第11話 私はブラコン?
バイクは颯爽と街中を走っていく。
まだ家から近いので辺りは知っている景色だ。
家の近くの細い通りだから、自転車とそれほど変わらない速さで走っている。
身体が剥き出しだからか? 車よりスピード感がある。
いつも見ている景色なのに、ヘルメット越しでは全く違って見える。
兄ちゃんは安全運転に徹しているようで、スピード感はあるまだあんまり速度は出していないようだった。
こんな物かと思いながら暫く走っていると裏通りの狭い道路から大きな通りに出た。
すると兄ちゃんは車の流れに乗るように一気にバイクを加速させていく。
「ええええ? ちょ、ちょっと待って、やばい……怖い怖い怖い!」
スピードが出ると恐怖が私を襲ってくる。
慌てて兄ちゃんにそう言うが、エンジンと風の音に消されているのか聞こえて居ない様だ。
身体を剥き出しで大通りを走るのがこんなに怖いなんて。
私は思わず目を瞑り、兄ちゃんを力強く抱きしめる。
「ちょっと寒いんだけど、マジで怖い、乗り心地も最悪!」
肌が出ている場所に風が当たる。
寒い……もっと爽快だと思ってたが今のところ最悪の乗り心地だ。
何でこんなになってまでオートバイ乗りたいんだ?
『兄ちゃん無理、戻って』ってそう言おうか迷ったが、乗りたいって言ったのは私だ。
しかも服装に関しても兄ちゃんから指摘されていた。
それで止めてって言うのはなんか悔しい……。
私は怖いけど頑張って目を開け兄ちゃんの頭の後ろから前方を見た。
その時兄ちゃんは右折する為にバイクを傾ける。
私の身体も傾き景色も斜めになった。
「……あれ? なんか今の、気持ちいい……かも?」
横や下ばかり見ていた為か速くて怖いという印象しか無かった。
音はうるさいし、排気ガス臭いし、寒いし、何が面白いんだ? 車の方がよっぽど良いよって思った。
……でも今の感じ……なんかちょっとだけ良いかも?
兄ちゃんは緩いカーブをスピードを落とす事なく軽やかに曲がって行く。
「ほああああああ?」
なんかいい……フワッとなる感じが少し楽しい。
そしてさっきと違い前を見ていたらそれほど怖くなくなって来ている。
……いやむしろ……おもしろいぞ。
兄ちゃんの運転にも安心感が持てた。
勇気を振り絞り頑張って景色を見ていると、次第に面白くなって来る。
音にも匂いにも乗り心地にも、兄ちゃんに抱きついている事にも慣れてくる。
後は寒さだけだ。
これはどうしよう無い。
赤信号で止まった時、私は兄ちゃんに言った。
「ごめん兄ちゃん、ちょっとコンビニに寄って」
「何? トイレ? 行っとけよなあ」
「ちょ! 違いますう、乙女はトイレに行きません! いいから寄って!」
「はいよ」
そう言うと兄ちゃんはすぐ近くのコンビニに入ってくれた。
私はストッキングを購入し、念の為に持ってきたインナーを着てマフラーを巻き再び兄ちゃんの後ろに座る。
「やっぱり寒かったんだろ? 大丈夫か?」
「大丈夫、ちゃんと着込んだから、よし! 今度こそ準備万端、いけええ兄ちゃん!」
「お、おう!」
そう言って再び走り出す。
寒さは大分和らいだ。
怖さもない、匂いも音も慣れた。
そうなると爽快で気持ち良くなる。
どんどん楽しくなってくる。
そして兄ちゃんの運転が思ってたより上手かった。
技術とかよく分からないけど、なんかそう感じる。
ほら駄目だけど自転車の二人乗りってした事あるじゃない? で慣れてないから大抵フラフラして危なっかしい感じになるよね? でも兄ちゃんの運転にそんな感じはしない。
「ひょっとして、内緒で誰か乗せて練習でもしてたのかな?」
「ああ? 何か言ったか?」
信号で止まってたから兄ちゃんが私の一人言に反応した。
でも小さな声だったからちゃんとは聞こえてないみたい。
「ううん、なんでもない」
「なんか走ってると音がうるさくて会話が出来ないよな~~、今度無線機でも買うよ」
あ、それを知らないって事は……つまり誰かを乗せるのは初めてって事なんだ……私が兄ちゃんの後ろに初めて乗った人なんだ。
「そんなのあるんだ」
「うん、売ってるよ」
そう言うと信号が青になり発進、加速もなんか車と違い速くて気持ちいい。
ジェットコースターみたいな感じがする。
寒いけど、怖いけど……オートバイってなんか面白いかも?
……運転出来たらもっと面白いのかなぁ?
私も免許取るかなあ? でも私早生まれだからまだ当分先の話しだし、それに兄ちゃんの後ろってのが面白いし、今は独占出来るってのに優越感が……。
ちょっと嬉しいかも?
──あれこの気持ちって、なに?
ちょっと待って……あれ? 私ってひょっとして。
ブラコンなの?
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