第2話 赤い月の夜

佐々木一輝は、屋敷の囁き声に悩まされ続けていた。毎晩聞こえるその不気味な声は、彼の精神を徐々に蝕んでいった。ある夜、一輝はふと外を見上げた。空には不気味な赤い月が浮かんでいた。その異様な光景に一輝は強烈な不安を感じ、再び囁き声が彼の耳元で囁き始めた。


一輝は窓際に立ち尽くし、赤い月を見つめながら耳を澄ませた。囁き声は次第に強くなり、一輝の頭の中で反響するようだった。「サワサワ…ササ…」と耳元で響くその声は、まるで彼をどこかへ誘導しているかのようだった。彼はその声に導かれるまま、階段を下りていった。


階段を下りるたびに、床が「ギシッ、ギシッ」と音を立て、不気味な雰囲気が増していく。囁き声は一輝を地下室へと誘導していた。地下室の扉を開けると、「キー…」という音が響き、冷たい空気が一輝の肌に触れた。彼は手探りで電気のスイッチを探し、灯りを点けた。


薄暗い地下室には古びた家具や雑貨が積み重なっており、その中にひときわ目立つ古い木箱があった。一輝は箱を開け、中を調べてみると、そこにはさらに古い文書や写真が収められていた。彼はそれらを一つ一つ取り出し、机の上に並べていった。


文書の中には、過去の住人たちの手紙や日記、新聞記事が含まれていた。記事には、この屋敷で起きた数々の失踪事件について詳細が書かれていた。その中でも特に目を引いたのは、赤い月の夜に集中して起こった失踪事件の記述だった。一輝は記事を読み進めるにつれ、囁き声の正体に近づいていることを感じた。


突然、一輝の背後で「カサカサ」という音が聞こえた。振り返ると、棚の上に置かれた古い鏡が揺れていた。彼はその鏡に引き寄せられるように歩み寄り、手を伸ばした。その瞬間、鏡に映る自分の姿が揺らめき、別の影が映り込んだように見えた。一輝はその場から離れ、鏡をじっと見つめ続けた。


鏡の中の影は次第に明確になり、一輝の心臓はドクドクと早鐘を打ち始めた。影は彼に向かって手を伸ばしてくるかのように見えた。一輝は恐怖に駆られ、鏡を破壊しようと手に取った木の棒を振り上げた。しかし、振り下ろす瞬間に囁き声が再び響き渡り、一輝は動きを止めた。


「逃げなければ…」一輝は自らに言い聞かせ、地下室から逃げ出そうとした。しかし、扉が閉まり、彼は再び囁き声に包まれた。囁き声はますます大きくなり、一輝の意識は薄れていった。彼は最後の力を振り絞り、扉を開けて外に逃げ出した。


一輝が外に出ると、赤い月はまだ空に浮かんでいた。彼は深呼吸をし、再び屋敷の中に戻る決意を固めた。この囁き声の正体を突き止め、屋敷の呪いを解くために。一輝の心には、次なる恐怖と戦う覚悟が宿っていた。

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