第9話 影の残響

佐々木一輝と霊媒師の斎藤真紀は、悪霊を一時的に封じ込めた後も、屋敷には不安定な静寂が漂っていた。彼らは、完全に悪霊を封じるための新たな手がかりを探し続けることに決めた。


一輝は、廊下に立ち止まって目を閉じた。鼻腔に漂う腐敗臭が、彼の意識を現実に引き戻した。目を開けると、廊下の壁が異様な緋色に染まっていることに気付いた。壁を触ると、まるで血が流れているかのような感触が手に伝わってくる。


「この屋敷にはまだ何かが潜んでいる…」一輝は小さな声で呟いた。彼は真紀と共に、屋敷の奥へと足を踏み入れた。彼らの歩みと共に、足元からは焦げ臭い匂いが立ち上ってくる。まるで何かが燃えているようなその匂いは、一輝の喉を刺激し、不安を煽った。


二人が地下室に入ると、光がちらつきながら明滅していた。真紀は呪文を唱えながら、周囲を見渡した。薄暗い光の中で、影が揺れ動いている。影はまるで生き物のように蠢き、一輝たちを取り囲もうとしているようだった。


「ここに何かがある…」真紀は確信を持って言った。彼女は手元の巻物を開き、さらに呪文を唱え始めた。その瞬間、部屋全体が青い光に包まれた。異様な青い光が、部屋の中央にある古びた石の台を照らしていた。


「一輝さん、ここを見て!」真紀の声に導かれ、一輝は石の台に近づいた。その上には奇妙な模様が刻まれており、青い光がその模様を強調していた。その光景に圧倒されながらも、一輝は台の上に手を置いた。


その瞬間、強烈な腐敗臭が一輝の鼻を突いた。甘い腐った果物のようなその匂いは、一輝の胃をひっくり返すほど強烈だった。彼は思わず後ずさりしたが、真紀は冷静に台の上を調べ続けた。


「この台は、悪霊の力を封じ込めるためのものだわ…」真紀はそう言い、呪文を唱え続けた。青い光がさらに強くなり、部屋全体が震え始めた。影が一層不気味に揺れ動き、一輝は背筋が凍る思いをした。


突然、青い光が強烈な閃光となり、部屋全体を包んだ。その中で、悪霊の姿が浮かび上がり、一輝と真紀に向かって吠えた。「これは…」一輝は驚愕の声を上げた。


次の瞬間、光が消え、部屋は再び静寂に包まれた。しかし、一輝の耳元には再び囁き声が響いていた。「何かがまだ残っている…」一輝は恐怖と不安に包まれながらも、真紀と共に最後の戦いに挑む決意を固めた。

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