【完結】影の囁き
湊 マチ
第1話 古びた屋敷
佐々木一輝は、30代半ばのフリーランスライターだ。
彼は都会の喧騒とストレスから逃れるために、山奥の古びた屋敷に引っ越すことに決めた。
喧騒から解放された静寂の中で、自分を見つめ直し、執筆活動に専念しようと考えていた。
一輝は物静かで内省的な性格の持ち主であり、都会での生活に疲れ果てていた彼にとって、この場所は理想的な避難所だった。
一輝が初めて屋敷に足を踏み入れたとき、その趣のある外観と静けさに心が安らぐ思いだった。しかし、その夜、一輝は深い眠りから突然目を覚ました。闇に包まれた部屋の中で、微かな音が耳に届く。「サワサワ」とした囁き声が彼の鼓膜を刺激し、心臓はドクドクと早鐘を打ち始めた。
一輝はベッドから起き上がり、恐る恐る周囲を見回したが、誰もいない。ただ風が窓を叩く音が響くだけだった。
翌朝、一輝は昨夜の出来事を思い返し、不安な気持ちで一日を過ごした。夜が再び訪れると、また囁き声が聞こえてきた。彼は音の出所を突き止めようと決意し、薄暗い廊下を進む。廊下を進むたびに、「ギシッ」と床が鳴り、不気味な雰囲気が一輝の心を蝕んでいく。
「誰かいるのか?」一輝は声をかけたが、返事はなかった。
音に導かれるまま、一輝は屋根裏部屋の扉を開けた。扉が「キー…」と音を立てて開き、暗闇の中に足を踏み入れると、冷たい空気が彼の肌に触れた。古びた家具や埃まみれの雑貨が積み重なっている中、一輝は異様な寒気を感じた。背後で「カサカサ」と物を動かす音が聞こえ、彼は振り返った。
そこには古い日記が置かれていた。
日記を手に取った一輝は、その古めかしい表紙に指を這わせながらページをめくった。「カリカリ」と紙の音が静寂を破り、彼の手は震えていた。日記には、この屋敷に住んでいた家族が「影の囁き」に取り憑かれ、謎の失踪を遂げたことが記されていた。
一輝は次第に囁き声が鮮明に感じられるようになり、自分の耳元で「ササ…」と囁かれているかのように感じ始めた。
恐怖が一輝の心を満たし、彼はこの屋敷に何かが潜んでいると確信した。逃げ出そうとしたが、ドアは開かず、窓もびくともしなかった。囁き声はますます大きくなり、一輝の心は恐怖で支配されていった。必死に出口を探し続けたが、囁き声に包まれ、やがて意識を失ってしまった。
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