第10話 兄ちゃんの後ろ


 高校生活がスタートして数日が過ぎた。

 相変わらず友達は少ないがやはり高校生ともなれば周囲はほぼ大人。

 小中が学生の時とは違い、特に放課後一緒に遊ばなくても友人関係を維持してくれる人は何人かいる。


 なのでボッチになる事もなく高校生活を送っている。


 ちなみにまだ部活に入るかはまだ決めていない。

 子供の頃から色々と習い事をしていたせいもあって、授業を終えて迄学校で何かをやろうとは思えない。


 そして今一番気になっているのは兄ちゃんの小説だ。

 現在それが私の中での最優先事項なのだ。


 その兄ちゃんの小説のネタになるイベントが遂に実行される日が訪れた。


 私は遂に兄ちゃんのバイクに乗れる日が来たのだった。



「はる~土曜日暇? 予定無かったらバイクで出掛けない?」


「え! うーーんどうしようかなあ?」


「は? はる乗りたいって言ってたよな?!」

 本当は凄く乗りたい、でも……ちょっと焦る兄ちゃんが見たかったのだ。


「まあ、行ってもいいけど」


「……そんなんなら別に」

 ヤバい、ちょっとからかい過ぎた。


「嘘嘘、乗りたい、スッゴク乗りたい」

 

「本当に?」


「うんうん、兄ちゃんが必死だからちょっと意地悪してみただけ、乗りたい乗りたい」

 私がそう言うと兄ちゃんの顔が急に明るくなった。

 本当に可愛いなあ、でも子供の頃に意地悪されている恨み取り出し、少なからず私に興味を抱いている事を知っている優越感から、どうしてもちょっと意地悪したくなっちゃうんだよね。


「じゃあ行くでいいな、予定空けとけよ、あ、でも天気が悪かったら中止な」


「大丈夫、大丈夫、私旅行とかで雨降った事無いから~~楽しみ~~」

 兄ちゃんが遂に後ろに乗せてくれると言った。

 免許取得1年は駄目と言われていたが、どうやら正式に1年経ったらしい。


 そして私はワクワクしながら週末を待った。

 

 あ、ちなみに兄ちゃんの小説だけど、春休み中は毎日更新していた。

 でもやはり学校が始まると更新頻度は下がり、今の所週1~2回になってしまった。


 そのせいか? ランキングも下がってしまいちょっと残念だった。



###



 そして週末になり、いよいよツーリングの日がやってくる。

 

 しかしその日の早朝は兄ちゃんの駄目出しから始まった。


「はる、その格好は何?」


「え? 春のファッション、お母さんの会社の最新コーディネートだけど、似合わない?」

 

「いや似合うけど、すごーく可愛いけど……」


「えへへへへ、ありがとう~~」

 

「いや、バイクに乗るんだぞ、何故ノースリーブのワンピース?」


「え? 今日は暖かいからだけど、ノースりおかしい?」


「いや、そうだけど、バイクって身体剥き出しだから寒いんだぞ、あと後ろに跨がるんだぞ?」


「うん知ってる、だからほら、下にデニム履いてるじゃん」

 私はそう言うと裾をちょっと持ち上げ履いているパンツを見せた。


「デニムはまだ良いけど、せめて上は俺みたいに革ジャン着て来てくれないかな? あとそのハンドバックは止めてリュックとかにしてくれないか?」

 リビングでヘルメット2つを持った兄ちゃんは私をじろじろ見ながらそう言う。


「あはははははは、兄ちゃん革ジャンて! 服屋の息子ならせめてライダースジャケットって言ってよ。あとリュックかあ、ライダースジャケットにリュックって格好悪くない?」


「悪かったな! 俺はファッションとか興味ないの! あるならそれ着て来て。ノースリーブは絶対に駄目だ。あとバイクって荷物あまり積めないんだよ、荷物を手で持ってると危ないから」


「はーーーーい」

 ちょっとキツイ言い方に若干イラっとするも安全を考慮するなら仕方ないち素直に言うことを聞く。

 全く、車と違って不便だなあ。

 何で自立出来ない乗り物にわざわざ乗るんだろう?

 

 なんて疑問に思いながら一度部屋に戻ってクローゼットを漁った。


 出かける前からこんな感じで先が思いやられる。


 そして私はワンピースからライダースジャケットに着替え、リュックはちょっといけてないので少し大きめのポシェットを肩にかけてみた。

 やっぱりちょっと今一だなあ、まあ仕方ない。

 リビングに降り再度兄ちゃんに服装チェックをして貰う。

 今度は合格らしかったので、一緒にバイクの元へ向かった。


 そしていよいよ初めて兄ちゃんのバイクに跨がる時が来た。


 座席は少し高い、身長の低い私はなんとかよじ登るように座った。


 すると兄ちゃんはヘルメットを私に被せ、顎紐を止めてくれる。


「おお、ピッタリ」


「キツくない?」


「大丈夫大丈夫」

 ヘルメットは快適とは言えないが、キツくも緩くもなくちょうどいいサイズだった。

 

 多少の不快感よりもわくわくの方が大きい。わくわく。


「よし! 乗ったか~~しっかり捕まれよ~~」

 私の前に座った兄ちゃんがヘルメット越しにいつもよりも大きな声でそう言う。


「えっと……どこに?」

 手すりとか付いてないよね?


「どこにって、俺の腰に決まってるじゃん」

 そう言われ私は咄嗟に叫んでしまった。


「えーーーーーー! それって兄ちゃんに抱きつくって事?」


「はあ? 今それ言う? そんなの分かってて乗りたいって言ったんじゃないのかよ」


「いや、まあそうだけど……」

 別に兄ちゃんに抱きつくくらいなんとも思わない……いや正確にはいままでならなんとも思わなかったけど、小説を読んで以降少し意識しちゃって、なんだか微妙に照れる。

 

 でも、私が身体を押し付けた時の兄ちゃん反応は少し興味がある。

 多分小説に書くだろう。


「いいから早く捕まれ、それとも止めるか?」


「はーーーい、行く行く、行きまーす」

 ヘルメットを被りながらだと声が聞こえにくいので、少々大きな声で私に命令してくる兄ちゃん。

 なのでなんか兄ちゃんに強制的に抱きつけって言われてる様な気になってくる。


 私は渋々で抱きつく振りをし、兄ちゃんの腰に捕まった。

 兄ちゃんは私が捕まったのを確認すると、エンジンを始動させる。

『キュルルル、バオン』という音が聞こえると、私の身体が小刻みに震えた。


「おお」

 その音と振動に思わず声が出てしまう。

 側で聞いた時と違い、乗って聞くとかなり迫力があった。

 

 更に排気ガスの臭いがヘルメットの中に入り込んでくる。

 いつもは不快な香りだけど、何故か今日はその匂いはあまり気にならなかった。

 

 兄ちゃんはミラーで私を確認し、更に周囲をキョロキョロと見て安全を確かめるとアクセルを開けエンジンを吹かして滑らかにバイクを走らせ始めた。

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