしていた。


儀式の準備が整い、いよいよ呪文を唱え始めると、鏡の中の影が激しく揺れ動き始めた。影はまるで抵抗するかのように、一輝の呪文をかき消そうと囁き声を強めた。「ササ…サワサワ…」その声は一輝の意識を乱そうとするかのようだったが、彼は集中力を保ち、呪文を最後まで唱え続けた。


突然、鏡が激しく割れ、大きな音を立てて床に砕け散った。同時に、囁き声もピタリと止んだ。部屋は静寂に包まれ、一輝は深い安堵の息をついた。しかし、その瞬間、彼の背後で再び「カサカサ」と音が聞こえた。振り返ると、そこにはかつて見た影の一部が残っており、怨念のような目で彼を見つめていた。


一輝はその目に吸い込まれそうになりながらも、再び呪文を唱え始めた。影は徐々に薄れていき、やがて完全に消え去った。彼は膝から崩れ落ち、冷たい汗が額を伝った。すべてが終わったかのように思われたが、彼の心にはまだ不安が残っていた。


一輝はふらつく足で屋敷の外に出て、冷たい夜風に触れながら深呼吸をした。赤い月はもう消えており、空には満天の星が輝いていた。彼はようやく平穏を取り戻したかのように感じたが、屋敷の中に残る何かが彼を引き戻そうとしているかのような感覚が消えなかった。


一輝は屋敷の外で冷たい夜風に触れながら、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。しかし、まだ心の中には不安が残っていた。呪文と儀式で影を消し去ったはずだが、完全に安心することはできなかった。彼は決意を新たにし、屋敷の呪いの根源を見つけ出し、完全に解決することを決めた。


翌朝、一輝は町の図書館に向かい、この屋敷の歴史を詳しく調べることにした。古い新聞記事や町の記録を読み漁り、過去に起きた数々の失踪事件や奇妙な出来事の詳細を掘り起こしていった。その中で、一輝は一つの名前に行き着いた。「西村家」。かつてこの屋敷に住んでいた家族であり、彼らが突然姿を消したという記録が残されていた。


図書館の司書からもらった情報を元に、一輝は地元の古老を訪ね、西村家のことを詳しく聞くことにした。古老は一輝に、屋敷が建てられた当時の話をしてくれた。西村家は非常に裕福であったが、ある日を境に家族全員が姿を消したという。その時期には赤い月が空に浮かんでいたとも語られた。


一輝はこの情報を元に、屋敷の中でさらに探索を進めることにした。特に地下室と屋根裏部屋にはまだ解明されていない謎が残っていると感じた。彼は再び地下室に足を踏み入れ、隠し扉や秘密の部屋がないかを注意深く調べた。


ある日、一輝は地下室の奥深くで古い床板の下に隠された小さな部屋を発見した。そこには西村家の家族写真や古い手紙が残されており、手紙の内容からは西村家が何かの儀式を行っていたことがうかがえた。手紙には、「赤い月の夜に捧げる儀式」と記されており、これが屋敷の呪いの発端であることが示唆されていた。


一輝はさらに調査を進めるため、屋根裏部屋にも足を運んだ。屋根裏部屋にはもう一つの隠し部屋があり、そこには儀式に使われたと思われる道具や魔法陣が描かれた古い床板があった。彼はこれらの証拠を元に、屋敷の呪いを完全に解くための最後の儀式を行う決意を固めた。


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