第12話 影の決別

佐々木一輝と霊媒師の斎藤真紀は、悪霊を完全に封じ込め、屋敷を後にすることができた。冷たい夜風が彼らの顔に触れ、静かな夜空に星が輝いていた。しかし、一輝はまだ心の奥底に不安を抱えていた。何かがまだ終わっていないと感じていた。


彼らは村に戻り、村人たちに悪霊の封印が成功したことを報告した。村人たちは喜びと感謝の気持ちで一輝と真紀を迎えた。しかし、一輝はその夜、再び屋敷に戻ることを決意した。何かが彼を呼び戻しているような気がしてならなかった。


一輝が再び屋敷に足を踏み入れると、廊下の壁が異様な緋色に染まっていることに気付いた。壁を触ると、まるで血が流れているかのような感触が手に伝わってくる。その瞬間、鼻を突く腐敗臭が漂い、彼は思わず鼻を覆った。腐った肉のような強烈な匂いが部屋中に充満している。


「何かがここにいる…」一輝は小さな声で呟いた。彼は真紀の助けを借りずに、単独で屋敷の奥深くへと進んだ。月明かりが窓から差し込み、床に長い影を作り出した。その影の中で何かが蠢くように動き、一輝は背筋が凍る思いをした。


突然、廊下の電灯が明滅し始めた。明るくなるたびに影の位置が変わり、暗闇が訪れると耳元で囁く声が聞こえた。「帰れ…ここから逃げろ…」その声は一輝の意識を揺さぶり、彼の心臓は激しく鼓動した。


一輝が地下室に足を踏み入れると、青い光が再び現れた。部屋の中央には異常に青く輝く液体がたまり、そこから甘い腐敗臭が漂っていた。一輝はその匂いに耐えながら、青い光に包まれた石の台に近づいた。


その瞬間、一輝の背後に巨大な影が現れた。悪霊の姿が浮かび上がり、一輝に向かって吠えた。「お前はまだ終わっていない…」その声は一輝の心に直接響き渡り、彼の体は恐怖で震えた。


悪霊は一輝に襲いかかり、彼は必死に抵抗したが、見えない力が彼を押さえつけた。冷たい風が一輝の肌を刺し、腐敗臭が一層強くなった。その時、一輝は自分がここで命を落とすかもしれないと直感した。


しかし、彼は最後の力を振り絞り、悪霊に立ち向かった。手元の呪文を唱えながら、一輝は悪霊の力に逆らい続けた。その瞬間、青い光が強烈な閃光となり、部屋全体を包んだ。悪霊の姿が光の中で消え去り、部屋は再び静寂に包まれた。


一輝は膝から崩れ落ち、冷たい汗が額を伝った。すべてが終わったのだと確信した。しかし、その瞬間、彼の耳元で再び囁き声が響いた。「お前はまだ終わっていない…」その声は一輝の心に深く刻まれ、彼は恐怖と絶望に包まれながらその場に倒れ込んだ。


一輝が目を覚ますと、彼は村の外れの草原に横たわっていた。彼は全てが夢だったのかと一瞬考えたが、その手には青い光に包まれた石の欠片が握られていた。彼は呆然とそれを見つめ、すべてが現実であったことを理解した。


「これで終わったはずだ…」一輝は自分に言い聞かせながらも、心の奥底にはまだ悪霊の囁きが残っていた。彼の新たな生活が始まることを願いながらも、彼はその囁きから逃れられないことを悟った。

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