第24話 春……香?

 

「えっと……え、妹?」

 鋭い目付きで私を睨むその娘……今……妹って言ったよね? ま、まさか! 死んだお父さんの……隠し子?


 そ、そうよね、お父さん社長だったもんね、よくあるよくある、あははははは、あ~~あショックだ、まさかお父さん……。

 私は空を見上げ天国のお父さんに心で叫ぶ……お父さんのバカ~~~~~!


「あの? 聞いてます?」


「ああ、うん聞いてる、聞いてるよ……ごめんね、うん……あなたも苦労したんだよね、うん、中学生なのにね、うん」


「は?」


「ううん、こんな事私が言っちゃいけないんだろうけど、うん……ごめんね」

 そうだ、私もショックだったけどこの娘はもっとショックだったに違いない。

 ああ、まだ中学生なのに自分の出生の秘密を知ってしまったのね、お父さんの身勝手に振り回されて……ごめんなさい。


 兄ちゃんの妹って事はつまり私の妹でもあるのだ。

 私はこの娘の姉、そうお姉さんなのだ。

 だから姉として、この娘の心のケアをしないといけないんだ!


「あの? 何で謝るんですか? てか中学生って?」


「え? いや、中学生なのに隠し子ってのを知ってしまうとか、悲劇だなって……私なら耐えられないかもって」

  うんそうだ、逆の立場なら……でも同情何てされたくないって気持ちもあるだろうし。


「は、はああああああああああ? 何言ってるんですか?」


「え?」


「私は高校2年です! そして両親共に健在です! 勿論連れ子とかでもありません!」


「……ええええ?」

 あれえ?


「もう一体何を言ってるんですか、ほんと失礼な!」


「ご、ごご、ごめんなさい、でも貴女が兄ちゃんの妹って言ってたから……つい」


 違うの? え、隠し子じゃないの? えええ、お父さん疑ってごめんなさい~~~~、でも……じゃあ何で妹?


「妹です! 海から、海お兄ちゃんに妹認定されましたから!」


「い、妹認定?」


「ええ、去年の学園祭、うちのクラスでやった演劇、『俺の妹がこんなに可愛いのは訳がわからない』っていうので海お兄ちゃんの妹役をやった時にそう言われました!」


「俺の……妹?」

  何? そのどこかで聞いたことあるようなタイトルは?


「その演劇凄く評判が良くて、それからクラス公認で私と海お兄ちゃんは兄妹になりました!、今年も私と海お兄ちゃんでその続編をやることになってます!」


「へえええええ」

 お兄ちゃんが演劇? 聞いてないよーー。


「そ、それが……この間突然海が……海お兄ちゃんが……やらないって、今年はやりたくないって言い出して」


「え?」


「クラスでも盛り上がっていた所なのに……何でって聞いても答えてくれなくて……だから私、色々調べたの……そうしたら……今年うちの学校に貴女が、海お兄ちゃんの本当の妹が入って来てるって聞いて……」


「あ……」

 私が入学したから。


「ねえ、貴女がそう言ったの? 貴女のせいなんでしょ? 海が突然そんな事を言ったのは、貴女がそう言えって海に、海お兄ちゃんに言ったんでしょ?」

 小さい身体を大きく見せるかの様に彼女は両腕を開いて私を威嚇しながらそう言う。


「えええ、私が? 何で?」


「何? 何でなの? 何でそんな事を言ったの? 悔しいの? 貴女が本当の妹だから?」

 いやいや知らない知らない、そんな事言ってもいない。

 知らなかったんだから言えるわけ無いよね?


「言ってない、ほんとに」

 私は首をブンブンと横に振って否定する。


「お願い、返して……私の、私のお兄ちゃんを返して!」


「いや、あの春香……さん、返せと言われても……」

 何が何やら……あああ、何かまた熱が…………。


「何なの? 何が目的なの? 貴女まさか海の事が好きなの?」


「え? えええええええええ?」


「分かってる? 実の兄妹は結婚出来ないのよ? 貴女海お兄ちゃん一生独身でいさせるつもり? 貴女と二人で?」


「いや、それは分かってる……」


「キモ……」


「え…………」


「実の兄妹で……兄の事好きとか……キモいって言ったの!」


「そ!」

  そんな事ない! って言いたかった、でも……出てこなかった、口に出せなかった。


「やっぱり……そうなのね……貴女が海を……海お兄ちゃんを……」


「……」


「何も言えないって事は肯定してるって事ね、やっぱりそうなのね、貴女がお兄ちゃんを誘惑してるのね、酷い、キモい、最低!」


「!」

 私は睨んだ、何も言えない、言いたくない……でも。


「な、何よ怖くないわよ! どっちが悪いのか貴女だって高校生にもなるんだから分かるでしょ! 実の兄妹で何てあり得ない!」


「く……」



「ほらご覧なさい、良いわ見てなさい、海お兄ちゃんは渡さない、結婚出来ない血の繋がっている兄妹より、私の方が良いって思わせるだけ、貴女なんかに、本当の妹になんかに私は負けない!」

 春香さんはそう言うと、私に背を向け歩いて行く。


 私は彼女に何も言えなかった……言いたくなかった。


「だって……私嘘は嫌いだもん……」

 兄ちゃんの事を好きかと言うことは分からない。

 でも……完全否定はしたく無かった。

 そして今日、本当は二人きりで旅行に行く事になっていたのだ。

 それを誘惑と言われれば、そうかも知れないと否定出来なかった。



「兄ちゃん……」

 兄ちゃんが書いていた小説……ひょっとして演劇の為?


「私……兄ちゃんの事……何も知らない……」

 兄ちゃんが分からない、あの小説の事も、春香という女の子を妹と言っていたという事も。


 そして……私の事を好きって言う事も…………


 私はそんな思いと体調の悪さで暫く動けず……そのままそこに佇んでいた。


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