第8話 独占欲



 誕生日の翌日、おそらくカーテンの隙間から射し込む日差しからまだ明け方だと推測される。

 そんな時間に目を覚ました。


 明日は入学式なので元々早く起きようとは思っていたけど、さすがに早起き過ぎる。

 今日は明日の為に色々と準備が必要なのだ。

 お肌や髪の手入れ等いつもよりしっかりやらなければならない。

 やっぱり第一印象は大事だから。


 

 でも流石にまだ早いといつもなら二度寝と決め込むのだけど、今の私はそんな事よりも兄ちゃんの小説が気になって仕方がなかった。


 昨夜は眠くなる寸前迄待っていたが、兄ちゃんの小説が更新されることは無かった。


 私は薄暗い部屋の電気を点けると直ぐに枕元に置いてあるスマホを見る。

 表示されている時間を確認する間もなく、ブックマークにある兄ちゃんの小説のトップページを開いた。


「来た……更新されてる」

 ドキドキと高鳴る鼓動をこらえ、私はベットから飛び降りると、机の前に座り姿勢を正しくして、兄ちゃんの小説を読んだ。


 どんだけ必死なんだよって自分に突っ込みながら。


▽▽▽


制服


 妹の事を意識をしたのは……多分彼女が中学に入学するときだった。

「お兄ちゃん見て見て」

 俺の誕生日の翌日そう言いクルリと回る妹に衝撃を受けた。

 妹の事はだいぶ前から好きだったがその時は、それの数倍、いや数万倍、堪らなく成る程いとおしくなってしまった。


 そんな妹は俺に誕生日プレゼント何がいいと聞いてきた。


 物は要らない、一番欲しい物は妹自身だ。

 春をずっと抱き締めていたい。

 でも当然そんな事は言えない……。


 どうすれば良いのか? 俺は考えた、

 そしてその時の中学の時の制服姿の妹を思い出した。


「春の制服姿が欲しい……」


「えーーー私の制服が欲しいってお兄ちゃん変態さんなの」

 実はそうだった……本当は春の中学の時の制服が欲しかった。

 でも、春にそう言われ即座にそれを否定する。


「え?! いや、違う違う、春の制服姿を高校の制服を1日俺だけに見せてくれないかって事だよ」

 俺は慌てて言い換える。

 嫌われたく無いから……春にだけは絶対に。


「うーーんよく分からないけど、そんなので良いの?」


「うん、それ今一番見たい物だから」


「分かったよお兄ちゃん、あとは私の手作り料理をプレゼントするね」

 そう言ってくれた妹、明日は最高な1日になる予感がする。


 そして翌日、外出先から家に帰ると春が制服姿で俺の前に立っていた。


 「どう?」赤い顔で微笑みながらそう聞かれる。

 俺は硬直し言葉が出ない状態だった。

 可愛い過ぎる……愛し過ぎる。


 精一杯の言葉を振り絞りどうにか「似合っている」と一言だけ言えた。

 本当はもっと誉めたかった。

 もっと称えたかった。


 世界中に春の可愛さを伝えたいくらいだった。


 この制服姿の妹を今日見れるのは俺だけ、誕生日プレゼントは独占欲を満たしたかった。

 俺だけの妹……明日にはもう皆の物になってしまうが、今日だけは……俺だけの妹。


△△△



「兄ちゃん……それで……」

 私の制服姿で誕生日祝いをして欲しいという事が兄ちゃんにとってどういう思いだったのかずっと気になっていた。

 独占欲……私はそれを知って凄く恥ずかしかった、そして凄く嬉しかった……

 そして私はこの物語のお兄ちゃんの事が凄く愛しく思えてきてしまった。


 そう……この人は物語の中のお兄ちゃんで、現実の私の兄ちゃんではない。

 これはあくまで作り話し、私がお兄ちゃんに直接言われた訳ではない。

 ……これが兄ちゃんの本心かは分からないのだ。


 更新された話を全部読み終えると、ランキングをクリックしてみた。


「ふぁ?! 7位……凄い……」

 兄ちゃんの小説が恋愛ランキング7位、総合でも200位以内に入っていた。


「す、凄くない?」

 私達の物語がどんどんとネットに日本に世界に広がっていく。

 ちょっと大袈裟だけど、そんな感覚に私は陥ってしまった。

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