第9話 肉じゃが
▽▽▽
妹が可愛い過ぎる……心配だ!
うちの学校は比較的女子が多い、だが男が居ない訳では決してない
今日は入学式、俺は妹が心配で一緒に付いて行くことにした。
勿論妹には入学式の手伝いで駆り出されたと言ってある。
うちの学校の入学式は学外の会場で行う。
妹と会場前で別れそっと会場の中を覗いた。
やはり女子が多い、中には綺麗な女子も多いが……うちの妹に比べたら大した事はない……
妹は1年生で……いや2年にも3年にも妹を越える女子は居ない、つまり学校で一番可愛いという事だ。
まずい、妹の争奪戦が始まるんじゃないか
俺はその辺の男子2、3人をとりあえず睨み心で妹に手を出すなと念のを送った。
俺の念が通じたのかその男子数人は俺から目を反らした……、これで妹に言い寄る男を3人撃退、あと何人いるか分からないが近日中に全ての奴等を抹殺……
△△△
入学式から帰って来るとそのまま部屋で寝転がりスマホを眺める。
ファッション系の動画を漁りつつちょこちょこと兄ちゃんの小説を覗いていると、夕方頃に更新されたので読んでいた。
「兄ちゃん……一体何してんの?」
そう言えば、なんか式が終わった後、会場の外に男子が数人集まってこそこそと話していたのを聞いた。
『なんかヤベエ奴居なかった?』
『あ、居た居た、式が始まる時すんげえ睨まれた、あれ先輩なの?』
『ネクタイがベージュだったから2年じゃね?』
『うちの学校ってわりと平和って聞いてたけど……ヤバいの居るな』
等と話していたんだけど、なんだろう、うちの学校って怖い人いるのかな~~って思ってたら……。
兄ちゃんですか……そうですか。
今すぐ兄ちゃんの部屋に行き、『何してんの!』と怒鳴りたかったけど、それは勿論言えるわけがない。
式が終わり会場の外に出た時、いかにも今俺も終わったよと言わんばかりに兄ちゃんが会場の前で手を降って待っていた。
あれ? 今日は準備だけ? 片付けは? と、その時ちょっと思ったけど、兄ちゃんがニコニコしながら私に話しかけて来たから聞きそびれちゃったよ。
だけど……そう言う事だったのか。
誕生日迄は兄ちゃんの小説はとにかく春が可愛いよ~~って感じだったし、春とのやり取りも面白く書いていたけど、昨日今日と何かもう……心配だ心配だのオンパレードだ。
なんかもうずっと……春に言い寄って来る男子が居ないか? とか、春に好きな人が出来たらどうしようとか、私……ちょっと引いてる……ううん、今日のを見て大分引いてる。
こんなんじゃと不安になりつつ小説のランキングを確認すると案の定。
「あーーあ、折角7位まで上がったのに、10位まで落ちてる……まああれじゃ駄目だよな」
感想にも、『ちょっとお兄ちゃんが怖いです……』なんて書かれてるし。
まあ、とりあえず兄ちゃんは心配しているようだけど一応彼氏を作る気は今の所無い……好きな人が出来たら別だけど。
「私に好きな人が出来たら兄ちゃん泣くかな? それとも俺と付き合えとか言われたりしてえ」
試しに言ってみたらどうなるのか? その時にの兄ちゃんの小説はなんて書かれるのか?。
凄く読んで見たくなる。
「あはははは、私ってSなのかな?」
彼氏どころか好きな人も居ない今でさえ、ああなんだから、そんな事言った日にはもうどうなる事か。
妹と付き合うなら俺を倒してからにしろ! なんて言っちゃう中ボスみたいなキャラになりそう。
「少しコントロールした方が兄ちゃんの為な……ううん、兄ちゃんの小説を読む人の為かなぁ?」
このままだと小説じゃなくなっちゃうよね、既に小説と言うか妄想日記みたいになってるし。
これは何とかしないと……。
そう思いながら私は部屋を出るとリビングに赴く。
案の定兄ちゃんはリビングに居た。
ガラス窓の付いた扉をゆっくりと開ける。
兄ちゃんはソファーにだらんと足を伸ばして座り、リラックスしながらスマホで何か書いてる。
多分小説を書いているんだ……。
そうか兄ちゃんスマホでも書いてるんだ……さっきのって入学式の最中に書いてたのかな? それにしても私が入って来ても気付かないって……凄い集中力だな。
「兄ちゃん~~夕御飯どうする~~?」
感心するもここでずっと見ていてもしょうがない。
そろそろ夕飯どうするか聞かないといけなかった。
夕飯は特に当番制とかにはしていない、基本作りたい方が作る。
両方嫌な時は何か注文をしたり、食べに行ったりしている。
「うお!? び、びび、びっくりした!」
兄ちゃんはそう言うと慌ててスマホの画面をオフにした。
「何慌ててスマホ隠してんの? メール? エッチなサイト? それとも遂に彼女でも出来た?」
兄ちゃんの小説の事は知らないし、勿論見てもいないよって事をアピールする為にわざとそう言ってみた。
「この間居ないって言ったばかりだろ?!」
兄ちゃんは少し剥きになり被せ気味にそれを否定した。
「大丈夫だよ兄ちゃん、三日もあれば彼女なんて簡単に出来るよ! 男子三日会わざれば刮目して見よってことわざもあるでしょ?」
「毎日会ってるじゃん……、でも詳しいな、マンガしか読まない癖に」
「えーー最近は小説も読んでるよ!」
「へえ~~はるがねえ、最近どんな小説読んだんだ?」
「最近は、いも……」
あ! まずい、つい兄ちゃんの小説のタイトルを言おうとしちゃった。
「いも?」
ど、どうしよう、いも、妹に告白? 妹魔王? 妹さえ? いや……妹ってタイトルの小説は全部まずい……えっとえっと……。
兄ちゃんは不思議そうに私をじっと見つめている。
ヤバい、ヤバい、なんとか誤魔化さなければああああ!
「い、い、いも……芋の煮っころがしの美味しい作り方?」
「それは小説じゃねえよ!」
「あははははは、レシピ本だねえ、じゃあ私が今日はご飯を作ろう、冷蔵庫に里芋は入って無いから肉じゃがでいい?」
「何だよ急に、別に作ってくれるなら俺は何でもいいけど、小説はどこ行っちゃったんだよ?」
「えっとお腹空いちゃったから、また今度ね、さあ急いで作らないと」
そう言って私は誤魔化す様にキッチンに向かった。
あ……危なかった……何とかなった……かな?
「うーーーーん、でも……小説のコントロールをしようと思ったけど、簡単には行かないよな~~、彼氏を作る気無いとかどうやって言えばいいんだろう……」
冷蔵庫から人参とじゃがいもを取り出し皮を剥きながら今後の事を考えて見る。
要するに今はそう言う気持ちが無いって言えば兄ちゃんも少しは安心するし小説も安定するよねえ?
とはいえ、いきなり『兄ちゃん私彼氏作る気無いから!』何て言う訳には行かないし……。
「うーーーーん困ったなあ」
肉じゃがと、ついでに卵焼きとお味噌汁を作りながら色々と考えては見たものの、いいアイデアは思い付か無かった。
そしてそのまま何事も無く兄ちゃんと夕飯を食べ、私は部屋に戻った。
「あーーあ、結局私に兄ちゃんのコントロール何て出来ないんだよな~~」
そもそも私が知ってるという事は絶対にバレてはいけない。
バレたら兄ちゃんは筆を折りかねない、いやそれどころか私達の関係も危うくなる。
一緒に住んでいるのに気まずくなるのは絶対に嫌だ。
今の仲の良い関係はとても心地好いって思っている。
そして兄ちゃんの小説も今は続きを凄く読みたい気持ちで一杯だった。
兄ちゃんに才能があるとかは分からないが、少なくとも、私は楽しく読ませて貰っている。
そして私以外にも兄ちゃんの作品を読んでいる人がいる。
中には感想迄書いてくれる奇特な人もいる。
だからその人達の為にも、私が読んでいる事は絶対バレてはいけないのだ。
私はそのリスクを負ってまでコントロールをする何て事は止めよう……そんな事するくらいなら、このままでいい……そう思いながら眠りに付いた。
そして翌朝……兄ちゃんの小説には、昨日迄の暗いグズグズした話しとは一転、妹が……春が肉じゃがを自分の為に作ってくれた、うちの妹は最高だ!という明るく楽しい話が書かれていた。
私はそれを読んで、朝から大笑いしてしまった。
「肉じゃがって……恋人に作って貰いたい料理の上位だっけ? 確かに今まで作った事無かったけど……あはははははは、兄ちゃんて単純だ~~」
でも元気が出て良かった。
これでまた面白く可愛く書いて貰えるかも知れない。
そして言葉じゃなくて、行動でなら兄ちゃんにバレずにコントロール出来るかもと……そんなヒントの様な物を得た気がした。
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